トップへ戻る 読んだ本の分類		作家番号：J018 ロジャー・ジョンスン Johnson, Roger 国籍：イギリス 1947〜 　イングランド、チェルムズフォード生まれ。68年に〈ロンドン・シャーロック・ホームズ協会〉(SHSL)に入会し、機関士やニュー^ズレターを編集。ホームズのパスティーシュも執筆。 ジーン・アプトン Upton, Jean 国籍：アメリカ合衆国 ？〜 　アメリカ、ペンシルヴェニア州生まれ。1980年にSHSLに入会。92年にロジャー・ジョンスンと結婚。二人はSHSLの会員であり、ロンドンのシャーロック・ホームズ・パブにあるホームズの今の管理人でもある。

管理番号	書　　名		翻訳者	メ　　モ
J018-001	シャーロック・ホームズのすべて		日暮雅道	ホーメジアンが書いたホームズ愛の本

管理番号：J018-001

42K シャーロック・ホームズ研究書

出版社：集英社インターナショナル

書名：シャーロック・ホームズのすべて

ISBN978-4-7976-8104-8　C0298

原題：The Sherlock Holmes Miscellany（2012）

翻訳者：日暮雅道

インターナショナル新書 104

価格：960Yen

ページ数：272P

本のサイズ：新書

初版発行：2022/6/12

購入：2023/12/16

そういえばこの本を購入したのは、法事で上京したときだったかな。知らない本屋に入ると違った本棚を散策できて、また楽しからずや。 　序文は、作家で元英国下院議員であるジャイルズ・ブタンドレス氏による絶賛の言葉──としか言いようがないかな。書かれているのは、ホーメジアン（昔は「ホームジアン」と言っていたけれど、遙か昔だな）であることの誇らしさと、ホームズを愛好する一員の楽しみ、この本を書いた二人への友情、そしてこの本はあらゆるホーメジアンにとって必携書であるということ。 　ふむ、と鼻白みます。 　そりゃあ間口が狭いんじゃないかい？ 　そして本文。 　この本は、シャーロック・ホームズとは何者なのか、いつどのように出現したのか、時代背景はどうだったのか、彼が与えた文学界・ミステリ世界に与えた衝撃とはどんなものだったのか　──といったことは 　ほぼ全く書いてありません。 　なぜか。 　この本を読む読者にとってそんな事は、あたりまえのことであるはずだから。 　間口が狭くなる、と言った意味がわかりますか？(笑) 　そう、この本は、「任意の二点を繋ぐ最短の直線は一本だけである」という数学上の公理と同じように、「ホームズは特別な存在である」という公理の元に生きている人のために書かれ、そしてそうでない人に追いついてもらうためのものです。 　シャーロック・ホームズという偉大なキャラクターの価値を描き、奥深いホームズ学について述べ、共に楽しもうと呼びかけています。 　最初にストランド・マガジン誌に連載されたとき、当時の読者はホームズという特異な人間の魅力とか彼の冒険を、月刊読み切りというそれまでにない形式で提供され、現代でも通用するその見事な文体に魅了されて飛びついたものでした。 　ホームズが読者たちと同じ世界に住んでいたことも、重要だろう。当時の小説の多くは、あり得ないロマンスやエキゾティックな場所、高尚な生活様式を扱っていた。しかし、ホームズは見慣れた街を歩き、大衆がよく利用する店やレストラン、劇場、コンサートホールを利用した。ウィグモア外郵便局で行列に並んでいる背の高い青年が、もしかしたらシャーロック・ホームズかもしれないと、それだけの読者が胸をときめかせただろう。21世紀の今日でも、当時のロンドンの姿は目に見えるかたちで残っており、私たちは彼の足跡を追い続けることができるのである。（P27） 　ここから始まるホームズ学。恥ずかしながらシャーロック・ホームズについては、たいていのことを調べた／学んだと思っていたのですが、とんでもない。ホームズ学とはそんな甘いものではない、はるかに深く広いものだと思い知らされました。浅学のくせにという言葉が身に沁みます。(笑) 　用語としての「シャーロッキアン」と「ホーメジアン」の使い分け（実は違いはないw）から始まって、ホームズという人間、コナン・ドイルについて、挿画画家によるイメージ、地理的な謎。 　蝋マッチ、ガソジーン、タンタラス、コモンプレイス・ブック、クロックフォード(クロックフォード聖職者名艦)、ブラッドショー(ブラッドショー鉄道案内)、中折れ帽(ワイドアウェイク)、山高帽(ピリコック)、四輪辻馬車(ロンドン・クロウラー)、歩行用ステッキ(ペナン・ローヤー)、登記所(ドクターズ・コモンズ)、乗船税関史(タイド・ウェイター)、競馬週刊誌(ピンク・アン)．．．　これら時代の彼方に消えたものは、いったいなんだったのか。 　