C064 ジェイムズ・S・A・コーリイ

作家番号： C064	ジェイムズ・S・A・コーリイ	Corey, James S. A.
	国籍：アメリカ合衆国
ダニエル・エイブラハム（Daniel Abraham　1969/11/14～　ニューメキシコ州アルバカーキ生まれ）とライ・フランク（Ty Franck　1969/5/18～　オレゴン州ポートランド生まれ）の共作用ペンネーム。

管理番号	書　　名		メ　　モ
C064-001・002	巨獣めざめる(上・下)		太陽系内で起きる戦争と、異星人

		Ver. 3.01

管理番号：C064-001・002

12 新スペースオペラ

出版社：早川書房

書名：巨獣めざめる(上)	The　Expanse		ISBN978-4-15-011898-3　C0197
原題：Leviathan Wakes　（2011）		翻訳者：中原尚哉
ハヤカワ文庫SF1898　コ3-1　7166	価格：840Yen	ページ数：432P		本のサイズ：文庫
初版発行：2013/4/25	購入：2013/5/10	カバーイラスト：富安健一郎カバーデザイン：ハヤカワ・デザイン

書名：巨獣めざめる(下)	The　Expanse		ISBN978-4-15-011899-0　C0197
ハヤカワ文庫SF1899　コ3-2　7167	価格：840Yen	ページ数：432P		本のサイズ：文庫
初版発行：2013/4/25	購入：2013/5/10	カバーイラスト：富安健一郎カバーデザイン：ハヤカワ・デザイン

　プロローグは、ジェリー・マウから。スコピュリ号という小さな宇宙船の乗組員でしたが、謎の賊に船が拿捕され、彼女ひとりが、与圧服のロッカーに隠れて8日目。外から聞こえるのは、宇宙船の核融合炉や推進エンジン、岩付システム、耐圧扉を開閉させるボルトなどの音。そして何か柔らかいものが隔壁にぶつかる音、苦痛の叫び、哀願する声、そして突然途切れる絶叫。
　排尿バッグが満杯になり、孤独と飢えと退屈で気が狂いそうになってロッカーを出た彼女は、期間室によろめきこんだところで、とんでもないものを見ました。船に押し入った賊も、拷問されていたはずの乗組員も、　一人もおらず、中央の核融合炉に何かがへばりついています。近寄って見てみると、さらにその泥状のものには強い異臭があり、血管や気道を思わせる無数の管状のものがはい回っています。
　一部は脈動しており、なんとその中から、ダレン船長の顔のようなものが見える。

　この、「エイリアン」だかなんだかのような、　SFホラー映画風のプロローグより、この物語は始まります。
　舞台背景は、こんなようなもの。

　地球と火星が偏狭な意見対立から一触即発になった150年前、小惑星帯ははるかに遠かった。鉱物資源は豊富でも、採算の取れる輸送手段がなかった。まして外惑星系は野心旺盛な企業を経営者にとっても遠すぎた。　　（P15)

　谷甲州さんの「航空宇宙軍シリーズ」の世界に似ています。超光速航法はまだなく、板子一枚下は極寒の真空宇宙という世界。物理法則に縛られて太陽系内の惑星、小惑星の中を航行する船乗りたち。
　ここは、こんな世界。

　おおむね消火栓の形をした、全長約750メートル、全幅約250メートルのカンタベリー号は、元は移民団輸送船。人類を木星系衛星群に運ぶ仕事を行って何十年か経ったのち、土星の輪から小惑星帯へ氷の塊を運ぶ船団に所属しています。
　このカンタベリー号に救難信号が入り、小惑星CA2216862に向かうこととなります。副長ジム・ホールデンは、カンタベリー号の機関長ナオミ・ナガタ、爆発物に詳しい機関員エイモス・バートン、パイロットのアレックス・カマル、医務員シェド・ガービーを連れて搭載シャトル、ナイト号で小惑星の近傍にさまよう貨物船スコピュリ号に乗船します。しかし、廃船と化したスコピュリ号の惨状を確認しているさなか、カンタベリー号が謎のフリゲート艦に核攻撃され、巨大な蒸気の雲となってしまう。
　怒りに震えるホールデンは、スコピュリ号から回収してきた発信機のバッテリーを手に取り、そこに刻印されたシリアルナンバーの文字に眼を剥きます。ナンバーの先頭のアルファベットは、MCRN。火星共和国連邦宇宙軍。
　彼は、全太陽系に向け最大出力で音声発信します。

