S131 ジャスパー・T・スコット

作家番号： S131	ジャスパー・T・スコット	Scott, Jasper T.
	国籍：カナダ	生没年：？-？

管理番号	書　　名		メ　　モ
S131-001	最後の帝国艦隊		負けっ放しのヒーローの冒険

		Ver. 3.01

管理番号：S131-001

12 新スペースオペラ

出版社：早川書房

書名：最後の帝国艦隊			ISBN978-4-15-011998-0　C0197
原題：Dark Space　（2013）		翻訳者：幹遙子
ハヤカワ文庫SF1998　ス19-1　7514	価格：840Yen	ページ数：320P		本のサイズ：文庫
初版発行：2015/3/25	購入：2015/3/20	カバーイラスト：EVILVIT カバーデザイン：ハヤカワ・デザイン

　プロローグは、激烈な宇宙戦、らしい。あとで気がつくのですが、これはこのあとのクライマックスシーンの一つで、いってみれば宣伝文みたいなものかな。スリリングなんだけど、

　向きを変え、最後のアフターバーナーに点火して敵の戦闘機に追いつこうとした。　　（P12）

　という文章であらっとつまずいてしまった。
　何でつまずいたのかというと、宇宙空間で反動エンジン、つまり何かを背後に噴射してその運動エネルギーの転換で加速する方式で推進している宇宙戦闘機なんですよね、これ。それが、どうやってアフターバーナー、つまり熱い排気の中に燃料を流し込んで再燃焼させてさらに高い推力を得る事ができるのか、ということです。周りに燃焼の手助けをする酸素のない環境で、ほぼ完璧な混合率ですでに燃焼されたあとの排気の中に燃料を流し込んでも、意味がありません。旧日本軍の戦闘機のように水をぶっかける方がまだ意味があるかもしれない。
　多分、この世界独特の「たまに使える加速装置」の事だと善意に解釈したいんだけど、この言葉で本の内容に不安を覚えたのは事実。

　でもまぁ、面白かった。わりと。
　物語はそのクライマックスのちょっと前、主人公イーサン・オルティンが生き残った人類が立て籠もる銀河の辺境＜暗黒星域＞で腐っているところから。彼は11年前に密輸が発覚したため、妻と小さい息子を残して＜暗黒星域＞に流刑にされたます。
　追放されたつぎの年、“髑髏顔”、サイジアンと呼ばれる昆虫型異星人が大挙して人類領域に入り込み、あっという間に人類を駆逐してしまったのでした。高いテクノロジーはないのですが数が非常に多く協調性にも長けていて、チームワークのいい奇襲攻撃で人類帝国軍を常に圧倒したのでした。
　その結果残り少ない人類は＜暗黒星域＞に逃げ込み、ようやくひと息つきます。そこで流刑になっていたイーサンも “危険でない” 囚人として釈放され、自由の身になったのですが、妻子はついに見つかりませんでした。紆余曲折の末、いまは偶然であって相棒としたアレイラとともに小さな輸送船で日銭を稼ぐ状態。相棒のアレイラが若い美女でイーサンに思いを寄せているのはお約束。

　仕事がなくて破産状態になっていたイーサンは、帝国軍に入隊しようと決心します。そうでなければ、借金取りに殺されるから。
　しかしその借金取り、“超頭いい”ブロンディにつかまってしまったイーサンは、アレイラを人質にされて要求されます。人類を守るためゲートの守備につく巨大空母＜ヴァリアント＞に潜入し、勤務している5万人の将兵を殺せ、と。

　ここから始まるイーサンの冒険なのですが、こいつがまたすごい。あちこちでそれなりに大活躍するのですが、なにしろ負けっ放し。あっちで負け、こっちで負け。イーサンはブロンディに負けっ放し、人類はサイジアンと獅子身中の虫たちに負けっぱなし。
　やがてこの世界を統治する超越君主ドミニクと自分の驚くべき関係も見えてきます。星系間帝国(ISS)()の王座の秘密とはいったい何だったのか。

　とりあえず、一夜の楽しみとしては面白い。意外に、といっては失礼だけど。　　（2015/9/10）