C045 ジェイムズ・H・コッブ

作家番号： C045	ジェイムズ・H・コッブ	Cobb, James H.
	国籍：アメリカ合衆国	生没年：1953～
米海軍研究所のメンバーとして軍事史と軍事テクノロジーを研究。　アマンダ・リー・ギャレットもので有名。

管理番号	書　　名		メ　　モ
C045-001 C045-007・008	ステルス艦カニンガム出撃隠密部隊ファントムフォース（上・下）		特殊部隊指揮官アマンダ・リー・ギャレット

		Ver. 2.23

管理番号：C045-001

25 軍事・政治スリラー

出版社：文藝春秋

書名：ステルス艦カニンガム出撃	アマンダ・リー・ギャレット　1		ISBN978-4-16-721854-2 C0197
原題：Choosers of the Slain　（1996）		翻訳者：白幡憲之
文春文庫　コ11-1	価格：781Yen	ページ数：504P		本のサイズ：文庫
初版発行：99/11/10　第7刷：01/9/5	購入：2001/11/23	表紙イラスト：野中昇　デザイン：石崎健太郎

　近未来を舞台にしたハイテク軍事スリラーっていうものは、精緻に書かれれば書かれるほど、その時代を過ぎたあとでは現実とのギャップが気になるもの。1996年に、2006年の「近未来」を描いたこの物語はどうでしょうね。
　書かれたときは、湾岸戦争が終わって、世界のパワーバランスが完全にアメリカ中心になったとアメリカ人が信じた時代。我らこそ本当の正義であると思い、世界の警察官として世界の平和を守ろうとしていた時。
　9.11で、世界がもう一度大きくシェイクされるとは、思ってもみなかった頃です。

　主役となるのは、まず最新鋭のカニンガム級ミサイル駆逐艦＜カニンガム＞　DDG-79。全長580フィート。
　艦のモットーは「ストライク・イン・ステルス（ひそやかに撃て）」。愛称「デューク」。
　ヴェトナム戦争時の海軍の撃墜王、ランディ・“デューク”・カニンガムから艦名を取っているようですが、このデューク氏、2005年に収賄容疑で議員辞職し、逮捕されて服役しているとのこと。
　5億ドルをかけて最新鋭のステルスシステムを搭載した大型駆逐艦で、単にレーダー反射をおさえるだけでなくアクティヴに自分のレーダー画像を変化させることができ、視覚的にもダークグレイの塗装やその形状でローヴィジビリティを維持しています。搭載砲は二門だけですが、世界最高峰のオート・メラーラ 76mm砲。搭載ミサイル類としては、ハープーンII型、スタンダードHARM、シーSLAM、対潜SCM、強化シースパロー。それからプレイヴ遠隔操作無人機と、軌道衛星破壊用のゼニス弾。さらに対潜・攻撃ヘリSAH-66「シー･コマンチ」2機搭載。なぜか、潜水艦などに使われるマッシュルームアンカーを備えています。
　スペック上は最高速度35ノットだが、4万5千馬力の電動モーター二基で44ノットを超える速度を出す。
　しかも、海洋史においてもっとも耐候性のある艦船の一つなのだそうな。

　もう一つの主役が、指揮官であるアマンダ・リー・ギャレット海軍中佐。この時点で35歳。歴戦の男ウィルソン・ギャレット退役海軍少将の娘。1992年アメリカ海軍士官学校卒、997名中23番。海軍功績章、名誉負傷章、海兵隊勲章、その他表彰多数。05年6月より＜カニンガム＞艦長。
　素晴らしい能力と経歴を持つ女性士官で、素晴らしい最新鋭艦を与えられ、一致団結した素晴らしい乗組員を持ち、容姿端麗で肉体的･精神的に人に劣るところなし。さらにリオデジャネイロの海岸で出会った肉感的で素敵な青年が、実は新しく配属されたヘリコプターのパイロット（大尉）だったりすると、もう公私ともに言うことなし。

　では、この最強主人公たちはどうすればいいのか、ということで、舞台になったのは地球上でおそらくもっとも過酷な場所。ホーン岬の南、吠え猛る南氷洋。「敵」は、フォークランド以来じっと牙を研いできたアルゼンチン空軍と海軍の大軍。
　アルゼンチン大統領がある日突然、俺たちの国は南極を開発する権利がある、と宣言して他国の南極基地を占領します。さらに恒久的基地を作るために強力な護衛をつけた輸送船団を出港させたのでした。このとき、これを遮ることができる位置にいたのは、たまたま＜カニンガム＞しかいなかった。数日経てばアメリカ、イギリスの強力な機動艦隊が到着しますが、その前に＜カニンガム＞は世界の平和を乱すアルゼンチン軍を、ただ一隻で食い止めなくてはならない。
　なんやかやいろいろもっともらしい説明はありますが、南米ABC三国、つまりアルゼンチン、ブラジル、チリが仲がいい所から始まって、ラテン系のマッチョたちの女性蔑視とか、男女がほぼ同じ割合で偏見もなく軍務につくアメリカ軍とか、こりゃあ軍ヲタのお伽話の世界ですね。

