A048 ガイ・アダムス

作家番号： A048	ガイ・アダムス	Adams, Guy
	国籍：イギリス	生没年：1976/1/6～
シャーロック・ホームズ研究の第一人者（どんな規準で？）。BBC制作のジェレミー・ブレット主演の『シャーロック・ホームズ』のガイドブックや、同じくBBC制作のベネディクト・カンバーバッチ主演の『SHERLOCK』のガイドブックの執筆を手がけている。

管理番号	書　　名		翻訳者	メ　　モ
A048-001	シャーロック・ホームズ神の息吹殺人事件		富永和子	オカルト世界のホームズ

		Ver. 3.01

管理番号：A048-001

42 シャーロック・ホームズ・ノベル

出版社：竹書房

書名：シャーロック・ホームズ神の息吹殺人事件			ISBN978-4-8124-8895-9　C0197
原題：The Breath of God（2011）		翻訳者：富永和子
竹書房文庫あ7-1	価格：750Yen	ページ数：296P		本のサイズ：文庫
初版発行：2014/10/2	購入：2014/10/3	Originar Cover Design by Amazing15.com 日本版カバーデザイン：石橋成哲

　「・・・いいかい、ワトソン、人の頭脳はゴムでできているわけではない。無意味なたわごとを片っ端から詰め込むなどもってのほかだ。基礎的な事実を注意深く取捨選択しながら集めてこそ、正確な判断を下せるのさ」
　「で、われわれの依頼人候補に関するきみの正確な判断とやらは？」
　ホームズはその男の名刺をテーブルに飛ばし、窓の外に目をやった。「事実は時が明らかにするだろうが、論理的にはペテン師か愚か者だな」（P16）

　この名刺に書かれていた名前は、ジョン・サイレンス博士。心霊医師を名乗る裕福なロンドンの医者で、医学的な知識と共に精神的な領域でも高名を、あるいは悪名を持った人。
　愛妻メアリを失ってベーカー街に戻ってきたわたし、ジョン・ワトソンは、不機嫌なホームズをもてあましつつ、この奇妙な人物の訪問を受けます。

　さてこのジョン・サイレンスという人物。心霊ハンターとして他の物語で有名なのだそうな。こういうオカルティックな背景をもつ人物が出たとたんに、私的には趣味の関係で嫌悪感に近い反発が出てしまったのですが、ここは我慢。とりあえず、読んでから考えよう。
　このサイレンス博士は、アルジャーノン・ブラックウッドという作家のホラー作品に出てくる登場人物だそうな。さらにこの物語にはもう二人、その筋では有名らしい人物が出てきます。心霊探偵として名高いトマス・カーナッキ。ウィリアム・ホープ・ホジスンの作品に登場したキャラクター。そしてジュリアン・カースウェル、M・R・ジェイムズの作品に出てくる悪漢だそうな。
　ホラーやオカルトに縁遠い鐵太郎は、どれも読んだことはありません。だからコメントしようがない。

　ジョン・サイレンス博士が持ち込んだのは、彼が昔治療したことがある水夫の娘のこと。悪魔に取り憑かれたように、ときどき狂気に陥るようになってしまったらしい。そして、三つの名前を、年に似合わない老婆のような声で告げたそうなのです。
　ヒラリー・ド・モンフォール、ボレスキンの領主、そしてシャーロック・ホームズ、と。
　毒舌を吐いてサイレンス博士を追い払ったあと、ワトスンの叫びにホームズは目を剥く。
　先ほどの三人のひとり、ヒラリー・ド・モンフォールが異様な状況で殺されている、という新聞記事があったため。
　さあ、これは何を意味するのか。ホームズへの誘いか。

　「三破風館」に登場したゴシップ屋のランデール・パイク、ホームズがおそらく唯一認めるスコットランドヤードの刑事グレグスンなど、ホームズ譚お馴染みの登場人物も絡め、事件は進みます。
　ド・モンフォールが、〝神の息〟と呼ばれる不思議な現象の中で死んでいたことが懐疑主義者でオカルトを信じないホームズを困惑させましたが、ド・モンフォールと同じ「黄金の夜明け団」のメンバーであるバーソロミュー・ラスヴニー卿が、これまた異常な状況の中で死んでいることが発見されると、物語はべつの様相を呈してきます。サイレンス博士はさらに、これら両方の事件には明らかに〝神の息〟が絡んでいると主張します。
　さらに列車の中に現れる怪奇現象。カーナッキと名乗る若者。「糸」。
　物語はますますオカルトめいてくるのでした。いったい何があるのか。〝神の息〟とはどんな現象なのか。

　お話はなかなかスリリングです。次から次へとアクションが展開していき、飽きさせません。
　ここで、送電線がない蒸気機関車の中で電報を受け取った（P161)という描写さえなければ、それなりに楽しめたんです、ホント。
　そこから、お話の中に、ヴィクトリア時代という背景を考えると無茶苦茶な設定.があちこち見うけられちゃいました。だめだ、こりゃ。

　オカルトやホラーは趣味ではない事は差し引いても、シャーロック・ホームズのまともなパスティーシュなら、時代背景に関して整合性をもって欲しい。これは鐵太郎のホームズ・パスティーシュを選ぶときの最低条件です。ドラキュラが出ようが悪霊が出ようが、精神を狂わすガスがあたり一面に充満しようが、多少の逸脱は目をつぶります。でも基本あの時代のテクノロジーや社会的制約を無視しないで欲しい。
　「どんなものにも偏見を持たずに取り組むべきだ」　というワトスンの言葉は正しいけれど、ね。

　惜しいね。（2015/3/14）