T017 デュマレスト 01～10

デュマレスト・サーガ　1～10

管理番号	書　　名	翻訳者	メ　　モ
T017-001	嵐の惑星ガース	鎌田三平	宇宙の渡り者アール・デュマレスト初登場
T017-002	夢見る惑星フォルゴーン	大西憲	デュマレストは恋しちゃいけないよ？
T017-003	迷宮惑星トイ	酒井昭伸	時には人を信じない方がいい
T017-004	共生惑星ソリス	佐治弓子	また恋をして秘密を抱え込んだデュマレスト
T017-005	キノコの惑星スカー	鎌田三平	硬貨の裏表に未来を預けるあの男
T017-006	聖なる惑星シュライン	大西憲	結婚してしまったデュマレストと指輪の謎
T017-007	科学惑星テクノス	酒井昭伸	ふたつの世界を救うこととなったデュマレスト

管理番号：T017-001

11 旧スペースオペラ　　　

出版社：東京創元社

書名：嵐の惑星ガース

デュマレスト・サーガ 1

ISBNなし

原題：The Winds of Gath（1967）

翻訳者：鎌田三平

創元推理文庫 674-1

価格：300Yen

ページ数：256P

本のサイズ：文庫

初版発行：1982/7/30

購入：1982/8/26

AD, Logo-Design：アトリエ絵夢
イラスト：稲葉隆一

　人類の起源が「太陽(ソル)」という恒星の周囲をめぐる「地球(アース)」という惑星であったことも忘れられた遙かな未来の物語。アール・デュマレストという「渡り者」。渡り者とは、最低の料金で宇宙船に乗り、職を求めてあちこちの惑星を渡り歩く者たちのこと。ロマンチックな幻想を抱く者も多いが、実際は苛酷で死亡率の高いうらぶれた連中。
　惑星ブルームへの契約をしたはずなのに、デュマレストが乗船したあとで船をチャーターしたカンド女皇国の女皇の一声で、デュマレストが人工冬眠から蘇生したとき着いた場所は、惑星ガースでした。ここは、天球の音楽が聞こえると言う観光客のための星。往復切符を持った金持ちのための最果ての地で、巨大な暴風のさなかに聞こえる特殊な音楽を見る場所以外、渡り者がここを抜け出すための旅費を稼ぐ国内産業も、しっかりした社会もない。この星では、幸運に恵まれない渡り者は野垂れ死ぬしかない。
　どうすればいいのか。

　この巻で、デュマレストという男の姿が紹介されます。タフで切れる頭脳を持ち、あきらめることを知らず、油断なく生きることに執着する男。しかし友人と定めた者のためなら、平気で自分の有り金も命も差し出す。弱いもののために体を張る正義漢。

　そして登場する二つの組織。サイクランと宇宙友愛会のこと。

　サイクラン（Cyclan）とは、論理によって銀河に秩序をもたらそうとする宇宙的組織。サイバーと呼ばれる冷酷な論理的思考をするエージェントが宇宙全体に派遣されており、この巻でもダインというサイバーが登場します。

　彼は五歳で選びだされた。十五歳で強制的に成熟期を迎えさせられたのち、視床部の手術を受けたのだ。空は喜びも、憎しみも、欲望も、苦痛も感じることができない。彼は血と肉でできた冷たく論理的な機械であり、超絶的で公平な人間ロボットであった。彼の唯一の喜びは、推論の正しさが判明したときの、知的満足感だった。（P21）

　そして彼らサイバーは、「サマチャジの相」に入ることにより植え込まれたホモコン素子を作動させ、サイクランの本部の中央値生体と時間的遅延なく結城通信を行う事ができ、常に直接指示を仰ぐことができます。サイバーたちの究極の目的は、この中央値生体の一部となること。
　この、感情のない人々の組織が、「悪」としてデュマレストの前に立ちはだかります。
　今回はまだ、小物としてデュマレストは見逃されますが。

