トップへ戻る 読んだ本の分類		作家番号：M001 C・L・ムーア Moore, C.L. 国籍：アメリカ合衆国 生没年：1911/01/24〜1987/04/04 　本名：Catherine Lucille Moore 　ヘンリー・カットナーと結婚。幻想的なファンタジーで熱狂的なファン多数。 　日本ＳＦ界の古参、野田昌宏氏は、その愛車を「シャンブロウ」と名付けていたとのことだが、今はどうだろう？(笑)

管理番号	書名		翻訳者	備考
M001-001 M001-002 M001-003	大宇宙の魔女 異次元の女王 暗黒界の妖精		仁賀 克雄	ノースウェスト・スミス
M001-004	暗黒神のくちずけ		仁賀 克雄	処女戦士ジョイリーのジレル

管理番号：M001-001		11 旧スペースオペラ
書名：大宇宙の魔女	ノースウェスト・スミス1		発行　1934年
原題：Shambleau　　AndOtherStories		早川書房　ハヤカワ文庫SF36　　37
翻訳：仁賀 克雄	価格：￥260	ページ数：223P	装丁：文庫 イラスト：松本零士
初版発行：71/9/30　第7版：76/3/15	購入：76/3/31

この本は、短編集であり、ノースウェスト・スミスというヒーローを主人公にしたスペース・オペラであり、最終的には三冊にまとめられたこのシリーズの先頭の一冊めです。 　この短編集は、 　　「シャンブロウ」 Shambleau 　　「黒い渇き」 Black Thirst 　　「真紅の夢」 Scarlet Dream 　　「神々の塵」 Dust of Gods 　の4作で構成されています。 　しかしながら、第一作がすべてを決めたといっていい。 　Weird Talesに持ち込まれたこの本の第一作「Shambleau」を読むなり、同誌編集長ファーンズワース・ライトは「この日をC・L・ムーア記念日にしよう！」と叫んだそうな。 　かのH・P・ラヴクラフトまでもが、これを褒め称えたそうです。 　野田昌宏氏は、これを翻訳する機会を与えられなかったことに、地団駄を踏んだそうです。 　火星の植民地の小さな町、ラクダロールの狭い通り。 　群衆が大声で叫びながらこちらに来るのを見て、ノースウェスト・スミスは油断なく熱線銃の握りに手をのせます。 　現れたのは、赤褐色の肌に、目もあやな燃えるような真紅のぼろ布をまとった若い娘。愛らしい肢体、美しい顔。小さなターバンで髪をおおい、指は三本。人類ではない。 　「シャンブロウ！　シャンブロウ！」 　群衆は叫び、その娘をリンチにかけようとしている。 　娘は、絶望の表情でスミスの背後にうずくまる。 　ひょんな事で助けてしまった娘を、自分の宿に連れて行くスミス。 　夢うつつのNWの視線の先で、彼女はターバンを解く。ほどけ出る真っ赤な髪の毛。悪夢はここから始まった。 　舞台は、陳腐なまでのスペースオペラの世界。 　しかし、あまたの宇宙活劇を凡策に落とし込んだ幻想的な赤い恐怖が、ページを彩る。 　私見ですけどね、野田氏がこれを翻訳したら、はたしてこの本はこれほど評判になったろうか？ 　松本零士氏がこの、痩せ細った裸の美女のイラストを描かなければ、これほど売れただろうか？ 　結果論で言うのは簡単ながら、げに世の中の流れは面白いもの。（2005/4/23)

管理番号：M001-002		11 旧スペースオペラ
書名：異次元の女王	ノースウェスト・スミス2		発行　1935年
原題：Julhi　　AndOtherStories		早川書房　ハヤカワ文庫SF62　　85
翻訳：仁賀 克雄	価格：￥250	ページ数：222P	装丁：文庫 イラスト：松本零士
初版発行：72/9/30　第4版：75/4/30	購入：76/3/31

