W031 Ｓ・ウィリアムズ＆Ｓ・ディックス

作家番号： W031
作家	ショーン・ウィリアムズ	Williams, Sean
国籍	オーストラリア	生没年：1967/5/23～
アデレード在中。SF作家。デビューは91年。新しい世代のオーストラリア作家。
作家	シェイン・ディックス	Dix, Shane
国籍	オーストラリア	生没年：1960？～
アデレード在中。SF作家。デビューはウィリアムズと同じ91年。

管理番号	書名		備考
W031-001・002 W031-003・004 W031-005・006	太陽の闘士（上・下）星の破壊者（上・下）銀河の覇者（上・下）		銀河戦記エヴァージェンス

管理番号：W031-001・002

12 新スペースオペラ

出版社：早川書房

書名：太陽の闘士(上)	銀河戦記エヴァージェンス 1		発行　1999年
原題：Evergence： The Prodigal Sun		翻訳：小野田和子
ハヤカワ文庫SF1419　ウ18-1　早川文庫5047	価格：720Yen	ページ数：344P	装丁：文庫イラスト：倉本裕之
初版発行：02/10/31	購入：05/2/21

書名：太陽の闘士(下)	銀河戦記エヴァージェンス 1		発行　1999年
原題：Evergence： The Prodigal Sun		翻訳：小野田和子
ハヤカワ文庫SF1420　ウ18-2　早川文庫5048	価格：720Yen	ページ数：372P	装丁：文庫イラスト：倉本裕之
初版発行：2002/10/31	購入：2005/2/21

　第三巻を先に買ってから、これはシリーズものだなと気づいて第一巻（上・下）から買い直しました。最近のSFには、なんだか周波数が合いにくくなっているので食わず嫌い状態でしたが、やはり食べてみないと善し悪しはわからない。
　（某番組で、嫌いな食べ物をあてるゲームを「食わず嫌い王」と称していますが、日本語を知らない××がいるのは情けない限りですなぁ）
　　　　　　　↑
　　爺ィの繰り言です（笑）

　帝国歴39954年。
　50万年ほど未来の銀河の星間国家の興亡が舞台です。
　膨大な大きさのあまり統制が取れなくなりつつある「帝国連邦(COE)」と、新興のアタマン神政国家がダート・ブロックと名前を変えて並立しています。

　帝国連邦艦隊(COEA)フリゲート艦＜ミッドナイト＞に乗艦しているモーガン・ロシュ中佐が、主人公です。彼女は、情報部員として特別な「荷物」を運搬する指令に従っています。この「荷物」たるや、なんと言ったらいいのか。
　彼女の手首にはめられた手錠から単繊維性のコードで接続されている「荷物」は、一見ブリーフケース。しかしその、100メートル以内の核攻撃にも耐えられるという堅牢なケースに入っているのは、おそらくはこの世界で一番進歩したAI。ロシュとは、手錠の内側にあるノードから手首経由で信号が伝わし、常に会話ができます。
　ロシュは悔し紛れにこのAIを「ブラック・ボックス」通称「ボックス」と呼んでいます。
　なぜこのAIが彼女の手元にあるのか。
　なでこのようなフネで運搬することになったのか。

　＜ミッドナイト＞は老朽化しており、今や無能な艦長に指揮される囚人運搬船です。
　輸送先の収容所のある惑星シャッカに到着したところから、舞台の幕が上がります。
　この惑星の周囲には無数の小惑星帯が輪となって周回しており、住民はそれを地上から見上げて、これを「魂(ソウル)」と呼んでいるとか。