　宇宙友愛会（Church of Universal Brotherhood）とは一種の宗教的組織。派遣された、高度に訓練を受けた僧たちは、宇宙のあらゆるところに教会を建て、不幸な人々の懺悔を聞き、平安を与えます。＜神の栄光のためにのみ、われは行かん＞をモットーとして。この巻では使われませんが、もう一つのモットー、＜神の恩寵なかりせば、我らもまたかくあらん＞とは、たしかカトリック教会の修道会の一つであるフランチェスコ会のものだったという記憶がありますが、どうだったかな。
　ブラザーという敬称で呼ばれる僧たちは、ただの力のない伝道者ではなく訓練された特殊な力も持っていますが、これはやがて描写されるもの。「礼拝」を行って貧しい人々を集め、与えられる濃縮ウェハースが目当ての彼らに浄福灯を浴びさせ、暴力的性格をやわらげるのでした。
　彼らは、この物語の中で、いわば善なるもの。自分たちの中に入ろうとしないデュマレストですが、いずれ徐々に好意的な姿勢を示すようになっていきます。

　今回の物語は顔見せ的なところもありますが、カンド女皇国のグロリア女皇に襲いかかる陰謀を暴き、サイクランの計画を阻止して終わります──が、終わりはいささか唐突。
　このシリーズ、こんな終わり方だったっけ？　次の巻はどこにあるんだ。さがさなくては。（2021/11/13）

　読書メーターの記録より　　読了：2021/11/6　

管理番号：T017-002

11 旧スペースオペラ　　　

出版社：東京創元社

書名：夢見る惑星フォルゴーン

デュマレスト・サーガ 2

ISBNなし

原題：Derai（1968）

翻訳者：大西憲

創元推理文庫 674-2

価格：300Yen

ページ数：256P

本のサイズ：文庫

初版発行：1982/9/3

購入：1982/8/29

AD, Logo-Design：アトリエ絵夢
イラスト：稲葉隆一

　惑星ガースでの働きのあと、カンド、スタルガー、エイム、エクソン、そしてグリースと渡ったアール・ディマレストは、惑星カイルでとある仕事を依頼されます。カルダー家のデライ嬢を護衛して惑星ハイヴに行ってもらいたいのだと。名のある「家」の一員である彼女を、なぜこっそりと連れて行かなければならないのか、謎があります。
　紆余曲折の末に、特等旅費二回分の謝礼金により引き受けたデュマレスト。この娘とハイヴに向かう小さな貨客船に乗り込みます。特等料金なので、人体を低速代謝にする技術により一日を一時間以下にして起きたまま旅をします。下等では、安価ながら15パーセントの死亡率に賭けて90パーセント死んだ状態で冷凍されて運ばれますので、それよりはましといえばまし。
　旅をするうちに、この少女が異様に勘がいい、おそらく生来のテレパスではないかと気づきます。
　そして、彼女の特殊能力はカルダー家にとって重要な意味があるらしい。

　惑星ハイヴを支配する＜家＞は、かつては23あったのですが、現在は半減し、11家。その一つカルダー家の＜家長＞(オールド・マン)は、姪であるデライを故郷に呼び戻した家長代理のヨハンの父と称せられていますが曾祖父。でぶでぶにむくんだ体をベッドに横たえ、ほとんど意識もなく、何世代にもわたって寿命を延ばして生きていた老人。とはいえその脳はいまだに健在で、カルダー家を支配しています。
　彼の寿命を延ばしているのは、ハイヴでしか生存できないミュータント蜂のローヤルゼリーであるアンブロセイラ。これが、資源も農産物もないこの惑星の重要な輸出品目であり、ハイヴの11家はこれを統制することがその存在理由であったのでした。
　そして、いずれ死んでいくだろうカルダー家家長の後継者を巡る争いに、テレパシー能力を持っているデライは重要な駒だった訳。

　カルダー家に参謀役として入り込むサイクランのサイバー。この世界でも存在感を示す宇宙友愛教会。なにを待っているのか。

　この争いの中で、デライの異母兄のブレイン・カルダーは、死にかけた家長が命ずる惑星フォルゴーン行きに連れて行かれるデライの身を案じ、いつの間にかデライと相思相愛となっているデュマレストに護衛を頼みます。すでにカルダー家の一員とトラブルを起こしてしまったデュマレストですから、ハイヴに居場所はない。ならばデライを助けてくれないか、と。しかし

