S103 アレックス・シモンズ＆ビル・マッケイ

作家番号： S103	アレックス・シモンズ＆ビル・マッケイ	Simmons, Alex & McCay, Bill
	国籍：イギリス	生没年：？
アレックス・シモンズ：　ミステリー作家、脚本家。講演・創作のワークショップ・演劇の演出などを行う。ビル・マッケイ：　編集者、作家。ミステリーや冒険小説が得意分野。

管理番号	書　　名		メ　　モ
S103-001	＜カラス同盟＞事件簿		ベーカー街不正規隊の少年たちの冒険

		Ver. 2.21

管理番号：S103-001

42 シャーロック・ホームズ・ノベル

出版社：あすなろ書房

書名：＜カラス同盟＞事件簿	シャーロック・ホームズ外伝		ISBN978-4-7515-1909-7 C8097
原題：The Raven League: Sherlock Holmes Missing!　（2006）
翻訳：片岡しのぶ	価格：1300Yen	ページ数：215P		本のサイズ：135×195HC
初版発行：2008/2/20	購入：2008/7/11	表紙・挿絵：佐竹美保

　ホームズものにもいろいろあります。この本は、目線を子供の高さに下げ、子供向けの体裁となっています。ジュブナイルと言ったらいいのかな。
　それでも、意外なことにと言ったら失礼かもしれませんが、大人のシャーロッキアンの鑑賞に耐える書き方だとおもいますね、これ。時代背景からホームズ世界の解釈まで、しっかり書かれていますよ。

　主人公は、ウィギンスという少年です。フルネームは、アーチボルト・フランシス・ウィギンスとのこと。
　シャーロッキアンにならお馴染みですが、ホームズは自分の私設探偵組織を持っていました、それも、下層階級の少年たちという意表を突いたものです。彼らならいつでも時間は取れますし、好奇心もあるし、大人の目の届かないところにも平気で入り込める。聡明な少年を選べば、自分の判断で命ぜられた以上の捜査も行える。役に立っているという達成感があれば、期待以上の働きもする。
　「刑事警察ベイカー街分隊だよ」 “It's the Baker Street division of the detective police force,”
　　　　（小池滋訳　東京図書・刊　シャーロック・ホームズ全集第3巻「緋色の研究」　より）
　と、ホームズは最初説明します。のちにベイカー街遊撃隊（Baker Street Irregulars)と呼ばれます。この言葉にインスパイアされたものとしては、日本だけでも「明智小五郎」から「銀河英雄伝説」に至るまで、さまざまなですよね。もともとはホームズが使ったロンドンの少年たちによる不正規部隊です。
　世界最初に作られたホームズマニアの愛好団体が「ベイカー・ストリート・イレギュラーズ」と呼ばれたのは、むろんこれにちなみます。
　駄賃は、むろん払っていますよ。普通の捜査であっても一人あたま日当として1シリング（約2000円？）払っています。成果によって半クラウン（約5000円？）、時には賞金としてみんなに1ギニー（約42000円？）を払うこともあったようです。半クラウンだと、イーストエンドなら港の重労働で一週間の賃金の半分、仕立て仕事でブラウスが6枚仕上げなくてはもらえない。当時の下町を考えたら、破格の条件かもしれない。この支払いの良さが、忠誠心に結びついたのは言うまでもありません。
　このリーダー格であるウィギンスを主人公に据えたのがこの物語です。

　幕開けは、そのウィギンスが仲間の少年たちからリンチを受けているところです。どうやら、仲間であったティム・ドゥーランという少年の死に、彼が責任があるらしい。もう＜ベーカー街不正規隊＞は解散だし、お前は追放だ、と言われ、殴る蹴るの暴行をうけています。助けてくれたのは、オーウェンスという黒人系の少年。
　母と二人で住んでいる家に帰ると、母の友人のクララ・スタンリーとその娘が来ていました。貧しい暮らしの相談らしい。その娘、ジェニーことユージェニアと外鳥射ち帽（deer stalker）

に出たウィギンスは、今度はティムの弟ドゥーリーと出会います。彼が、とんでもないことを言いだします。
　なんと、あのホームズさんらしい人が誘拐され、縛り上げられていると。殺されるかもしれない。前にホームズさんがかぶっているところを見たことがある鹿射ち帽（右写真）らしいものも拾ったという。
　さあ大変だ、ホームズさんに何かがあったのかもしれない。
　ティムのことと＜ベーカー街不正規隊＞の仲間たちに受けた仕打ちで落ち込んでいたウィギンスですが、だんだん元気を取り戻します。調べてみると、何か大きな陰謀があるらしい。
　ウィギンスとオーウェンス、ジェニー、ドゥーリーの4人は、仲間になってホームズさんを助け出そうと相談します。今さら昔の＜ベーカー街不正規隊＞の奴らはもういい。集まった居酒屋＜カラス亭＞の名前を取って、新たに＜カラス同盟＞という名を作りました。

　これは、子供たちの、子供たちのための冒険物語です。彼らは決して超人ではない。根性はあっても空は飛べない。
　「名探偵カッレくん」の世界を思い出しました。あんな感じです。
　おりしも、ヴィクトリア女王（1819/5/24 - 1901/1/22）の即位50周年祝典、1887年6月20日まであと数日。世界から重要人物が集まり、ロンドンも活気を呈しています。どうやら、何かの陰謀があるようです。彼らは何を見つけたのか。

　いい本です、これ。子供だけに見せるのはもったいない。
　時代背景はしっかり書かれていますし、話の構成もしっかりしている。新時代の正統派のパスティーシュと言ってもいいのではないかな。
　この本で、新しいホームズ・ファンが増えるのも、面白いかも。　　（08/11/26）