D038 出口治明

作家番号：D038	出口治明	でぐち・はるあき
	国籍：日本	生没年：1948/4/18～
ネットライフ生命保険会社創始者。　三重県生まれ。京都大学法学部卒。1972年、日本生命保険相互会社入社。国際業務部長などを経て2006年に退職。同年、ネットライフ企画株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。2008年4月、生命保険業免許取得に伴い、現社名に変更。2018年よりライフネット生命代表取締役。　仕事（保険業界関連）関係および歴史関連の著書多数。

管理番号	書　　名		メ　　モ
D038-001	人類5000年史１		新たな視点で見る地球規模の歴史
D038-002	人類5000年史Ⅱ		人類の歴史の根幹となった紀元元年から1000年まで

		Ver. 3.06

管理番号：D038-001

53 史書・編年史　　

出版社：筑摩書房

書名：人類5000年史１	紀元前の世界		ISBN978-4-480-06991-7　C0222
ちくま新書　1287-1	価格：820Yen	ページ数：256P		本のサイズ：新書
初版発行：17/11/10　第2刷：17/11/30	購入：2020/8/7

　ディレッタントの極致、というのが一読した時の感想です。著者についてもこの本が書かれた経緯についても知りませんので、そういう言い方で正しいのかどうかはわかりません。
　失礼だったらごめんなさい。
　経歴から見て歴史研究の専門家ではない著者が、独自の視点でまとめ上げたざっくりした人類史、という理解でいいのでしょうか。

　この巻では、人類史の始めどころか地球上の生命の始めから始まって、文字が生まれるまでの人類史を一期とし、BC3000年から千年ごとに人類の文化文明の流れを追っています。
　歴史、と言い切れないのは、文字伝承も史料もない時代を扱うから。

　第一章　文字が生まれるまで
　生命発生は、この地球上では40億年前に一回だけ起こったのだと言います。というより、今の全生物はそのときの子孫で、それ以前のトライアンドエラーは、全て記録がなく証拠もなく知る必要もないので考える必要はないという事じゃないかな。
　最初の生物は「ルカ（LUCA　Last Universal Common Ancestor　最終共通祖先）」と呼ばれ、今から約40億年前に誕生し、現在地球上に存在する生物は全てこれの直系の子孫です──という話は人類史に関係あるのか、どうか。
　とはいえここから生物は始まり、10億年後の地球磁場によるバンアレン帯の形成と共に生物は浅海から陸上に上がり、5.41億年前のカンブリア爆発によって生物は大きく多様化します。その後何度かの絶滅紀を経て約700万年前「ヒト」が誕生し、その中から約25～20万年前ホモ・サピエンスが生まれます。その中から、世界中に散らばったそれぞれの場所で、毛髪・眼球の色・皮膚の色などが外観的に変化したのが、現生人類なのです　──と、生物学的な人類史を語ります。
　そこまで遡る必要があるのかという気もしますが、お話的には面白い。
　この章は、人類が農耕を開始して肥沃な三日月地帯と呼ばれるメソポタミアを中心とした人類生存圏ができあがり、文字を作られ、「文明」の原形が目覚めるまで。

　第二章　第一千年紀の世界（BC3000年頃からBC2001年まで）
　メソポタミアの地に産まれた世界最古のシュメール文明と、それが作り上げた都市と富。エジプト文明とインダス文明の成立。それが生みだした「文明」。

　第三章　第二千年紀の世界（BC2000年からBC1001年まで）
　肥沃な三日月地帯における大国の興亡。二輪戦車（チャリオット）が起こした軍事革命。エジプト中王国の勃興。
　ヒッタイト人、アカイア人。クレタ文明、ミケーネ文明。黄河流域の文明の誕生。新エジプト王朝の興亡。一神教の成立。商王国から周王国へ。インドに定住したアーリア人が生んだ四つの階級。

　第四章　第三千年紀前半の世界（BC1000年からBC501年まで）
　最初の大王国・周の拡大と滅亡。王の不在に国を守った共伯の和(きょうはくのわ)と、その故事が「共和国」の五言となったこと。漢字圏の成立。中華思想の萌芽。新アッシリア王朝の台頭と、服属を逃れようと地中海に乗り出すフェニキア。
　アメリカ大陸、中央アンデスに栄えたチャビン文化。メキシコ付近で栄えたオルメカ文化。
　ギリシャの都市国家の成立と発展。バビロニア王国の誕生と征服。ユダヤ人のバビロン捕囚。
　春秋五覇の時代。ヘレニズムの萌芽。