　「断わる」デュマレストは、外を眺めていた窓から振り向いていった。そこは、発着場を見おろす居酒屋の二階だった。照明が周囲の柵を照らし、砂利の上に立っている二隻の宇宙船の船体でかすかに反射している。街の通りや家々からも、光が出ていた。この窓からなら、下のポーチの屋根に飛び降りて、通りに降りることもできるだろう。「断わる」もう一度彼は言った。「申し訳ないが、興味がないんだ」（P162）

　と、デュマレスト。人の揉めごとに巻き込まれたくはないという彼のポリシー。デュマレストらしいね。
　しかし、デライを思うブレインの願いについに屈して引き受けてしまうのも、これまたデュマレストらしいところ。
　人々の心を解放するフォルゴーンで、彼らは何を見たのか。

　このお話で、タフでニヒルでクールながら情に篤く、友となったものを裏切らないデュマレストらしさがみえてきます。なんと今回は、彼のために命を投げ出す友も現れるほど。
　そして、こういうタイプのヒーローは恋しちゃ駄目だということ。うん、愛し愛される相手を見つけちゃ駄目だよ。ほら、ああいう別れになるじゃないか。
　それはデライが本当に求めたいたことだったのか。
　最後に、デライはデュマレストが探し求める地球についてのかすかな情報をもたらします。それは存在すると。そしてサイクランがそれを知っていると。
　そして、物語は続くのです。（2021/12/11）

　読書メーターの記録より　　読了：2021/11/29　

管理番号：T017-003

11 旧スペースオペラ　　　

出版社：東京創元社

書名：迷宮惑星トイ

デュマレスト・サーガ 3

ISBNなし

原題：Toyman（1969）

翻訳者：酒井昭伸

創元推理文庫 674-3

価格：220Yen

ページ数：256P

本のサイズ：文庫

初版発行：1982/10/1

購入：1982/10/15

AD, Logo-Design：アトリエ絵夢
イラスト：稲葉隆一

　アール・デュマレストの地球さがし冒険その３。今回の舞台は、一日が50時間以上になる惑星トイ。30時間太陽は空にあり、24時間の夜の間に世界は冷え切ってしまう世界。
　はるか昔、グレイルの執政官コンラッドという男が、長男の誕生を知ってその子のオモチャとして一つの惑星を与えたそうな。そしてその結果、この惑星はトイ(おもちゃ)─Toy─と名づけられたという。
　この惑星を与えられた男は、ここを理想的な株式会社にしようと考えます。初代の植民者をすべて株主にし、それぞれが惑星の富を公平に分配できるシステムとしたのです。株主同士の礼儀を規定し、産出される富を必ず年度内に支出することが義務化されます。余剰の生産物は輸出され、惑星自体の経済成長は確保されると共に特定の株主が利益を独占することもありません。
　優れたシステムでした──外世界の労働力が、この惑星の繁栄のおこぼれを得ようと流れ込んでくるまでは。そこで発生したのは、株主の世襲化・貴族化と株主たちを統括するように設けられた第一人者、トイマスターへの権力集中。そして貴族階層と奴隷階層、持てるものと持たざるものの確執。

　この惑星に到着した流れ者デュマレストは、着いたとたんに近衛兵に捕まります。特等の旅費二回分を払えないと裁判の上無宿者として一年間の強制労働、それがいやなら旅費の代償としてある戦いに一日参加してもらう、という。
　選択の余地もなく戦いとやらに参加したデュマレスト、これがトイマスターの主催する金のかかったゲームで、彼は負ける予定の側だったことを知ります──が、例によって知恵と手腕を駆使して生き延びてしまう。その結果、紡績商協会に属するレオン・ハールの知己を得て、惑星の40パーセントの株を持つ今のトイマスターであるグレゴ・グロッシェンと対決することに。
　今回、下等の料金で共にこの惑星に降り立ち、助け合って生き延びたはずの渡り者の仲間、レッグレインが重要な役割を果たし、人を徹底的に信じないデュマレストの一面が見られます。前回とは違うな。
　そして、この惑星に来た理由である〝ライブラリー〟を見ることはできたのですが、損傷してしまったため、地球に関する情報はほとんど取り出せませんでした。ただ一つを除いて。

　「わかったこともあるわ」クァラがやさしく言った。「とてもわずかで申しわけないんだけど。名前だけがね」
　「別名ですか？　地球の？」
　「ええ。テラ(Terra)、というの。聞いたことがあって？」（P238-239）

