N055 ガース・ニクス

作家番号： N055	ガース・ニクス	Nix, Garth
	国籍：オーストラリア	生没年：1963/7/19～
オーストラリア、ビクトリア州メルボルン生まれ。シドニー在住のSF、ファンタジー作家。　キャンベラ大学卒業。書店経営者、編集者などを経て2001年から専業作家。　日本では、『古王国記シリーズ』や『セブンスタワーシリーズ』の作者として知られている。

管理番号	書　　名		メ　　モ
N055-001	銀河帝国を継ぐ者		銀河をまたにかけた痛快な冒険

		Ver. 3.01

管理番号：N055-001

12 新スペースオペラ

出版社：東京創元社

書名：銀河帝国を継ぐ者			ISBN978-4-488-70201-4　C0197
原題：A Confusion of Princes　（2012）		翻訳者：中村仁美
創元推理文庫SF ニ3-1　70201	価格：1200Yen	ページ数：464P		本のサイズ：文庫
初版発行：2014/8/29	購入：2014/10/26	表紙イラスト：

　ぼくは三度死んで、三度生き返った。それでも、今も使われている旧地球の暦で数えて、まだ二十歳にもなっていない。
　これはぼくの三度の死と、その合間の人生の物語だ。　　（P9）

　こうしてお話は始まります。ぼくはケムリ。プリンスのひとり。
　プリンス、と一応訳語はあてられます。英語直訳ですが、王子と訳するわけにはいかないのでこうしたのでしょうか。Princeという単語には、公国の君主、大公などの意味もあり、単純に王の息子という意味だけではないので、ここは微妙なところか。
　英国皇太子の称号、Prince of Wales というのは、王子の意味ではありません。ウェールズ大公という称号で、イギリス連邦を構成する四つの国家の一つ、ウェールズの君主であることを示します。
　なんなるシッタカなので閑話休題(笑)。

　この物語の中でのプリンスとは、銀河帝国の皇帝候補として帝国を統治する役目を負ったエリートらしい。厳密には一千万のプリンスの一人。一千七百万の星系と何千万の惑星にいる銀河帝国の何兆もの帝国臣民の上に立つ存在だけど、唯一ではない。
　プリンス候補として親も知らずに育てられ、選抜されて初めてプリンスとなるのです。ぼく、ケムリもそのひとり。
　だから、一般庶民から見たら傲慢なエリートかもしれないけれど、プリンスになりたてのぼくのような者は、単なる下っ端。しかも、プリンスはお互いに軍隊組織の一員として上級幹部のヒエラルキーを形成している上に、隙あらば互いを蹴落とそうとしているのです。
　なぜなら、彼らはすべて次期皇帝候補であり、今帝国を絶対的な権力で統括している皇帝が、あと二年で退位することがもう決定しているから。

　18歳になって、プリンス候補からプリンスに呼び名が変わったぼくは、ぼくに新しいプリースト、つまりこの場合は従者が付くことを知らされます。プリーストとは、皇帝陛下の、つまり帝国中枢のあらゆる雑事を行う官僚兼奉仕者件アドバイザーのようなもの。
　ぼくに付いたプリーストは、つまりはぼくの家臣団ということ。
　付けられた新しいプリーストは、ハダドと名乗ります。＜暗殺マスター＞なのですが、彼について何か知ろうとする前に、いきなり彼の手で見習いプリーストからの暗殺の試みから救われて、驚愕することに。どうやらこの世界、あまいものじゃないらしい。ハダドの説明によると、ぼくが昇進したことを聞きつけたほかのプリンスたちが、一斉に未来の脅威となるかもしれないぼくの排除を試みているという。
　偉いはずのプリンスにとっても、住みにくい世の中なんですねぇ。
　ハダドのアドバイスに従って航宙軍へ入隊することになったものの、そこで最初に出会ったプリンス・アタリンという上級生の女性プリンスは、無礼と言うよりイヤミ、苛めのオーラぷんぷん。この世界はこんなものなのか。
　プリンス同士では瞬時に互いのＩＤを読み合うことができるので、相手が＜ハウス・ジェラジス＞つまり航宙軍中将プリンス・ジェラジス五世配下のグループに属していることも分かりますが、それはどういう意味なのか。

　わからない事だらけの中で、プリンスとして誇り高く育てられていたぼくは、この中では自分が取るに足らない存在なのだと知らされて愕然とします。さっそくに暗殺されそうになったりもするし。
　ぼくに付けられた＜暗殺マスター＞ハダドが、帝国の中でも抜きんでたプリーストであるということも驚きですが、＜帝国頭脳中枢＞に接続してもらおうと大プリーストに「要求」してみると（なにしろぼくはプリンスなんだから、大がつこうがプリーストごときより身分はずっと上のはず）、自分はプリンスではあるが帝国の組織の中では下っ端同然である事を思い知らされます。
　しかもその大プリースト、＜皇帝陛下の相違を見分ける手の相＞のモロジャルは、皇帝がなにかぼくにさせようとしていることを伝えるとともに、この会見とこの会話はなかったのだ、とぼくに秘密を要求します。

　こうして始まったぼく、プリンス・ケムリの冒険。出だし、いささか退屈な展開を予想させられたのですが、裏切られました。
　次から次へと降りかかるさまざまなトラブル、危機。
　今まで知らなかった帝国の七つ目の公務、「調整局」の調整官に選ばれたり、プリンスの階級を剥奪されたり、今まで考えもしなかった、プリンスとして踏みつけていた下層民の世界を見ることになったりして、退位寸前の皇帝の後継者レースに乗れるのかも分からないままに状況のまま、ぼくはあちらこちらに振り回されます。いったい何のために。
　千人に絞られるという皇帝候補が実は違っていた事など、次々に現れる秘密。いったいぼくは何者なのか。

　こいつぁ、面白い。こんなＳＦって、すきだな。　　（2015/4/24）