　艦長と口論し、疲れて自室に戻ったロシュを尋ねてくる一人の男、アドニ・ケイン。その戦闘能力はただものではない。
　惑星に接近する＜ミッドナイト＞を待ちかまえていたのは、包囲攻撃せんとするダート艦隊。
　集中砲火を浴びる＜ミッドナイト＞を脱出しようとするロシュの前に現れたエッカンダー通商国家の商人、ヴェーデン。彼が連れている、盲目のep(超能力)少女マイー。
　「ボックス」まで含めたこの5人(？)、そして惑星上にいるもう一人の男が、この物語の中で生き延びるために戦います。
　彼らはなぜここにいるのか。
　誰が彼らを導いたのか。
　そしてもう一人、ダート・ブロック艦隊の旗艦で、最新鋭の襲撃艦＜アナ・ヴェライン＞の艦長は、艦と一体化しヴァーチャル生命体と化したユーリ・カジク大佐。彼も重要な役どころになります。

　山あり谷ありの冒険SF、かくあるべし。　　　　　　　　　　　　　　(05/5/7)

管理番号：W031-003・004

12 新スペースオペラ

出版社：早川書房

書名：星の破壊者(上)	銀河戦記エヴァージェンス 2		発行　2000年
原題：Evergence： The Dying Light		翻訳：小野田和子
ハヤカワ文庫SF1455　ウ18-3　早川文庫5200	価格：740Yen	ページ数：339P	装丁：文庫イラスト：倉本裕之
初版発行：03/8/31	購入：05/2/27

書名：星の破壊者(下)	銀河戦記エヴァージェンス 2		発行　2000年
原題：Evergence： The Dying Light		翻訳：小野田和子
ハヤカワ文庫SF1456　ウ18-4　早川文庫5201	価格：740Yen	ページ数：394P	装丁：文庫イラスト：倉本裕之
初版発行：2003/8/31	購入：2005/2/27

　元・帝国連邦情報将校モーガン・ロシュ中佐、健在です。
　巻き込まれ型の冒険は、良くあるパターンですが、何ともはや驚天動地ですね。今回の舞台はほとんどが一つの星系の中で、銀河狭しと駆け回るわけではありませんが、狭いとは思えません。
　(そもそも、一つの星系の中って本来は驚くほど広いんですけどね)

　謎の男であるアドニ・ケインの正体は、相変わらず謎です。
　しかし、今回はロシュが持つAI「ボックス」の謎がさらに広がります。
　epである盲目の美少女マイーは、残念ながらほとんど舞台のそでで寝ているだけの状態ですから、あてになるのは傭兵アメイディオ・ハイドと襲撃艦＜アナ・ヴェライン＞の幽霊艦長ユーリ・カジク。しかし、カジクは艦そのものに接続された存在なので、艦から離れられない。

　舞台は、謎の凶悪クローン戦士に蹂躙されたパラシア星系。
　ここで、クローン戦士アドニ・ケインは、疑惑に包まれたまま力を奪われます。彼の正体は、いまだにわかっていません。パラシア星系は、彼と同じようなクローン戦士によって壊滅し、文明はほぼ完全に破壊されたらしいのですが、ケインがその味方なのか敵なのか、ロシュの敵なのか味方なのか、誰かの代理をしているのか自分の意志で行動しているのか、まったくわかりません。

　この本の中で、なんと言ってもSFチックなのは、この星系の置かれた状態。
　本来防御兵器である「ソーラー・エンベロープ」またの名を「アシャの籠手」に包まれたこの星系は、恒星系を強力なジャンプ・シールドで包むことで、通常の方法では侵入不能な空域を形成します。しかし、問題があるのです。
　この「バリア」は、解除不能です。
　このフィールドを形成するエネルギーは、恒星から直接取られます。
　そして、このフィールド内の恒星は、数ヶ月でエネルギーが枯渇します。
　恒星のエネルギーが枯渇すると共に、このフィールドは内側に向かって崩壊していきます。
　つまり、防御にはまったく役に立たない上、星系を破壊して大惨事となるのです。　なんとも、はや。
　すでに使用禁止とされ、廃棄されたこの「アシャの籠手」が、なぜこの星系で稼動しているのか。謎です。

　さあ、ロシュたちは時間切れの前に脱出できるか。
　星系に住む「アウトリガー」たちの運命は。
　突然現れた、圧倒的な武力で蹂躙するケシュ人たちの思惑は何か。
　そして、ロシュのAI「ボックス」の運命はいかに？