　ただ、それだけ。そしてデュマレストの旅は、まだまだ続くのです。（2022/03/12）

　読書メーターの記録より　　読了：2022/2/28

管理番号：T017-004

11 旧スペースオペラ　　　

出版社：東京創元社

書名：共生惑星ソリス

デュマレスト・サーガ 4

ISBNなし

原題：Kalin（1969）

翻訳者：佐治弓子

創元推理文庫 674-4

価格：280Yen

ページ数：224P

本のサイズ：文庫

初版発行：1982/10/29

購入：1982/10/23

AD, Logo-Design：アトリエ絵夢
イラスト：稲葉隆一

　デュマレスト・サーガ第4巻。
　アール・デュマレストという人物は、「さすらいの渡り者」という立ち位置であることもあり、なんとなくクールでニヒルな印象でした──というか、そのように記憶していました。
　でも今回読み直してみると、けっこうウェットであったかい人なんですよ。つまらんな。(笑)

　まず惑星ロギスから。
　この星では今が殺戮期(ブラッドタイム)であるため、宇宙船の安全を考え、境界フェンスが侵攻されたら船を封鎖する、と船長が宣言する場面から始まります。なにしろこの期間、惑星の住民は無作為の殺し合いをやるので、巻き込まれてはかなわないのだそうな。

　「あえて町なかへ出かけようという方は、ご自分の責任でなさること。いたずらに好奇心に駆られぬよう、ご忠告申し上げておきます」（P8）

　という。
　デュマレストを始めとする乗客の一部が、それでも好奇心に駆られて恐る恐る船を下りてみると、ゲートの外では阿鼻叫喚の殺し合いが始まります。そこで、一人の若い女が多数の住民に追われ、必死でゲートに向かって走ってくるのを見つけたのでした。

　道を駆けぬけてきた娘は、長い脚を金色の上着のすそからひらめかせていた。二の腕と首もとでカットされ、ももの中程まで垂れさがった服に、深紅のベルトを締めている。燃えたつような赤い髪は、金色のリボンでくくられ、ぴっちりした金色のサンダルから、真紅に染められた爪がのぞく。死人のように蒼ざめた顔、大きく見開いた眼、苦しそうにあえぐ赤い唇。（P16）

　遠くから走ってくる女らしい姿からこれだけのことを見て取った乗客の皆さんの眼力のすごさはともかく、こういう感じが当時のスペースオペラでの哀れな若い美女の姿として一般的なものなのでしょうかね。
　で、むろん美女ですのであわやの危機から助かります。助けたのはなんと、ニヒルなイメージだった我らがデュマレスト。住民の魔女を殺せという憎悪の声も何のその、この見たこともない娘を命がけで助け出します。

　で、この娘カリーンは、本当に魔女だったのです。透視能力者(クレアボヤント)であったため、彼女の「助言」や「予想」は常に的中し、それを利用しようとする者、その予言を恐れる者すべてにとって、彼女はおぞましい魔女にしか見えなかかったのでした。
　カリーンを救い出し、共に旅をすることとなったデュマレスト、彼女が地球(アース)という星についてなにか記憶があることも知ります。その美しさもあり、彼女にだんだん思いを募らせることに。
　かつての恋人、デライの記憶もそれを後押ししたのか。

　この巻で、宇宙友愛教会の信条、

　──神の恩寵なかりせば、我もまたかくなりぬべし──（P40）

　が初めて提示されます。元は、16世紀のイギリスの聖職者ジョン・ブラッドフォードの言葉で、囚人が絞首台に向かうところを見て言った言葉なのだそうですが、フランシスコ修道会のモットーだったようにも記憶しています──が、後者は確信がない。
　この言葉は、この先何度も連呼され、友愛教会の「善」を象徴する言葉になります。

　この巻のデュマレストは孤高の男じゃない。後半、奴隷になるまいと自給自足のために苦闘する場面で、仲間たちを指揮して狩りに出ます。そして仲間を助けるために重傷を負って目をつぶされたのですが、それまでのデュマレストの行為に恩義を感じた仲間たちによって救い出されたのでした。
　そしてその冒険で稼いだ儲けによって、ようやくカリーンと共に旅立ちます──惑星ソリスへ。
　ソリスに到着したのは、全13章の12章の頭。ここでカリーンの秘密、というか正体がわかってきます。
　彼女の肉体はこの惑星でかつて名家に奉公していた娘のものであり、その精神は名家クリーグのレディ・キーランのものなのだという。カリーン（Kalin）とキーラン（Kilan）。しかしその、若く美しい体はどうなったのか。
　サイバーであるミードは、なぜ彼女を殺したのか。惑星ソリスの共生体(シンビオート)とは何なのか。