ホームズとワトスンの関係、ワトスンのファーストネーム・負傷箇所・結婚回数、レストレードやアイリーン・アドラーの正しい発音、ベーカー街221番地Bとはどこなのか。 　ホームズもののコレクターについて、愛好団体、舞台・映画・テレビ・ラジオドラマのこと、パスティーシュ・パロディの数々。ああ、ホームズ学は奥が深い。 　ホーメジアンの実態(笑)についての間違った認識を正すための説明が面白い。 副業として殺人ミステリーのイベントをやっている人も何人かはいるが、私たちの知る限り、それが唯一の娯楽であるという人はいない。 たいていの時間は、ホームズ以外のあらゆることを話している。ただ、他の文学系団体と同様、もっとリラックスした方がいいような頭の硬い学者肌も、多少存在する。そういう退屈な連中が会合であなたを追いつめるようなことがあったとしても、あなたの目がうつろになる前に、だれかが救いの手を差し伸べてくれるはずだ。 シャーロッキアンの団体は何百とあるが、そのほとんどすべてが簡単に入会できる。唯一の例外は、招待された人だけが入会できる《ベイカー・ストリート・イレギュラーズ》（BSI）だろう。 信じられないかもしれないが、私たちはホームズがサー・アーサー・コナン・ドイルによる創作であると知っている。ドイルはワトスンのエージェントであり、ホームズは実在するのだというコンセプトは、��グランド・ゲーム�≠ﾆ呼ばれるものだ。これについてはこの本の第10章に詳しく書いてある。 本当のところ、私たちはとても社交的であり、愉しいことの好きな仲間である。（P29-31） 　あは。 　ホームズを目に見えるかたちにしたのは舞台からでした。 　どのように描けばよいかとさまざまな試みがなされた中で、ドイツ自身の考案したシナリオを元に戯曲が作られた際、 　脚本がアメリカの俳優ウィリアム・ジレットの手に渡ると、彼独自の劇で上演され、大成功をおさめることになる。ジレットはドイルの許可を得て、ドイルの脚本を改訂した──リライとしたと言ってもいいだろう。「ホームズを結婚させてもいいでしょうか？」というジレットからの問い合わせに、ドイルが「結婚させるなり殺すなり、好きなようにしてよし」と答えたのは、有名な話だ。（P184） 　という話があり、これ以後ホームズについてのたくさんの戯曲、映画、テレビドラマが作られます。 　史上最高のホームズと讃えられるジェレミー・ブレッドによるグラナダTVシリーズはむろんのこと、その後もいくつも登場した名作、秀作、凡作などのあとに現れた傑作『SHERLOCK／シャーロック』も網羅しています。アメリカの「エレメンタリー ホームズ＆ワトスン」までも。（個人的な趣味ですが、刺青だらけのホームズと中国顔の女ワトスンが活躍するこのシリーズは、鐵太郎はあまり好きではない） 　日本の作品も取り上げられています。2019年フジテレビのテレビドラマ『シャーロック』は入っていませんが、2018年のものは書かれていました──これは刊行後に追記されたものですね。ロシアで作られたシリーズが人気を博したのち主役の死亡により中断した、という記事に続いてこういうものが。 　2018年に放送された日本のすぐれたシリーズ『ミス・シャーロック』にも、同様の運命が待ち受けていた。舞台は現代の東京で、主役はいずれも女性。シリアでの医療奉仕活動から帰国した元外科医の橘和都(たちばな わと)（貫地谷しほり）は、優秀だがエキセントリックな探偵��シャーロック�≠ｱと双葉・シェリー・さら（英語表記は Sara Shelly Futaba、竹内結子）とアパートをシェアすることになった。このシリーズはコナン・ドイルのものよりも『SHERLOCK／シャーロック』に近いが、ロケーションとキャラクターによって、独自のアイデンティティと整合性が確保されている。2020年9月、竹内結子が自宅で遺体で発見され、みずから命を絶ったことが明らかになり、第二シリーズの望みは消えた。（P225） 　そんなこともあったよなぁ。 　次の章で、音で聴くホームズ　としてラジオ朗読からラジオドラマが語られます。音楽のこと、ミュージカルのことも。 　そしてパスティーシュ、パロディ作品。これはその嚆矢となるモーリス・ルブランに登場した「エルロック・ショルメ」から始まる膨大なものをさらっと紹介・解説。 　うーん、日本のシャーロッキアンのこともきちんと書かれているのだから、欲をいえば、ちょっと外れてはいるだろうけどパロディの端くれとして、大人気を博した「アニメ 名探偵ホームズ」を入れてくれればなお良かったのになぁ。 　とはいえ、これは新書版一冊に詰め込んだ見事なホームズ解説書です。一番近い本棚に保管しておこう。（2025/5/11） 　 　読書メーターの記録より　　読了：2023/12/31