　面白い活劇が読みたい人、いらっしゃい。　　　　（05/5/21）

管理番号：W031-005・006

12 新スペースオペラ

出版社：早川書房

書名：銀河の覇者(上)	銀河戦記エヴァージェンス 3		発行　2001年
原題：Evergence： A Dark Imbalance		翻訳：小野田和子
ハヤカワ文庫SF1498　ウ18-5　早川文庫5543	価格：780Yen	ページ数：383P	装丁：文庫イラスト：倉本裕之
初版発行：2005/1/31	購入：2005/1/22

書名：銀河の覇者(下)	銀河戦記エヴァージェンス 3		発行　2001年
原題：Evergence： A Dark Imbalance		翻訳：小野田和子
ハヤカワ文庫SF1499　ウ18-6　早川文庫5544	価格：780Yen	ページ数：393P	装丁：文庫イラスト：倉本裕之
初版発行：2005/1/31	購入：2005/1/22

　原題は、「A Dark Imbalance（暗い不均衡）」　
　何がアンバランスなのでしょうか。

　ストーリーは、モーガン・ロシュの元上司にして元帝国連邦情報部戦略部長であったペイジ・ドブリーンが、ソル星系に小型戦闘機で侵入するところから始まります。今回の舞台は、ソル星系。
　かつて、人類発祥の地と言われたこの星系には、もはや惑星は何もなく、リング上のガス雲、小惑星帯が漂うばかりにすぎません。この星系に、彼女ペイジは何を求めているのでしょうか。
　彼女は重要な役どころの一端を閉めますが、所詮は端役です。

　惑星シャッカを壊滅させ、パラシア星系を死の世界にした謎のクローン戦士は、イェレナ・ハイデックと呼ばれました。彼女がソル星系に入り込んだという情報を受けて、襲撃艦アナ・ヴェラインはソル星系に現れます。乗船するのは、モーガン・ロシュ、謎のクローン戦士アドニ・ケイン、超精神能力の使い手マイー、サイボーグ傭兵アメイディオ・ハイド、そして船と一体化した艦長ユーリ・カジク。そして、もう一人。
　ソル星系には、数十万以上の艦艇、ステーション、ランチャーが集結し、なおも続々と集まってきています。かつて2000年前、太陽（ソル）賛美運動を撃滅するためにここソル星系に集結した艦隊も、これほどの規模にはなっていません。
　なぜ、何のためにこれだけの人類の後継者が集結したのか。

　少女マイーを守護するために送り込まれた、スリン人戦士である"調和の擁護者"ヴリが、なんだか気に入りました。正統派クリンゴン人戦士といった感じの、かたくなでストイック、石頭で任務に忠実な様子が、なかなか良い。

　謎の言葉、「エヴァージェンスの使徒」とは？　"エヴァージェンス"については、このように説明されます。
　「さまざまな要素を合成したものといえばいいだろう。収斂（コンヴァージェンス）、永遠（フォーエヴァー）、新生（エマージング）、分岐（ディヴァージェンス）、進化（エヴォリューション）、緊急事態（エマージェンシー）、さらには復讐（ヴェンジャンス）。だが、"エヴァージェンス"はそのどれでもない。これは、かつては言葉を必要としない、あるものをさす単語だったのだ。これまで沈黙のうちに存在し、言葉の必要がなくなれば、また沈黙へと帰っていく」
　彼らは、明らかにロシュの敵です。
　しかし、ロシュの味方とは何なのか。そして、ロシュとは何なのか。謎は深まるばかり。

　50万年前に遡る驚くべき秘密と、一人の人類の女性モーガン・ロシュに託された人類の未来を決める決断。
　ロシュの選択とは何か。
　あとがきで言っています。この決断は、紛れもない現代SFの決断である、と。

　たしかに、1970年代、いや1990年代の宇宙活劇でも、この決断はあり得ないかも知れない。
　しかし、現代の人類なら分かる。いや、分からなくてはいけない。

　最後に明かされる謎と解答。奥が深いSFでした。　　（05/5/28）