　かくて＜カニンガム＞は、過酷な環境の中で、自ら国家と世界平和のために、犠牲を顧みず戦うのであります。部下を思う艦長の思いも空しく、たった一人ですが犠牲者も出てしまい、艦内は悲嘆の声が満ちます。これが戦争だ、しかたない。
　敵軍は、＜カニンガム＞の正義を守る攻撃によって数千の死傷者が出ていますが、それはもちろん世界の平和のためにはしかたがない。
　アメリカの正義が高らかに謳い上げられた、ちょっと古き良き時代の仮想戦記ですね、これ。
　そう思って楽しみましょう。　　（10/3/17）

		Ver. 2.10

管理番号：C045-007・008	25 軍事・政治スリラー			出版社：文藝春秋
書名：隠密部隊ファントムフォース(上)					ISBN4-16-770518-4 C0197
原題：Phantom Force（2005）			文春文庫コ11-7
翻訳：伏見威蕃		価格：￥657	ページ数：377P		本のサイズ：文庫
初版発行：06/3/10		購入：06/3/11	表紙イラスト：野中昇

書名：隠密部隊ファントムフォース(下)			ISBN4-16-770519-2 C0197
原題：Phantom Force（2005）		文春文庫コ11-8
翻訳：伏見威蕃	価格：￥657	ページ数：399P	本のサイズ：文庫
初版発行：06/3/10	購入：06/3/11	表紙イラスト：野中昇

　前作と同じ舞台、東南アジアです。政情不安なインドネシア。
　時は2008年9月。
　宗教と政治、多民族国家の内紛がくすぶる台風の目。
　密かに進む陰謀。

　世界の敵、平和の敵を考えるのが大変なようですね。単純にテロリストを悪に仕立てるとしても、いまやテロリストにも家族があり、愛する故郷があり、守るべき大義があり、価値観は多様。
　誰を悪の手先にすべきなのか、大変ですね。

　さてこのシリーズは、1996年から近未来を舞台にして書かれています。その間の世界の激動は、抜けているわけです。それをカバーしようとしてか、この巻では9.11事件（2001年・ニューヨーク）のことをさりげなく挟み込んでいます。苦労していますね。

　主人公は、ホーンブロワーの再来と言われたアマンダ・リー・ギャレット。
　シリーズのはじめは特殊な対地攻撃用ステルス駆逐艦＜カニンガム＞の指揮官で、型破りな中佐に過ぎなかったのですが、いまや数隻の艦艇からなる特殊部隊を指揮する大佐です。
　今回指揮するフネは、第一次世界大戦時のQシップの現代版、と言うかなんというか。
　外観は撤積（バラ積み）貨物船＜ギャラクシー・シェンナドー＞。載貨重量6万6千トンという大型船です。パナマックス型、つまりパナマ運河を通るぎりぎりの幅と言うことですので、32メートル以下です。全長は270メートル前後。戦艦アイオワ級とほぼ同じという。
　船内に搭載する航空機は、固定翼機として運用可能な新世代ヘリコプター、ベル・ピアセッキAH/C-1Aスピードコブラ。MH-60スピードホーク。AH-6リトルバード。アグスタ・ベルA-109など、有人機26機。無人偵察・攻撃ティルトローター機も同数。
　それだけではない。水中・水上艇は、SEALが運用する小型潜行艇、揚陸作専用水陸両用強襲車までも搭載します。その他モロモロの秘密兵器も。
　乗り組むのは、フネを運用する海軍だけではない。海兵隊はもとより、空軍・陸軍の特殊部隊までそろい踏み。
　アイオワ級と言うより、大和級といった方が良い図体に対地攻撃・強襲用の設備をめいっぱい積み込み、しかも平時はパナマ船籍の貨物船を艤装しているという。ワーオ。

　正式にはこのフネは、アメリカ海軍コマンドウ母艦＜シェンナドー＞と呼ばれます。
　なんだか、仮装戦記に出てくる万能戦艦ですな。(笑)

　このフネと、運用計画を発案したのは誰あろう若かりし頃のアマンダ・ギャレットその人だという。紆余曲折の末に、この艦と懐かしの＜カニンガム＞まで指揮下に入れたギャレット大佐の戦う相手とは。
　軍ヲタが身震いしそうな設定ですな。

　このネタを元に、インドネシアの不穏な政情と革命運動、国家転覆を狙う「魅力ある悪いヤツ」を登場させたストーリー構成は波瀾万丈。お見事です。主人公が女性なので、もちろんその辺に絡んだセックス潭もさりげなく出てくるし、ファンにとっては言うことなしでしょう。
　突っ込みたいところはたくさんありますが、とりあえず一夜の楽しみとしてはよろしいのでしょうね。

　うーん、なんだか歯切れが悪いなぁ。(笑)　　　(06/7/17)