F002 ロバート・L・フィッシュ

作家番号：F002	ロバート・L・フィッシュ	Fish, Robert L.
	国籍：アメリカ合衆国	生没年：1912/8/21～1981/2/23

管理番号	書　　名		メ　　モ
F002-004	シュロック・ホームズの回想		抱腹絶倒のホームズ・パロディ

		Ver. 3.04

管理番号：F002-004

42 シャーロック・ホームズ・ノベル

出版社：早川書房

書名：シュロック・ホームズの回想			ISBNなし
原題：The Memoirs of Schlock Homes　（1974）		翻訳者：深町真理子
ハヤカワ・ミステリ文庫 HM42-4	価格：300Yen	ページ数：256P		本のサイズ：文庫
初版発行：1979/5/31	購入：1979/6/1	カバー：楢喜八

　見つけて読み始め、むかし読んだときイラついたことを思いだしました。
　若い頃(笑)はけっこう真面目だったんですよね。面白いことは認めるけど、悪ふざけがひどすぎないか、ってね。
　いま読んでも、悪ふざけがひどいのは事実。でも、原作へのリスペクトが感じられます。じっくりと聖典を読み込み、その上でひねりにひねってこのパロディを作っています。
　ほう。

　10作の小編からなります。
　前回の「シュロック・ホームズの冒険」の最後でコルニッシュ街道の崖の上で白刃を振りまわすマーティ教授に細いトネリコの弓一本で立ち向かい、ともに落下して死んだと思われたホームズが復活する場面から始まる　シュロック・ホームズの復活　が最初。
　エセックス夫人が経営する下宿、ベイグル街の221B番地にいまだに住んでいたワトニイは、ホームズが死ななかった理由（崖下にたまたま漁師が網を広げていた）を聞いて安心するとともに、ホームズのその場で開陳した見事な推理（若い看護婦に振られて腹立ち紛れに手帳のページを引き裂いた行為を、狩猟服の補修のため手帳の表紙のモロッコ側が必要だったと見破ったもの）に感服し、彼の捜査に喜んで同行することになります。

　つまり、このホームズ（シャーロック・ホームズ　Sherlock Holmes　とちょっとスペルが違う　Schlock Homes）の推理というのは、ズレているのです。それも、無茶苦茶な方向に。忠実な助手ワトニイはその思いもつかない斬新な推理に圧倒され、感心します。事件はその結果、ワトニイの視点では、常に完璧に解決するのです。
　たとえその後で、どう考えても実際に犯罪を犯した犯人から、なぜか見のがしてくれた感謝のしるしが送られてきても、株式市場が崩壊してたくさんの投資家が自殺しても、イギリスの大学にマリファナが蔓延しても、世界的名画が盗まれた事への捜査依頼にまったく気づかずその絵で盗品と思われるコニャックをつつんできても、まったく関係ない。ワトニイの視線の先でホームズは常に名探偵であり、シュロック・ホームズは自分の推理に常に絶対の自信を持っています。
　あは。

　ホームズが引退を決意して始めた養蜂についても、新しい知識が得られます。ホームズは精密に計算して、蜂の幼虫たちを決まった深さの土の下に植えて規定通りの肥料を与えているのに、なぜか一匹の蜂も生えてこない。ホームズは真剣に悩んだ末養蜂農業は自分の仕事ではないと考え、探偵として現役復帰します。
　それは世の中にとって良かったのか悪かったのか．．．むろんワトニイは大歓迎。
　この現役復帰宣言の直後、一人の依頼者が現れたのでした。ホームズはさっそく、養蜂に没頭したことで自分の推理力が落ちていないことをワトニイに示します。

　「まずもって、ワトニイ」ややしばらくして彼は言った。その調子はまるで、今までに過ぎ去った年月が存在しなかったかのよう、そして、目の前の客が部屋にいないかのようだった。「このお客の服装が、赤と白の縞であることにきみも気づいていよう。このような服装をするのは、愛国主義者以外にはないからして、このかたの国籍はカナダであると断定できるわけだ。それを示すそれ以上の証拠として──それ以上の証拠が必要なら、だが──このかたの時計鎖の飾りが挙げられる。見たところこれは、ヘラジカの歯とおぼしいが、ヘラジカの原産地がカナダであることが知られている。
　つぎに、このかたの職業についてだが、ふつうヘラジカは、なんらかの歯科医術にたいすると非常に凶暴になることで知られているから、この事実にかんがみて、ヘラジカの歯を抜くような人物は、動物を扱いなれていると見なさなければならない。これに加うるに、猫背であること、獲物の足跡を追うことに熟練した人物特有の足のくばり、などを考えあわせると、われわれの依頼人は、職業的（プロフェッショナル）な──そしてまぎれもなく勇猛（イントレピッド）な──狩人（ハンター）である、と自信を持って断言できるわけだ！」
　大柄な依頼人は、驚いてまじまじとホームズを凝視した。
　「どうしてあなたにそんなことまでわかったのか、見当もつきませんよ、ホームズさん！」と彼はあんぐり口をあけて叫んだ。「わたしが愛国主義者だとおっしゃったのは、まったくそのとおりです。じつは、これにブルーのチョッキを着てこようと思ったのですが、どこかに置き忘れたと見えて、見あたらなかったのですよ。実際はわたしは、ニュー・ジャージーの植民地から参りました。ちょくちょくカナダに旅行することはしますがね。それからまた、あなたがエルクス会（アメリカの慈善・社交・愛国団体）のメンバーの勇気を認めてくださったことも感謝します。名前については、しかし、あなたの指摘はきわめて注目すべきものです。プロフェッショナル・ハンターというのはわたしの義兄でして、わたしは彼の妹のイントレピッドと結婚しているのです。また、猫背について言うと、十人の生意気盛りの少年の荷物を運ぶことからこうなったのでして、それがまた、こうしてわたしがここにうかがったことと結びついているわけです」　（P171-172)

　むろんホームズは自分の推理がことごとく的中していることに満足し、ワトニイはホームズの神業に声も出ない。

　もうこの馬鹿馬鹿しい名推理は説明のしようがない。さらにさまざまな言葉遊び、駄洒落などがあって楽しめます。これは読まないとわかりません。
　トシ取ったせいか、こういうおふざけに遠慮なく笑えるようになっている自分に気づき、ちょっと嬉しい。(笑)
　「シュロック・ホームズの冒険」を探してみようかな。　（2017/4/9）

　読書メーターの記録より　　読了：2017/2/21