　「・・・ブラスキーはたまたま、その正しい順序にあたった、と考えていいのではありますまいか。一本の分子鎖上の15の遺伝単位。たとえどのユニットを動かすべきかわかっていたとしても、すべての可能な組合せを試してみるのに、どのくらいの歳月がかかると思います？　四千年以上ですよ。毎秒ひとつずつの新しい組合せを試みる、と計算してです。もしひとつに丸一日かかるとしたら、どれほど先の話になりますか？　いや、ブラザー、そのサイバーは、ブラスキーの居所を突きとめようと、死に物狂いになっていたのです。サイクロンは失敗を好みませんからね」（P213）

　そして傷心のデュマレストは、その15の遺伝単位の秘密を知らずに手にしたまま、この世界を去るのです。

　上の宇宙友愛会の僧正ブラザー・ジェロームの言葉は、今の技術レベル、コンピュータの計算能力で考えると笑みが漏れますが、そういう時代だったんですねぇ。（2022/10/29）

　読書メーターの記録より　　読了：2022/10/17

管理番号：T017-005

11 旧スペースオペラ　　　

出版社：東京創元社

書名：キノコの惑星スカー

デュマレスト・サーガ 5

ISBNなし

原題：The Jester at Scar（1970）

翻訳者：鎌田三平

創元推理文庫 674-5

価格：280Yen

ページ数：224P

本のサイズ：文庫

初版発行：1982/12/3

購入：1982/11/30

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イラスト：稲葉隆一

　惑星スカーとは、菌糸類のはびこるキノコの惑星。
　ここに滞在するデュマレストは、例によって旅立つ費用がなく鬱々とチャンスを待っていますが、今回はなんと若い女性と同居。

　女の目鼻立ちはととのっていて、繭は秀でていた。濃い茶色の紙は短く刈り込まれて頭の輪郭を丸く見せている。手は細く、繊細だったが、背の高い肉体そのものは保温と身を守るためにまとった雑多な衣服にかくされていた。（P7）

　と、悪い描写じゃないのですが、顔は寄生性の胞子にやられたとき治療のため酸で処理され、醜い容貌を恥じています。でありますので、デュマレストも女を囲っているわけじゃない。1970年のSFですからね。(笑)　可哀想な女性を救うために奮闘中、といったところ。
　この状況をなんとかするために、デュマレストはクレムディシュという友人を相棒に、危険な賭に打って出ます。この星でも稀にしか見つからない「黄金の胞子」を発見しに山へ向かうという。
　命がけで発見したそれは、莫大な富を与えてくれるはずのもの。しかし簡単に金に換えることはできない。そして、その秘密を他人に奪われてはならない。

　ジョスリンという男がいます。惑星ジェストの領主で、奇妙な生活信条を持っています。手にした硬貨を投げ、出た面の表裏で決断をするという。

　硬貨をヘルダーに投げ与えた。「よく見てみろ。それがお前の運命を決定する」
「陛下？」
「片面に男の顔があるな。その頬に傷をつけておいた。切傷(スカー)だ。反対側にはジェストの紋章が刻まれている。硬貨を投げてみろ。ジェストの紋章が上になれば、おまえは必要な治療を受けられる。だが反対の切傷(スカー)の面が出れば、おまえはこの惑星に属していることになるのだから、わたしは援助しない」
　ヘルダーは硬貨を見つめ、視線を上げた。
「おれの命を硬貨で決めるのですか？　陛下、ご冗談に決まってますよね？」
「いや、冗談ではない」ジョスリンの口調が厳しくなった。「投げよ！」
　硬貨が投げあげられた。クルクルと輝きながら頂点で一瞬動きをやめ、落ちてきて床で音を立てた。ジョスリンは無表情に硬貨を眺めた。ヘルダーは思わず立ちあがって歩み寄り、輝く硬貨を見おろした。不意に胃が締めつけられるような気分がした。
「運がなかったようだな」ジョスリンは平静な口調でいった。「おまえは死ぬ運命にあるようだ」（P81-82）