　第五章　第三千年紀後半の世界（BC500年からBC1年まで）
　ユーラシアの気候の温暖化による世界の活性化。グローバルの汗海底谷アカイメネス朝ペルシャと、その西の辺境のギリシャの戦い。
　ガンジス川流域に栄えたインドの諸王国。ゴータマ・シッダッタの出家と仏教の成立。
　呉越の戦いと孔子の教え。戦国時代の始まり。諸子百家。秦の始皇帝。
　アテナイとスパルタ。民主主義の萌芽とされる富裕男性のみによる寡頭制と専制政。ローマの台頭。アレクサンドロス大王の帝国。
　ローマとカルタゴの戦い。地中海帝国の成立。ポンペイウスとカエサル。アウグストゥスの戴冠。
　項羽と劉邦。漢の武帝による征服行。史記の執筆。
　そして、　西暦元年（1年）のGDP試算（世界シェア）

漢帝国	26.2 ％
インド各国	32.9 ％
パルティア	9.7 ％
ローマ帝国	17.2 ％
倭（日本）	1.2 ％

　こう言う視点で見る世界史、面白いね。（2021/04/12）

　読書メーターの記録より　　読了：2020/12/14　

管理番号：D038-002

53 史書・編年史　　

出版社：筑摩書房

書名：人類5000年史Ⅱ

紀元元年～1000年

ISBN978-4-480-06992-4　C0222

ちくま新書　1287-2

価格：880Yen

ページ数：288P

本のサイズ：新書

第一刷発行：2018/12/10　第二冊：2018/12/25

購入：2021/1/1

カバー写真：マルトラーナ教会（パレルモ・世界遺産）内部
図版作成：朝日メディアインターナショナル

　刊行されてから買って読むまでの期間は、積ん読本の量と言う事で納得できるのですが、それからここに上げるまで3年半かかったというのは、どういう事ですかねェ。
　ここに上げないうちは次の巻を読めないし。ふう。
　この巻は、人類としての第四千年紀という時期、すなわちキリスト教紀元元年から1000年までを描きます。

　第六章　第四千年紀前半の世界（紀元元年から500年まで）
　前書きのあとの最初の話題は、ナザレのイエスのこと。生まれはBC4年頃、パレスティナのナザレが生地らしいのだけど、旧約聖書の記述に整合させるためにベツレヘムで生まれたとされます。宗教的な問題になるので掘り下げはこのあたりまで。ただ、西暦をイエスの生まれた年を元年とするつもりで設定したのにズレているのは、この西暦が6世紀に神学者の研究によって定められ、その際の記録の正確さに問題があったため。
　救世主たるイエスによって始まったキリスト教が世界宗教となり得たのは、イエス亡きあとに信徒となったパウロによる活動が大きいとされています。事実上パウロが作り上げた教義が、原始キリスト教の戒律から脱却した、時のローマ帝国全体に根を下ろす新しいキリスト教の萌芽となります。
　同じころインドでは、出家至上主義ともいえる上座部(じょうざぶ)仏教の中から革新運動が起き、裕福な修行者の魂の平安ではなく、一般大衆（在家）の救済を重視する思想が生まれます。これが仏教やジャイナ教によって都市部を追われたバラモンたちに影響を与え、彼らは知識(ヴェーダ)の宗教を先住民の信仰を習合させ、さらにヴィシュヌ神やシヴァ神へ帰依することで救済されるという新しい宗教、ヒンドゥー教を作り上げ、再び都市部へ返り咲くことになりました。
　これに危機感を抱いた仏教の側から、この新しい教えに影響された革新運動を起こし、分け隔てなく人々が救われる新しい教え、大乗仏教を作り上げます。この流れは、パウロによるキリスト教の革新と通じるところがあるのだ、とか。
　とはいえインドでは、この大乗仏教はより論理的な上部座仏教（かつて蔑称的な小乗仏教という言い方がありましたが今は使われないのだとか）に勝てず、また仏教自体が一般大衆が救済されるシンプルなヒンドゥー教に勝てなかったそうな。
　中国では前漢末期のAD2年、全国的な戸籍調査が行われました。戸籍数12,233,062戸、人口59,594,978人と記録されています。文明レベルを行政力の優劣で評価するなら、全地球的にみて中国は、当時世界最高の恐るべき文明を謳歌していたことになります。

