Q002 A. J. クィネル

作家番号：Q002	A. J. クィネル	Quinnell, A. J.
	国籍：イギリス	生没年：1940/6/25～2005/7/10
本名フィリップ･ニコルスン。ミステリ＆スリラー作家

管理番号	書　　名		翻訳者	メ　　モ
Q002-001	スナップ･ショット		大熊栄	イスラエルの戦争のなかで起きた冒険

		Ver. 3.05

管理番号：Q002-001

20 現代冒険小説

出版社：新潮社

書名：スナップ･ショット			ISBN4-10-220501-2　C0197
原題：Snap Shot（1982）					翻訳者：大熊　栄
新潮文庫ク-5-1　3223	価格：600Yen	ページ数：464P		本のサイズ：文庫
初版発行：84/6/25　8刷：87/1/10	購入：1988/11/27	カバー：ナカムラテルオ

　1981年6月7日日曜日、イスラエル空軍はイラクの原子炉を奇襲攻撃し、起動間近の原子炉を完全破壊しました。いわゆるバビロン作戦。
　イラクが、核兵器製造が可能な原子炉を稼働させることを防ぐための、イスラエルにとっては防衛のための軍事作戦。しかしむろん、客観的に見れば戦争状態にない国同士での奇襲軍事攻撃です。戦争を引き起こす可能性を含め、人道的に世界の非難を浴びるであろうこの作戦をイスラエルはなぜ行ったのか。そのとき何があったのか。

　クィネルはこの歴史を元に、こうであったかもしれないというフィクションの物語を、この事件の翌年に上梓しました。
　これが、それ。

　デヴィッド・マンガーというカメラマンが、精神的にも肉体的にも打ちのめされてサイゴンでくすぶっているところから始まります。彼はカメラマンを廃業すると宣言します。
　彼のガールフレンドのジャニーヌ・ルサージュとの軋轢が、未来を暗示します。最初の描写だけでは分からないのですが、どうやら彼女はラスボスまでは行かないが、なかなかの大物らしい。

　マンガーとは、伝説にまでなったフリーのカメラマン。彼のモノクロ写真は、世界のトップ記事、超有名雑誌の表紙を飾る常連でした。その彼が不意に隠退するというニュースは、世界を驚かせたもの。
　彼は自分の写真機材をすべて売り払います。彼の、世界に一台しかない特殊なオプションが突いたニコンFTNを、七千香港ドルという破格の価格で買い取ったのは、ダフ・ペイジェット。1969年10月26日のこと。
　このカメラについてですが、ニコンフォトミックFTnなのかニコマートFTnなのか分からないので、画像はなし。この二つのシリーズがどう違うのか、どのようなものなのかについてもさっぱりわからないので、このへんはオミット。あ、七千香港ドルがどのくらいの価値なのかについても、オミット。個人が払えるかなりの金額、というと二～五百万円？
　ダフと競り合ったのは、そのカメラを戦利品として手に入れてマンガーを嘲笑しようと考えていたジャニーヌ･ルサージュ。彼女は今後ダフたちの敵になることに。
　またダフは、最初の結婚記念日のプレゼントをフイにされた妻ルースと大喧嘩をすることになります。が、それはまた別な話。
　なぜダフがマンガーのカメラを手に入れたのかは、訳があります。彼が一流のカメラマンになるための一押しをしてくれたことに恩を感じていた事が一つ。でもそれだけではない。ダフには、どんな精神的ショックがあったにせよ、マンガーは復活しなければならないし、そのときにはこの特別製のニコンが必要になると確信していたから。

　もう一人、主要なキャラがいます。ユダヤ人の血を引く白系ロシア人ウォールター･ブラム。体重300ポンドの中年男。中国を中心に東アジアに覇を唱えるウォーレン交易の社長で大富豪。かつて中国政府に逮捕されていた半年で読みふけって丸暗記した「ハムレット」からの引用が習慣。
　と同時に、中東戦争の英雄モーシェ・ダヤンその人の勧誘により、モサドのエージェント、つまりイスラエルのスパイになっていたのでした。それも、＜オレンジ･ワン＞というコードネームで呼ばれる、驚くほど優秀なスパイ･マスターに。

　この陰で、イラクの中で軍事力強化、経済発展と国威発揚のため、フランスの原子炉を導入する計画があることが察知されます。そしてその原子炉は、プルトニウムを生成できる可能性が高いらしい。
　であれば、これは核兵器の原料の製造施設以外の何ものでも無い。
　イスラエルにとって、軍事的脅威である。
　どうすればいいのか。

　ウォールターは三本の指を挙げた。「三つの段階があるんです。第一、外交的手段を使ってフランスに思いとどまらせようとしてみること。第二、いかなる手段を使っても取引を妨害すること。第三、原子炉が搬入された場合、使用不能にすること」　（P109）

　そのための手段としてウォールターが選んだのは、マンガー。
　この男なら、世界のどこにでも行ける。父親はイギリスの下級官吏だったが母親は医者でユダヤ人だった。
　シオニストではなかった彼女は、しかし戦後にアウシュビッツに行ったことで衝撃を受け、家族を捨てて新しく生まれたイスラエルに行ってしまったという。マンガーが超一流の戦争カメラマン、戦争以外何も写真に撮れない男になった理由もそこにあるのかもしれない。
　であれば彼は、今は興味なくても、イスラエルのための超一流のスパイになりうるのではないか。

　ダフ・ペイジェットが暗殺されます。ウージーの銃弾を70発以上撃ちこまれながら、瀕死の中で彼がシャッターを押したカメラのフィルムより、ジャニーヌ・ルサージュの顔が浮かび上がったのでした。これを見て、ウォールターは彼女がPLOと組んでなにやら企んでいることを察知します。
　ではなんとしてでも優秀なスパイとしてマンガーは必要。
　説得のために何が行われたのか。
　ダフが死んだのち、その死を乗りこえた未亡人ルースがなぐさめを得たのは、とある空軍士官、ギデオンガリーリ。イスラエルの優秀なパイロット。彼はなにをルースに求めたのか。
　その先にあったものはなんだったのか。

　30年ほど前、一度は確実に読んだはずです。フィナーレで何があったのかは覚えていました。
　しかしこの終盤で行われたさまざまなアクションは、すっかり忘れていました。なんと、まあ。

　こいつは、見事な「ありえないけどあったかもしれない冒険」です。うん。　（2019/5/22）

　読書メーターの記録より　　読了：2019/4/18