　決して相手を玩んでいるのではない。まして運命を玩んでいるのでもない。人を救うということも、その他の大きな、あるいは小さな決断でも、それは賭であり、ならばその運の行き先はその時の感情で決めるのではなく、純粋にコインで決めるのだという。
　ジョスリンという、小さな領土を統治する男の信条。

　このジョスリンが、デュマレストと絡む。そしてジョスリンは、テラという惑星の情報を、もしかしたら持っているかも知れないのだという。彼の差し出す手を、デュマレストは受けることができるのか。
　そしてサイバー。彼らがデュマレストを追う理由とはなにか。
　惑星ソリスでデュマレストが得た指輪とは、何。

　新たな謎が登場し、物語はいよいよ急展開。なるほど、このシリーズはこういう展開だったのか。（2022/12/20）

　読書メーターの記録より　　読了：2022/10/17

管理番号：T017-006

11 旧スペースオペラ　　　

出版社：東京創元社

書名：聖なる惑星シュライン

デュマレスト・サーガ 6

ISBN4-488-67406-2　C0197

原題：Lallia（1971）

翻訳者：大西憲

創元推理文庫 674-6

価格：280Yen

ページ数：224P

本のサイズ：文庫

初版発行：1982/12/31

購入：1982/12/25

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イラスト：稲葉隆一

　前巻「キノコの惑星スカー」は初版1982/12/3発刊でISBNなし。この巻は初版1982/12/31発刊で10桁の初期ISBN番号あり。どうやらこのあたりで東京創元社の文庫本はISBNを導入したようです。該当wikiによると
　　日本は1981年にISBNに関する国際的な枠組みに加盟した
　とのことですが、微妙なズレがあるようです。出版社の事情かな？

　惑星アーンで「外」に出る船を探していたデュマレストは、居酒屋で殺人事件を目撃します。殺されたのは、見知らぬ船乗り。恨みによる犯行らしいのですが、デュマレストにとっては知ったことではない。とっさに彼はその船乗りの経歴を確認し、ポンコツの小型商船モーレイ号に向かいます。
　シェイアン船長に、死んだヤツの後釜として処置係に雇って欲しいと交渉した彼は、運良くその職にありつき、この星を離れることができました。下等(ロワー)だと安価だが常に15パーセントの死の危険があるロシアン・ルーレット、特等(ハイ)なら高価すぎる。乗組員(ミドル)で航行できるなら運がいい。
　モーレイのほかの乗組員は、船長のシェイアン、スチュワードの若いリン、操縦士の変人ニミノ、機関士の酒好きクロード。処理係として入ったデュマレストを含めて五人。元々この船は近隣の＜クモの巣(ウェッブ)星雲＞の所属ですが、エンジンの修理のために星系外の惑星アーンまで出てきて、これからウェッブに戻るのだそうな。

　こうして新たな旅が始まります。デュマレストとしてはある程度金を貯めて次の旅に出るまでの一つの過程なのですが、そのついでに彼の故郷である「地球」についての情報があれば知りたいところ。それだけのものだったのですが、旅の途中で立ち寄った惑星キャンダラで彼は魔女として殺されそうだったラリアという娘を救い出す羽目になります。
　その後の展開として、なんとこの背の高い黒髪の娘と船内結婚をすることに。
　まァこのシリーズに出てくる女性は可憐で頭が良いかあばずれの酒場女かどっちかなのですが（偏見ですか？w）この娘はその中間のようです（これも偏見だな）。ただ一途にデュマレストに尽くすのですが、それほど利口ではない。したたかなところはあるけれどたいしたことはない。

　物語の終盤、168ページに至ってようやく船は「聖なる星」と呼ばれるシュラインに着陸、というより墜落します。オンボロ商船モーレイ号と船長の最後ですが、生き残ったデュマレストたちはそこで何を見つけたのか。
　そして途中で乗客として乗り込んだヤールンという商人の正体とは。

