A060 ウォルター・アルバレス

作家番号：A060	ウォルター・アルバレス	Alvarez, Walter
	国籍：アメリカ合衆国	生没年：1940/10/3～
カリフォルニア州バークレーに生まれ。1962年にミネソタ州カールトン・カレッジで地質学の学位を修得、1967年にはプリンストン大学で博士号を修得。　アメリカ合衆国の地質学者。現在はカリフォルニア大学バークレー校にて、地球および惑星科学の教授を務めている。父親は、ノーベル物理学賞を受賞した物理学者ルイス・ウォルター・アルバレス。　父親とともにK-T境界におけるイリジウムの過剰濃集の発見と、隕石の衝突による大量絶滅のシナリオを発表したことで知られる。　祖父のウォルター・C・アルバレスは高名な医師であり、曾祖父のルイス・F・アルバレスは、ハワイにおいてハンセン病の診断法の普及に尽力した人物として知られていた。また、大叔母のメーベル・アルバレスもカリフォルニア州では著名な画家として知られていた。

管理番号	書　　名		翻訳者	メ　　モ
A060-001	ありえない138億年史		山田美明	新たな「総合科学」の系譜なのかな。

管理番号：A060-001

55 技術史・科学史　　　

出版社：光文社

書名：ありえない138億年史

宇宙誕生と私たちを結ぶビッグヒストリー

ISBN978-4-334-77060-0　C0120

原題：A Most Improbable Journey（2017）
　　　（ A Big History of Our Planet and Ourselves ）

翻訳者：山田美明

光文社未来ライブラリー 0010　Mア-1-1

価格：1100Yen

ページ数：408P

本のサイズ：文庫

初版発行：2022/8/20

購入：2022/8/11

カバー装画：ルネ・マグリット『ピレネーの城』
提供：アフロ

　これは、父親と共に「隕石衝突説」によって6500万年前に恐竜が絶滅した原因を特定したウォルター・アルバレスが描く、宇宙の誕生から現在の人類の繁栄までの138億年に渡る歴史を綴った科学エッセイです。
　また副題にあるように、この歴史が人類の誕生と進化にとって如何なる意味を持つかも中心テーマとしています。

　第一章で語られたことは、隕石落下説のこと。全世界の白亜紀と第三紀の堆積岩の境界面にイリジウムが大量に含まれている事をもとに、アルバレス博士とオランダのヤン・スミット博士は別々に、6600万年前に起きた地球生物の大量絶滅の原因は巨大な彗星か小惑星が地球に衝突したために起きたのだ、という説を提唱しました。それ以後、彼らはこの説を補完する証拠を求め続けます。
　まず見つかった説得力ある証拠は、イタリアの地質学者サンドロ・モンタナーリが発見した白亜紀と第三紀の境界の堆積層の中にある小さな丸い物体。同じものをヤン・スミット博士も発見します。これは、衝突の熱で溶けた岩の飛沫からできたものであり、地球大気圏の外まで吹き飛ばされたものが大気圏に再突入して地球に落ちたものと推定されました。
　その後、決定的な証拠が発見されます。それは、落下した痕跡であるクレーターで、メキシコで発見されました。正確には、隕石落下の痕跡を示す輪状の地質的に特殊な地形です。
　それは、1830年代にイギリスの地質学者チャールズ・ライエルが提唱した「斉一説(せいいつせつ)」、地球の過去の変化はいずれもゆっくりと進んだという主張への挑戦でした。むろん百年以上科学界を支配した考えを覆すには時間がかかります。

　そこで博士は考えました。彼ウォルター・アルバレス博士は地質学者で、その視点からこの隕石に起因する生物の大量絶滅を提唱したのですが、今後こういった歴史を考えるには、もっと幅広い多くの科学の分野にまたがった考察が必要なのではないか。そこに、オランダの生化学者にして人類学者であるフレット・スピールから来た手紙の中にあった言葉、「ビッグヒストリー」が目に入りました。これは、歴史の極端な細分化に異を唱えるもので、そこに心を引かれたのだそうです。
　博士は、バークレー校の大学院生デヴィッド・シマブクロ、ローランド・セコウらと共にビッグヒストリーの概念を押し進め、マイクロソフト・リサーチの協力の元でビッグバンから現在までのどの時空間にもズーム可能な歴史年表を作成し、「クロノズーム（ChronoZoom.com）」という名称で公開しました。
　博士はこのビッグヒストリーを大学で講義するにあたり、宇宙、地球、生命、人間の四つの領域に分けましたが、最初の三領域を研究する自然科学と、第四の領域を研究する人文・社会科学との間の学術的な隔たりについても考慮しています。ここを埋めるのは実に難しいが、挑戦するだけの価値がある、という心意気や良し。

　この本はこのあと、
　第2章ビッグバンから地球誕生まで／第3章地球からの贈りもの／第4章大陸と海洋を持つ惑星／第5章二つの山脈の物語／第6章古代の川の記憶／第7章人間の身体に刻まれた生命の歴史／第8章大いなる旅路／第9章人間という種の特徴
　という8つの章にまたがって、よく考えるとあり得ないこの世界の、宇宙の歴史、地球の歴史、生物の歴史、人類の歴史が語られます。

　これって、かつてアシモフが科学エッセイで試みた手法じゃないかな？　そして、一時あぶくのように現れていつの間にか消えた総合科学(ネクシャリズム)の復興なのかな？
　だとすると、もっと注目されていいよね。

　個別案件については、知識・科学オタクの技術屋（つまりボクだ）にとって目新しい情報はほとんどなかったけれど、パノラマ的な視点で大きな歴史を捕らえようとする考え方は楽しいね。こういう本がもっと普及して欲しいなぁ。
　面白かった、これ。（2025/4/29）
　
　読書メーターの記録より　　読了：2022/10/25　