G009 ジョン・ガードナー

作家番号：G009	ジョン・ガードナー	Gardner, John
	国籍：イギリス	生没年：1926/11/20～2007/8/3

管理番号	書　　名		翻訳者	メ　　モ
G009-007	裏切りのノストラダムス		後藤安彦	ノストラダムスを使った対ナチス工作の陰にあったもの

		Ver. 3.05

管理番号：G009-007

26 スパイ・諜報小説

出版社：東京創元社

書名：裏切りのノストラダムス			ISBNなし
原題：The Nostradamus Traitor（1979）					翻訳者：後藤安彦
創元推理文庫 204-1	価格：550Yen	ページ数：544P		本のサイズ：文庫
初版発行：1981/7/24	購入：2019/4/7	カバー：村上潤一

　1978年のロンドンから、お話は始まります。
　俗語でビーフィーターと呼ばれるヨーマン・ウォーダー、つまりロンドン塔の衛兵であるアーサー・ケンプ（元特務曹長）は、中央ヨーロッパ風のアクセントで話す60前後の女性に話しかけられます。責任者の人と話がしたい、と。
　そうそう簡単に責任者（今であればロンドン塔付きの城中責任者の陸軍少佐）には会えませんよ、と言うケンプに、彼女は驚くべきことを告げます。
　西ドイツから来たヒルデガルデ・フェンダーマンと名乗った彼女は、クラウス・フェンダーマンという自分の夫が、1941年5月16日にドイツのスパイとしてロンドン塔で処刑されたと言います。その状況について教えてくれ、と。

　この情報は、あちこちの政府機関を跳びあがらせます。そんな事実はない事は明らかなのですが、冷戦が一段落ついた今、だれがなんの目的でそのような問い合わせをしたのか、偏執狂気味な諜報機関なら当然考えるもの。
　これを担当する事になったのは、その偏執狂的な諜報機関である英国海外情報局に属するハービー・クルーガー。通常は東側への諜報活動に関する文書事務の監督を行ったり、海外から貿易使節団がロンドンにやってきたときにその身元確認などを行う斑を指揮したりしています。＜ビッグ・ハービー＞とあだ名で呼ばれ、若い者からは過去の伝説と思われている48歳。しかし上層部は一見昼行灯のような彼の能力を高く評価していたのでした。
　彼は本来の業務の合間をぬってドイツ国内に新しい諜報活動チームを作り上げる仕事を行っており、ボンを経由して東ドイツ内に拠点を作りつつあったところ。ちょうどそのころ彼のデスクに、ヨーマン・ウォーダーからフラウ・フェンダーマンの奇妙な話が持ち込まれたのでした。

　フェンダーマン夫人と面談したハービーは、彼女から聞いた話の1つが頭に引っかかります。親衛隊の旅団指揮官(ブリガーデフューラー)すなわちSS少将ヴァルター・シェレンベルクの指揮下の作戦で戦死した、という事になっていたクラウスですが、新婚の妻に奇妙な手紙を送っていたのでした。処刑されたという日付の3日前、1941年5月13日付けで。
　愛の言葉を書き連ねたその最後、自分の署名の下に、こんな言葉が。

　　　　王国は欺瞞によってその軍勢を奪われ、
　　　　艦隊は封鎖され、間諜に道は開かれる。
　　　　偽れる二人の友人は互いに力を合わせ、
　　　　長いあいだ眠っていた憎悪を目覚めさせる。
　　　　　　　　　　　　　　　　ノストラダムス　Ⅶ-33　（P37-38）

　これは、16世紀フランス王妃カトリーヌ・ド・メディチの宮廷に使えた医師兼予言者兼占星術師ミシェル・ド・ノートルダム通称ノストラダムスの予言書の引用ではないか。
　ハービーは、第二次大戦中ナチスの宣伝相だったゲッペルスが、この摩訶不思議な予言書を使ってナチスの政治的プロがパンダを行っていたことを思い出します。これと何か関係があるのか。
　これらの記録をあさっていたハービーは、一人の情報局員の名前に気づきます。ジョージ・トーマス。現在ヨーロッパ援助計画部の部長。諜報員として何らかの対ドイツ工作を行っていたという記録もあります──詳細は封印されていますが。現在59歳。すると、彼がドイツに潜入したという1940年には20歳か21歳だったはず。

　こうして、1940年に行われたノストラダムスを利用した極秘工作と、そこに関わる謀略がジョージ・トーマス、いや当時フランス人ジョルジュ・トマを名乗っていた男から明かされます。
　そして見えてきた巨大な謀略。
　ソ連による浸透工作は、どれだけこれに関わっていたのか。

　「ジョージ、ラミリーズ、フェニス、気の毒なリーデラー老人、そしてあなた自身の事ですよ、ウィリス。昔話ってことになりますねえ。あのすさまじいまで愚かしいノストラダムス作戦のことや、それに不発に終わったヘス襲撃の一件のことですよ。糸を引いていたのは、あなたなんですか？　それともあなたも操られていた一人なんですか？」
　「なんのことなのか、さっぱりわからんね、ハービー」　（P478）

　謎は謎を呼び、謀略の中にまた謀略が発見されます。一体その底には何があるのか。
　ジョージ・トーマスとは何者なのか。

　これはすごい。見のがしていたとは残念だけど、読めてよかった。　（2019/7/15）

　読書メーターの記録より　　読了：2019/6/8