　「わたしの名前はジェームズ・ホールデン。わたしの船、カンタベリー号はステルス技術を備えた軍艦に破壊された。彼らが残したと思われる部品には、火星軍のシリアルナンバーが刻まれていた。データストリームにて送信する」　　（P95)

　ここから、この物語が始まったと言っていいかも。

　さて、主人公はもう1人。定住人口600万人に達する小惑星ケレスに住むミラー。
　人工的に回転させて0.3Gの疑似重力を発生させているケレスの治安を守る組織、スターヘリックス・セキュリティ社の警官であるミラーは、ある日上司であるシャディド警部に呼ばれ、若い娘の失踪事件を担当することとなります。
　その娘とは、スターヘリックス社の大口株主であるマウ=クイコウスキー商会の総帥、アリアドネとジュール=ピエール・マウ夫妻の末娘。ジュリエット・アンドロメダ・マウ。ジュリー。
　ピンネース艇の優秀なパイロットで、大企業の経営者一族の面汚し。地球圏の大富豪の家庭で生まれ育ちながら、OPA、外惑星同盟に身を投じたためにてん家族とは絶縁状態だったのですが、マウ家としてはそのまま放置もできず、スターヘリックス社経由で彼女の捜索及び拘束を要請したらしい。そのプライベートな任務が、ミラー刑事に与えられたのでした。
　このミラー、ジュリーの関係も、物語に大きく絡みます。

　この二人、生真面目な正義漢ホールデンと、過去に深い傷を持つミラーを主軸として、交互にこの二人の視点で進められるお話は、つきつめていえば戦争です。
　戦争といっても、壮大な艦隊決戦でも、大規模な降下作戦と陸戦でもない。小規模なゲリラ戦でもない。太陽系内での持てる者と持たざる者の戦い。
　すくなくとも最初はそのように見えました。
　小惑星以遠の世界に住む人類が、その足並みはそろわないまま強大な火星文明圏に喧嘩を挑む。火星の背後の、人類の故郷である地球は、何を思う。
　しかしその後、様相が変わる。火星は何を企んでいるのか。
　ケレスに何が起こったのか。
　人類の生まれた時代より遙か過去、何があったのか。

　ホールデンの最初の送信が最初の戦争を引き起こし、そして次の送信が、今度は何を引き起こしたのか。
　地球の背信に激怒する火星。
　プロト分子とはなにか。小惑星エロスには、何があるのか。

　そしてエロスは動く。人類を救うために。
　巨獣は目覚めたのか。

　最初、ちょっとかったるい展開でした。ベルターつまり小惑星人たちと内惑星人との感情的なすれ違いなどは、その描写がちょっと固く、読みにくかったような気がします。ミラーの偏執狂的な、奇妙なこだわりなどは読んでいてかったるい。
　しかしこれが最後にものを言います。
　これは最先端の科学的な情報をもとにした宇宙活劇です。見ごたえがあります。最近流行りのミリタリーSFにはない、民間人たちを主役に据えた物語の運びは新鮮です。

　この作品は、「The　Expanse」と名付けられたシリーズの第一部だそうです。もともとは三部作として計画されたそうですが、第一作の高評価によって長編六作に拡張され、現在第三部が2013年夏に刊行予定なのだそうな。そのほかにも、ノベラ五作も予定されているとか。
　次巻が楽しみです。これはすごい。　　（2013/10/24）