S013 トマス・バーネット・スワン

作家番号： S013	トマス・バーネット・スワン	Swann, Thomas Burnett
	国籍：アメリカ合衆国	生没年：1928/10/12～1976/5/5
フロリダ州生まれ。デューク大学で文学士号、テネシー大学で修士号、フロリダ・アトランティック大学で哲学博士号をうけ、一時ウェストレイヤン大学で英文学の教鞭をとっていたが、60年代に入って教職を辞し、小説一本に専念する。　詩に関する著作と共に、歴史を題材にしたファンタジーで有名。　生涯結婚せず、47歳で癌によりフロリダの両親の家で歿した。

管理番号	書　　名		メ　　モ
S013-001	薔薇の荘園		精霊がいたころのファンタジー三編

		Ver. 2.23

管理番号：S013-001

17 ファンタジー類

出版社：早川書房

書名：薔薇の荘園			ISBNなし
原題：The Manor of Roses　AndOtherStories　（1966）		翻訳者：風見潤
ハヤカワ文庫SF267　早川文庫690	価格：330Yen	ページ数：280P		本のサイズ：文庫
初版発行：1977/11/15	購入：1977/11/17	表紙イラスト：萩尾望都

　まだハヤカワ文庫FTがなかった頃ですよね。もしあれば、当然ファンタジーとして分類されたはず。
　神話と伝説を、歴史にはめ込んだようなお話が三点。

火の鳥はどこに　　Where Is the Bird of Fire？
　時代は紀元前8世紀、のちにローマと言われるようになった地。
　「私」はファウニ族のシルウィン。ファウニ族は10歳が寿命なので、その命は早く燃え尽きます。
　私が生まれて半年、つまり人間で言う5歳ぐらいの時に、ロムルスとレムスという双子の兄弟に出会いました。それから10年の間に、彼らの作った小さな町、二人の争い、そしてパラティーヌスの丘にできたローマを見ることができました。
　ファウニ族とは、蹄と尖った耳を持つ種族でサトゥルヌスの眷属。精霊のまだ生きていた時代、ローマ建国の陰で起きた事。火の鳥と共に消えていった黄金時代とは、いったいなんだったのか。

ヴァシチ
　時代は紀元前5世紀、ペルシャ。
　「彼」の名前はイアニスコス。＜小さな治療師＞。ペルシャのクセルクセス王に使える道化。
　外観は6歳なのにその中は青年のイアニスコスは、薬草や病気、治療については異常なほどの知識を持っているが、その身体ゆえに子供として扱われ、それがたまらなく嫌。
　宮廷での話題は子を産めない王の第一妃、ヴァシチのこと。黒い肌のナバテア人の王女だったという彼女が、なぜ白い肌なのか。
　彼女には謎が多い。幽鬼（ジン）ではないかと言う人もいる。彼女はいったい何者だったのか。

薔薇の荘園　　The Manor of Roses
　13世紀、イギリス。
　マンドレイク族、生きている植物が野山に潜んでいた時代。そして十字軍の狂熱がキリスト教世界を時折襲った時代。
　11年前に夫エドモンド卿を聖地でなくし、昨年十字軍遠征の旅に出る息子をテムズの堤で亡くしたわたし、荘園の女主人メアリイは、ある日三人の子供たちに出会います。
　黒い髪のノルマン人、ジョン。サクソン人のスティーヴン。二人が自分たちの守護天使と信じる少女ルース。
　12歳になったジョンは、領主の末子。学問が好きで才能豊かだが戦いは嫌い。狩りでの失態が元で城から抜け出したのです。
　その三歳年長のスティーヴンは農奴。かつてノルマン人に征服されるまではこの地の伯爵だった家系の末裔。乱暴もの。
　その二人の前に現れた娘を、スティーヴンは天使だと信じます。
　三人は、神の国へ、十字軍に行こうと話し合います。その途上で迷い込んだのが小さな荘園。
　彼らを歓待したわたしは、何をしようとしたのか。そこでなにがあったのか。

　なんとも不思議な物語です。歴史をしっかりと踏まえているけれど、あきらかにファンタジー。
　鐵太郎の趣味とは外れているし、決して愛読書とはならないジャンルの本なのに、忘れられない。
　読み返してみて、改めて奇妙な味わいのあるお話でした。
　萩尾望都さんの線の細い表紙絵も、良いイメージですね。　　（2011/7/20）