L037 ジェイムズ・ラヴグローヴ

作家番号：L037	ジェイムズ・ラヴグローヴ	Lovegrove, James
	国籍：イギリス	生没年：1965/12/24～
イースト・サセックス州生まれ。オックスフォード大学で文学を専攻。大学時代から小説を書き始め、1990年に最初の長編「The Hope」を刊行。二作目の長編「Days」は1998年にアーサー・C・クラーク賞にノミネートされ、」長編「United Kingdom」は2004年のジョン・W・キャンベル記念賞にノミネート。　ミリタリーSFからホームズ・パスティーシュまで活躍の場を広げている。

管理番号	書　　名		翻訳者	メ　　モ
L037-001	シャーロック・ホームズとシャドウェルの影		日暮雅道	クトゥルフ神話世界の中のホームズ

管理番号：L037-001

42 シャーロック・ホームズ・ノベル

出版社：早川書房

書名：シャーロック・ホームズとシャドウェルの影

ISBN978-4-15-020615-4　C0197

原題：The Cthulhu Casebooks：Sherlock Holmes and the Shadwell Shadows（2016）

翻訳者：日暮雅道

ハヤカワ文庫FT615　ラ5-1　8845

価格：1360Yen

ページ数：464P

本のサイズ：文庫

初版発行：2022/8/25

購入：2022/9/9

カバーイラスト：鈴木康士
カバーデザイン：albireo

　2014年のある日私（ジェイムズ・ラヴグローヴ）に、ロードアイランド州プロヴィデンス（ちなみにこれはアメリカ合衆国のボストンの南70kmほどのところにあります）より、ヘンリー・プロテロ・ラヴクラフト氏が亡くなり、その遺産の一部があなたの興味を引くものであるようだ、とのメールが届きます。なんじゃこりゃ、と詳細を確認すると、どうやらスパムメールでも詐欺でもなく、そのラヴクラフト氏が残したワトスン博士執筆のホームズ譚であるらしい。
　むろん偽物であろうしせいぜいよくてパスティーシュのたぐいだろうけど、他の遺産継承者がみな受け取りを拒否したものなので、一応遠縁の親戚でありファンタジー作家でありホームズ研究で知られているラヴグローヴ氏に送付します、とのこと。あとは煮て食おうと焼いて食おうとご勝手に、ということらしい。
　調べてみると、私ジェイムズ・ラヴグローヴはこのヘンリー・ラヴクラフト氏と共にかの作家ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの子孫であるらしい。かなり遠縁であるにしても、何という偶然。
　届いてみた分厚い原稿を見て驚いた。これは、ジョン・H・ワトスンがおそらく二つの大戦の間にタイプライターで打ったもので、かつてワトスンが描き出したホームズ譚を別な角度で、全然違う世界を描き出したものなのでした。本物なのか偽物なのか。
　私は、1年ほどかけてこの原稿を調査し、その上で多少手直しした上で刊行することにした、のだそうな。〝クルトゥー・ケーズブック〟三部作として。そして言います。

　この本の評価は、読者であるみなさんに委ねることにしたい。ホームズ物語を巧みに書き換え、ラヴクラフトによる物語という歪んだプリズムを通して曲解したものなのか、あるいは現代でも人気を誇る二人の人物の人気を利用した、隠遁生活を送る半匿名の書き手の熱狂的な発露に過ぎないのか。それは、あなたが決めることなのだ。（P17）

　これは、その第一部。

　ワトスンとホームズの出会いからして、かつてワトスン自身が書いた聖バーソロミュー病院（略称バーツ）の実験室での出会いとはまったく違ったのだという。また彼の左肩の戦傷も、ジェザイル銃弾によるものではなく、魔獣の鉤爪で三角筋を引き裂かれた傷なのだそうな。出会いの場も、ワトスンの友人だったスタンフォードを尾行していたホームズと場末の酒場でのこと。
　ホームズが追っていた相手とは、ロンドンに蔓延するアヘンの元締め。謎の中国人という、いかにも西欧人が考えそうなネタなのですが、その背後にあったのは人知を越えたおぞましい謎。おどろおどろしい邪教の世界。

　「・・・シャドウェルのことは忘れてしまえ。あの場所には関わるな。二度とあそこに近寄るな。力がはたらいている･･･人間以上の人間たち･･･連中は〝グレイト・オールド・ワンズ〟と手を結んでいる。禁断の力を求めている。やつらが力を手にしたらおしまいだ。神よ･･････われらを助け･･････たまえ･･･」（P92）

　そこで、だ。
　鐵太郎は、文学においてホラーとかオカルトとかは苦手なのね。苦手と言うより嫌いなのです。
　理性的、科学的でないアプローチはできない石頭の左脳人間なのです。
　謎の中国人の陰謀、古代の邪神の世界、人目につかず長年眠っていたおぞましい宇宙論などは、通る理屈で説明せずただファンタジールールを信じろという言われても、駄目なのです。
　まして、1890年に生まれて作家ラヴクラフトによって20世紀初頭に作り上げられた「クトゥルフ（クトゥルー）神話」など、人類の歴史の中では新参者のオカルト世界、それも鐵太郎が相容れない分野の世界でしかない。それを背景とした魔物が古代から存在したと言われても、なぁ。
　それをホームズ譚と絡められても、なぁ。
　カリブ海の抑圧された世界の中でひとつの救いとして生まれたゾンビが登場したときには、読みながら吹いてしまいました。
　すみません、無粋な人でごめんなさい。

　そう、この本はシャーロック・ホームズが実在である時間線の物語です。ドイルなどと言う「出版代理人」は影すら見せない。ホームズ・パスティーシュのパターンの一つ。
　同時に、H・P・ラヴクラフトの作り上げたクトゥルー神話の世界もまた実在であり、この二つの世界が共存したという時間線です。両者の世界を許容でき、好ましく思える人になら、この物語は好感を持って読まれるでしょう。

　以上です。おそらくこの先に刊行されるだろう三部冊の残りを買うことはないのではないかな。まる。（2022/11/2）

　読書メーターの記録より　　読了：2022/10/20　