　彼はここで、地球についての知識は得られませんでしたがそのかわり、カリーンから得た指輪の秘密を知ります。それは15の遺伝単位で構成された人工の精神共生体の秘密。

　「──それがどういうことかは、説明する必要もなさそうに思うがね」
　体に障害がある者の知性が、健康な宿主の身体に入って活動的に生きられるようになる。ひとりの脳の力で、他の脳を完全に支配できるようになる。デュマレストには、それがどういうことかわかる理由は充分すぎるほどあった。
　「ああ。説明の必要はない」（P207-208)

　そして指輪の秘密を解く鍵も、手に入れてしまったのです。
　デュマレストはこれからどうなるか。物語は今後どのように展開するのか。

　あ、ラリアの運命はご想像の通りです（おいおい）。ちょっと悲しいけどしかたないよ、端役だから。（2023/6/11）

　読書メーターの記録より　　読了：2023/6/8　

管理番号：T017-007

11 旧スペースオペラ　　　

出版社：東京創元社

書名：科学惑星テクノス

デュマレスト・サーガ 7

ISBN4-488-67407-0　C0197

原題：Technos（1972）

翻訳者：酒井昭伸

創元推理文庫 674-7

価格：280Yen

ページ数：240P

本のサイズ：文庫

初版発行：1983/2/4

購入：1983/4/29

AD, Logo-Design：アトリエ絵夢
イラスト：稲葉隆一

　最初の舞台は、クロヴィス。荒っぽい現場があり、賭場がある街、それとも惑星？
　ここでデュマレストは、賭場の用心棒に致命傷を負わされたカール・リメインという友人から、頼み事をされます。

　「なにをだ？」
　「賢いやつだな」リメインは言った。「おれがなにを頼むかわかるまでは、うんと言おうとしない。けど、たいしたことを頼もうっていうわけじゃないよ、アール。ただ、伝言を伝えてほしいだけだ。ロームにいる兄貴のところへな。こう言ってくれるだけでいい──シェムにもデルフにもクロヴィスにも、答えは見つからなかった、てな。伝えてくれるか？」（P14）

　ロームとは、惑星の名。そこに行けば、おまえの知りたがっている地球の情報を持っている者がいる、おまえにとってもいい話だろう、とリメインは言い、ほどなく息絶えます。
　たいしたことではない、とこの男はいいますが、他の惑星に行くために15パーセントの死亡率を覚悟で安価な下等(ロウ)で旅するか、ひと財産にもなる金を払って低速代謝の特等(ハイ)で行くかの二つの方法があるだけ。決して簡単なものではないはず。気楽に他人とたいして変わらない知人に頼めるものではない。　──まぁこのへんは目をつぶることにしましょう。(笑)

　ロームにいる兄貴とは、農場主であるクェンディス・リメイン。この世界では、農場主とは殿様のようなもの。何十何百の作男を使って大農場を経営する特権階級。そう、この世界は一種の封建社会なのです。農場主の上位の貴族が存在しないようなので、厳密には「封建」じゃないのですが。　──デュマレスト・サーガではよくある世界の話です。
　しかしこの世界、長年にわたって開拓されて今や高い収益を上げられるようになったはずの農地が、謎の「トゲカズラ」によって破壊されています。

　「これは退治することができんのだ」デュマレストが立ち上がったところへ、クェンディスが言った。「三年を経た茎ともなると、人の胴体の太さほどもあって、成長の早さも桁はずれだ。冬の四ヶ月を除いて年じゅう種をばらまき、新しい土地にとりついては大きくなっていく。切ることはできるが、酸のおかげで刃はすぐにぼろぼろだ。火をかけたところで、炎で瘴気が解き放たれて、肺をただれさせ、皮膚に水ぶくれを作る。根っこから引っこ抜いても、切れっ端が残っていればまたそこから伸びてくる。たちの悪い雑草──人工変異で生まれた害草だよ。こいつらが相手では、農耕作物にはとうてい勝ち目がない」（P44）

　デュマレストの思いつきのあれこれを聞いても、そんな事はみな試した、無駄だった、とやつれた顔で否定するばかり。
　カール・リメインの伝言というのも、答えは見つからなかったという命がけの言葉でした。
　この原因はテクノスなのだ、とクェンディスは言います。服従して貢物を出さなければ惑星全体に蔓植物をばらまくという。

