L030 ジェフリー・A・ランディス

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読んだ本の分類

作家番号： L030	ジェフリー・A・ランディス	Landis, Geoffrey
	国籍：アメリカ合衆国	生没年：1955/5/28～
MITで物理学の理学士号と電子工学の理学士号及び理学修士号を、ブラウン大学で固体物理学博士号を取得。SF作家のメアリ・A・タージロと結婚し、2匹の猫と共に暮らしている、とか。　NASAにおいて、マーズ・パスファインダーに搭載したローヴァーの製造に参加し、最新の火星研究を入手し、今も第一線にある。

管理番号	書　　名		メ　　モ
L030-001	火星縦断		新世代の火星SF

		Ver. 2.11

管理番号：L030-001	15 ハードSF			出版社：早川書房
書名：火星縦断				ISBN4-15-011562-1　C0197
原題：Mars Crossing　（2000）			翻訳：小野田和子
ハヤカワ文庫SF1562　ラ4-1　早川文庫5850		価格：￥940	ページ数：560P		本のサイズ：文庫
初版発行：2006/5/31		購入：2006/5/27	表紙イラスト：田中光

　火星。人類の新しいフロンティアとなるかも知れない世界です。
　かつて火星は、たくさんのSFの舞台となりました。そして、時代によってたくさんの火星があり、たくさんの物語がありました。
　科学が発達するに従い、そして世界の政治が進化していくにつれ、SFも変化しました。
　いま、ブラッドベリのファンタジックな夢舞台は作れません。クラークの健全なオプティミズムは時代に合いません。ハインラインの異邦人の地はあり得ません。
　NASAで今第一線に立つジェフリー・ランディスは、こういう物語を作りました。現代の火星SFです。

　第三次友人火星探査隊の宇宙船＜ドン・キホーテ＞が着陸したのは、火星南半球の「フェリス・ドルサ」平原でした。着陸した船の半マイルほど南東に、＜ダルシネア＞が鎮座しています。帰還用の燃料を火星の大地から採掘し、精製し、保管している無人機。ここで始まったささやかなトラブルから、すべてが始まります。
　火星の地で6年もひたすら働き続けた孤独な＜ダルシネア＞が、探検隊の見守る前で液体酸素を吹き出しつつゆっくりと倒れていったのでした。しかも、チャムを道連れにして。
　　　船長、ジョン・ラドコフスキー。アメリカ人。
　　　通信士、ライアン・マーティン。カナダ人。
　　　地質学者、エストレラ・カロリーナ・コンセリェイロ。ブラジル人。
　　　医師・生物学者、ターナ・ジャクソン。アメリカ人。
　　　地質学者、チャムロング・リンピゴモルチャイ。タイ人。
　　　ただの若者、トレヴァー・ホイットマン。アメリカ人。
　さまざまな過去を持ち、さまざまな運命を経てここに集まった6人は、到着二日目で一人と帰還する方法を失い、途方に暮れます。

　火星に最初に到達したのは、実はアメリカではなくブラジル人でした。彼らは二人乗りの宇宙船＜ジェズス・ドゥ・スル＞で、さまざまな幸運の果てにアメリカを出し抜きました。2020年に打ち上げられ、火星の北極に着陸し、極冠の氷を電気分解して燃料を作り出し、そして二人は火星の大地で息絶えました。
　2回目はアメリカでした。無人燃料船＜ユリシーズ＞が先行したのち2年後に＜アガメムノン＞が打ち上げられます。皮肉としかいいようがないことに、無菌化された船内で発生した水虫、白癬菌が、人体から衣服、エアフィルター、回路基板まで腐食させました。彼らは火星に着陸後に、早々＜ユリシーズ＞によって発進すると、金星をスイングバイするという危険な航路で地球に急行しますが、ついに細菌に腐食された燃料コントローラの暴走によって爆発しました。
　衝撃ののち、人類は再び火星にのこった＜ユリシーズ＞のバックアップである＜ダルシネア＞を使ってもう一度火星探査を試みます。
　しかしそれも、もはや帰還はかなわない。

　本当に？　もしや、＜ジェズス・ドゥ・スル＞は無傷なのではないのか？
　かくして彼らは、火星の円周の1/4以上に達する道のりを踏破することとなります。
　発生する隊員たちの反目、トラブル。
　50歳の不屈のラドコフスキーの内心の思いと、死。
　費用を集めるために、民間人から籤で選ばれた21歳のトレヴァー・ホイットマンの正体。
　エストレラ・コンセリェイロの熱情と不遜な欲望。
　黒人であるターナ・ジャクソンの誇りと絶望。
　ライアン・マーティンの失敗と怒り。
　一人一人の人間を描き、無惨なまでにその内心までえぐり出します。

　現代のテクノロジーの延長線上ながら、同時に驚くべきアイディアで作られたメカニズムとその運用。知恵と勇気。絶望と欲望。
　二人乗りの＜ジェズス・ドゥ・スル＞には、何人が登場できるのか。

　「正直にいうとね、あたしはいつも、生まれてからずっと、あたしじゃないだれかのふりをしてきたのよ。あまり長いことそうしてきたから、ほんとうの自分がわからないくらい。
　もうそんなのはおしまいにするの」

　不思議と、涙は出ませんでした。しかし、最後の一行を読み終えて、そのままの姿勢でしばらく余韻に浸りました。
　これは、素晴らしいハードSFであると共に、優れた物語でした。　　(06/9/1)