C053 ケイレブ・カー

作家番号： C053	作家：ケイレブ・カー	Carr, Caleb
	国籍：アメリカ合衆国	生没年：1955/8/2～
ニューヨーク生まれのアメリカ人小説家、軍事史研究者。ルシアン・カー（だれ？）の息子。

管理番号	書　　名		メ　　モ
C053-001	メアリ女王の個人秘書		300年以上昔の悪夢とホームズ

		Ver. 2.16

管理番号：C053-001	42 シャーロック・ホームズ・ノベル			出版社：学習研究社
書名：メアリ女王の個人秘書		シャーロック・ホームズ		ISBN4-05-403103-X
原題：The Italian Secretary　（2005）
翻訳：小川美千枝		価格：￥1800	ページ数：319P		本のサイズ：135×190SC
初版発行：2006/12/12		購入：2007/1/15	表紙イラスト：木内達朗

　メアリ女王の個人秘書事件、と言う歴史上の事件をまず説明する必要がありそうです。
　メアリ女王というと、最初に思い出したのがイギリス・チューダー王家のメアリ一世（1516～1558　在位1553～1558）でした。ヘンリー8世の娘でエリザベス一世の前の女王です。反宗教改革を押し進めてブラディ・マリーというカクテルで名を残しています。
　しかしこのメアリはそれではない人です。メアリ・スティアート（生没年1542～1567）、スコットランド女王（在位1542～1567）、フランス王フランソワ2世妃（1559～1560）、エリザベス女王のイギリス王位を狙ってはたしえず、ついに反乱罪に問われて処刑されました。
　その彼女が、精神的な孤独に耐えかねて頼った相手が、イタリア人の音楽家でメアリに秘書として仕えたダヴィッド・リッツィオでした。その彼が当時のメアリの夫ダーンリー卿の命によって、残酷な方法で虐殺されたのが1566年。場所はホリルードハウス。スコットランド、エディンバラにある、のちにイギリス王室の別荘となったところです。

　このホリルードハウスで、過去の亡霊が甦ってきたかのように摩訶不思議な方法で、ふたりの人間が殺されました。時代はむろん、ヴィクトリア女王の時代、1880年代。
　ヴィクトリア女王ほどたくさんの暗殺未遂があった英国君主は珍しいかも知れません。その原因について、社会の混乱や民族主義の台頭とか帝国主義諸国家の陰謀とか、いろいろ原因はありましたが、暗殺未遂者への寛大な処分が馬鹿どもを台頭させた事も理由のひとつだそうな。
　この事件も、そこへ至る可能性がある。となれば、女王の忠僕たちとしてはそれを防止する義務がある。そこで、運動とか習慣を変えることなどが大嫌いなマイクロフト・ホームズが乗り出す必要があり、国家の下僕などではない事が誇りであるその弟シャーロック・ホームズも否応なしに呼び出されたということになる。
　事件自体は、イギリス国家の新しい側面を見せてくれたような感じで、それなりに評価はできます。

　しかし、一読していくつか納得できないところが。

　この本はそもそも、「ベーカー街の幽霊」という名でまとめられたホームズ・アンソロジーのひとつとして依頼されたものだそうです。条件としては、ホームズとワトスンの新しい冒険で、超自然的なテーマを持っていることでした。だから、幽霊とか、前世とか、過去の亡霊とかが出てくるのでしょうね。しかし、断固として現実を踏みしめていた現実主義者のホームズというイメージがあるぼくにとっては、取り巻く舞台に何があろうと、こういうものに左右されるホームズは違和感がありますね。霊魂の存在を大まじめに語るホームズなど見たくない。
　マイクロフト・ホームズが軽すぎる。この人はもっと重い人だと思っていました。体重が重いだけじゃなく、存在感もね。
　これは翻訳にも責任があるかも知れない。ホームズやワトスンが「ぼく」というのはまあいい。しかしマイクロフトが「ぼく」というのは、勘弁して欲しい。ホームズより7最年長であったと言うだけではなく、堅実な会計監査係であり、時には国家としての判断を自らすることもあったという国家の重鎮にしては、あまりに軽すぎる。
　また、最後のページの、アンソロジーの編集者の一人であるレレンバーグのあとがきはどうなのかなぁ。ホームズの紹介はよいのだけれど、聞いたこともない著者ケイレブ・カーの推理小説に出てくる主人公の名前をホームズと比べられても、なにこれ、と言いたくなるだけでした。ラズロ・クライズラー博士なる探偵がワトスンと出会っていたらどうだっただろう、などと聞いても、全然面白くもありませんよ。

　じゃあ読むなよ、と言われればごもっともなのですけどね。(笑)　　　(07/4/6)