　ここから始まる全地球的な歴史の流れは、要所要所で東西を並行的に比較しつつ描かれると、それまでの学校教育ではまったく別々に学んだ歴史を俯瞰的に、有機的に見ることができて、面白い。
　ローマ帝国が中東から欧州の西端まで制覇した大帝国を作ります。そののち北方よりの諸民族の侵入の末に東西に分裂し、財政的・文化的に劣る西側は徐々に切り捨てられ、476年西帝国は滅びます。東帝国はキリスト教の発達の中で中東諸国との抗争を続けます。
　中華帝国では統一王朝としての漢のあとの三国時代と五胡十六国の盛衰を迎えます。ローマ帝国の皇帝ユリアヌス（在位361-363）と前秦の苻堅（在位357-385）がほぼ同世代で、どちらも理想化肌の改革者として登場して挫折した、などというネタは面白いね。
　朝鮮半島では三国時代が始まり、日本では、卑弥呼から倭の五王の世界。世界史に登場するまではまだまだ。
　この章の最後は、5世紀末にクライシュ族のクサイイと言う人物がアラビア半島の通商ルートの要衝マッカ（メッカ）に定住したという話。彼は、ムハンマドの五代前の祖先なのだそうな。

　第七章　第四千年紀後半の世界（紀元501年から1000年まで）

　第四千年紀の後半は、アラビア半島のマッカに住む商人、ムハンマド（570頃-632）によって、第三のセム的一神教、イスラーム教が起こされた時代です。また、ユーラシアの東方と中央から西方にかけて、ほぼ同時期に大唐世界帝国とイスラームの大帝国が生まれ、ローマ帝国を含めて、その間の交易が盛んになりました。海と陸のシルクロードの時代です。
　800年の主要都市の人口は、長安が約80万人、バグダードが約70万人、コンスタンティノープルが約30万人という推計がなされています。ちなみに、フランク王のシャルルマーニュ（在位768-814）がローマ教皇からローマ皇帝として戴冠を受けたローマの人口は、約5万人ほどでした。また、この時代に日本という国号を持つ国が誕生し、西ヨーロッパでは、ローマ教皇（ローマ司教）が東方のローマ帝国から袂(たもと)を分かって自立した時代でもありました。（P126）

　というのが、この時代の総括。本当の意味で、現在の人類の歴史の根幹と言っていい時代、かな。

　倭のヤマト政権では、越前から新しい大王が迎えられ507年に継体天皇として即位し、事実上九州の勢力はヤマト政権に統合されます。こののち、ヤマト政権は倭国の事実上の統一王朝となり、中国とのゆるやかな交易体制の中で平安時代を迎えます。
　中国では、三国志の後五胡十六国に分裂した諸国が目指した統一王朝が、隋(581-618)・唐(618-907)により成されます。隋・唐は北方遊牧民の一派・拓跋(タブガチュ)部の一群でしたが、漢化政策を推し進めた国でした。三国志の時代以後400年の分裂期を経て、北方の遊牧民と南方の漢民族がついに融合したのでした。中国の歴史上ではこれ以後、漢語・漢字を使い中華の文明を受け入れた民を漢民族と呼びます。
　西欧では西ローマ帝国の滅亡の後、権力の空白の中に滑り込んだフランク族が覇権を握り、800年になってカロリング朝のカール大帝がローマ皇帝として戴冠します。神聖ローマ帝国の始まり。
　これに対し唯一のローマ帝国を標榜するビザンツ帝国（東ローマ帝国）は、ゲルマン人の侵攻を許さず強固な勢力を維持します。東より新興のイスラーム国家との抗争が続きますが、一定の勢力を維持しています。
　しかしそのイスラーム国家は、正統カリフ時代、ウマイヤ朝、アッバース朝と変遷しつつ、中近東、アフリカに勢力を伸ばし、宗教が支配する世界帝国へと変貌していきます。

　1000年の世界のGDP試算（世界シェア）

キタイ、宋	22.7%
インド各国	28.9%
東ローマ帝国	7.5%
イスラーム三帝国	16.2%
西ヨーロッパ全体	6.1%
日本	2.7%

　また1000年の世界の大都市（人口順）は

コルドバ（後ウマイヤ朝の首都）	45万人
開封（宋王朝の首都）	40万人
コンスタンティノープル	30万人

　でした。
　コンスタンティノープルは、歴史上最も長く世界の大都市ランキングの上位を占め続けた希有な都市なのだそうな。

　10世紀を境に内陸アジアは気温が下がり始め、北方の遊牧民が南下し始めます。
　キタイはその侵攻の、宋はキタイと西の西夏(タングート)の侵攻を受けることに。インドではマフムードの北方侵入が始まり、ウマイヤ朝は絶頂期を迎え、ローマはわずか数万人の人口にまで零落しています。
　ローマ教皇には、先進的なイスラーム学問を修めた人間がなる時代でした。
　次はどんな歴史になるのかな。（2025/5/16）
　
　読書メーターの記録より　　読了：2021/10/19　