　「その貢物というのは？」
　「男と女だ」クェンディスは苦々しげに言った。「一度に千人ずつ。若くて、健康で、元気のいい連中ばかりをな」
　「一年ごとにそれだけを？」
　「やつらが要求するたびにだ」クェンディスはクレオンに思いをはせ、心の痛みに唇をかみしめた。「初めは年に一回だったが、それが二回になり、いまでは四回だ。すぐにもっと増えるだろう。やつらは若い者だけを連れ去りおる。残るのは少なくなっていく耕地のめんどうを見る年寄りと、破産した農場主、それに無一文の労働者ばかりだ。じきにわしらの手からは何もかもなくなっちまうだろう」（P49）

　一瞬で、古代朝鮮が中華帝国に毎年千人の女を貢女として献上していたというお話を思い出しました。何らかの誇張らしい話なのですが、旧日韓友好掲示板の火種になっていましたっけ。そもそもそんな事をしていたら国家が成り立たないだろう、大げさな。
　この世界で、惑星テクノスの人々は近隣の惑星の若者を何千何万と集めて、いったい何をしようというのか。これでは経営が成り立たなくなるので、農業惑星から収奪しようという意図とは思えない。
　地球に関する情報集めが頓挫してしまったので、デュマレストはこちらの謎を解くことを考えます。また、テクノスならばもっと地球に関する情報があるに違いない。そこで彼は、貢物としてテクノスに送られるロームの若者に変装してテクノスに潜入したのでした。
　そして彼は、テクノスがはっきりした意図を持ってロームに「戦争」をしかけていること、サイクランがそれに関わっていること、ロームに送らせた若い男女を、おぞましい不老不死を得るための道具として使おうとしていたことを突きとめたのでした──とここまで書くと先を急ぎすぎるかな？
　そこへ至るまでに、デュマレストの奮闘ぶりや、学歴社会でありながら社会全体としてはそれほどテクノロジーが発展しているわけでもないテクノスという世界の謎や、例によって絶対権力を持つ独裁者がいてそれを引きずり降ろそうという「貴族」たちが暗躍する様子などがたっぷり描かれるのですから。
　で、今回のデュマレストの艶福家ぶりもなかなかですしねぇ。(笑)

　サイクロンのエージェントであるサイバーがデュマレストを狙うわけは、今になるとデュマレストもよくわかっています。
　デュマレストがカリーンの仲立ちで手に入れた指輪、その中に秘められた、ブラスキーという男がサイクロンから盗んだ秘密。

　「十五の分子を組み合わせて、宿主の自我にほぼ全面的に同化できる生きた共生体を作り出すことにある。主体となるのは宿主の自我だ。主体は彼──または彼女なのだ」
　豊かに垂れるつやのいい赤毛、エメラルドのように輝く緑の瞳、透き通った雪のような柔らかな純白の肌。どうしてカリーンを忘れることができようか。
　「十五組の分子だぞ」デュマレストは繰り返した。「この組合せを全部試してみるのにどれだけかかるかは、おまえならわかるだろう。一秒に一組の割合で組合せを試していっても、四千年以上もかかるんだ。サイクロンにそれだけ気長に待つ余裕があるか？」（P221）

　現代の並列処理できるスーパーコンピュータなら数分、量子コンピュータなら一秒以内に解けるであろう問題が、この時代では数千年と考えられ、やるだけ無意味と投げ捨てられ、だからデュマレストの指輪に秘められた情報は価値があったのでした。

　デュマレストは今回、数人の友人を得てテクノス総統やその権力にしがみついていた男女を掃討し、すこしこの世界、ロームとテクノスを明るくすることができます。
　しかし彼は、去らなければならない。地球を見つけることが彼のたった一つの生きる希望だし、この世界に彼は不要。

　「……でも──あなたにはわかるわね、アール。きっとわかってくれるわね。私のこと、許してくれる？」
　「もちろんです」
　「──もう一度会えるかしら？」
　気休めは言わない方が親切というものだ。「いいえ、奥様。二度とお会いすることはないでしょう」
　彼は踵を返すと、船が停泊している地点へ歩みだした。その船の行き先であるジャランスからは、多数の船があまたの世界に向かって出ているはずだ。
　そして、地球が見つかるのも、もうそう遠いことではないだろう。（P227）

　いや、アール。そんなに近い未来ではないよ。（2023/11/3）

　読書メーターの記録より　　読了：2023/11/1　