ノースウェスト・スミス短編集、第二作。 　　「異次元の女王 ─ジュリ─」 Julhi 　　「冷たい灰色の神」 The Cold Grey God 　　「炎の美女 -イヴァラ-」 Yvara 　　「失われた楽園」 Lost Paradise 　これも、その一作目を語れば十分かも知れません。 　いかがわしい金星のバーで一服もられたノースウェスト・スミスが目覚めたのは、暗黒の中。どうやら石畳と石の壁らしい。腰に武器はない。 　暗闇の中を走ってきた娘、恐怖に今にも失神しそうな娘を捕まえて聞くと、ここは「ヴォンの廃墟」だという。彼は「ジュリ」のために送り込まれたのだという。 　「では、ジュリとは？」 　「そうね、ジュリはジュリとしかいいようがありません。あなたは知りませんの？」 　「女かい？　それとも女王？　おれにはここがどこかもわからないんだ」 　「女性ではありません。すくなくともわたしみたいな女ではね。女王以上の存在です。偉大な魔法使い、あるいは女神といったらいいでしょうか。わたしにはわかりません。考えることさえいやです。このヴォンで、わたいはそのために・・・・ああとても耐えられないわ！　気が狂いそう！　気ちがいになるより、死んだほうがましですわね！　けれど、あまり恐ろしくて──」 　次第に明るくなる洞窟の中で、NWが見たものは、脅えた金星人の美しい女。髪は黒く、ぴっちり身体にあった金星ふうの赤いローブは、バラのように赤いビロードの折り返しで止められ、片方の肩がむき出しになるようにくくられ、金星の女性らしく、歩くごとに片脚ずつあらわになる深いスリットも入っている。 　やがてあらがいようもない力で呼び寄せられたNWが見た、幻想的で美しい非人間的なジュリの姿とは。 　人類の顔が逆三角形なのに対し、彼女の顔はダイヤモンド型。低い鼻梁に斜めについている鼻孔は広く離れ、別個の美しい形をしている。その口は、引き絞ったキューピットの弓のような完全なハート型をしているが、人間の口とはにてもにつかない。美しい弧を描いた孔であり、その孔を縁取る唇は真紅で、その顎に固定されて閉じることはできず開いたままで、その孔の奥に赤い肉片が見える。 　目は一つしかなく、睫毛は長く、眉から頭にかけてすばらしい弧を描いてかすかな羽毛、どんな鳥の羽毛ともちがう虹色のふるえる羽毛がついていた。 　スミスが出会った娘、アプリとジュリとの関係は？　ジュリとは何者？　謎と幻想。欲望と恐怖。 　・・・しかしねぇ．．．　今読み直しますと、このジュリの描写、松本零士氏のイラストも含めて、いったいどこが美しいのだろうか？ 　当時はそう思ったのかなぁ？　学校で読むのにかなり抵抗がある本だったことは鮮明に覚えています。(笑)（2005/4/23)

管理番号：M001-003		11 旧スペースオペラ
書名：暗黒界の妖精	ノースウェスト・スミス3		発行　1937年
原題：Nymph of Darkness　　AndOtherStories		早川書房　ハヤカワ文庫SF82　　124
翻訳：仁賀 克雄	価格：￥230	ページ数：210P	装丁：文庫 イラスト：松本零士
初版発行：73/2/28　第3版：75/9/30	購入：76/4/7

ノースウェスト・スミス短編集、第三作。 　　「生命の樹」 The Tree of Life 　　「スターストーンを求めて」 Quest of Starstone 　　「暗黒界の妖精」 Nymph of Darkness 　　「幻の狼女」 Werewoman 　　「短調の歌」 Songina Minor Key 　ノースウェスト・スミス屈指の名作といわれた「生命の樹」が冒頭に入ります。SFマガジンの1964年8月号に掲載され、本邦初公開となった記念すべき作品だそうですが、ぼくはSFMはほとんど読んでいないのでわかりません。 　そして、ファンの心をくすぐる「スターストーンを求めて」は、ムーアのもうひとつのシリーズ、ジョイリーのジレルが登場する作品。しかも、当時は結婚前のアツアツだったヘンリー・カットナーとの共作。しかし、文章はちょっと単調ですかねぇ。 　「暗黒界の妖精」は、SF小説・怪奇小説の収集家として名高いA・J・アッカーマンとムーアの合作です。ノースウェスト・スミスが、暗黒のナメクジさんたちに××されそうになるあわやの場面がどきどきです。(おい) 　「幻の狼女」は、、、確かに格が落ちるな。それなりに面白いのですが、「シャンブロウ」と比べちゃあ気の毒。 　「短調の歌」　一度はNWシリーズを終えたムーアが、ファンの要望で1940年になって書き下ろしたスミスの後日談。軽いスケッチのような作品で、草原にぼんやり座るNWが過去を思い返しています。 　「スターストーンを求めて」の中で、スミスは当時(つまり、スミスの活躍する宇宙時代)流行した歌を切れ切れに歌います。「地球の緑の丘」という歌です。 　暗黒の海のはるかに 　　懐かしき緑の地球は輝く 　ああ、その星こそわが故郷 　望郷の思いは虚空を越えて 　　わが胸にせまりぬ 　見はるかす宇宙の彼方 　　地球の丘々は緑にあふれ．．． 　──かくて失われしものの価値を思い 　　暗黒の彼岸に眸めぐらせば 　地球の緑の丘は．．． 　のちに、ロバート・ハインラインはムーアの許可を得て、この歌を元に「地球の緑の丘」という作品を書きました。 　もう一度ふるさとを見たいと願いつつ、暴走した宇宙船の原子炉の中で復旧工事を行い、高らかにこの歌を歌いながら息絶えた老人の物語です。（2005/4/23)

管理番号：M001-004		14 時代SF・ヒロイックファンタジー
書名：暗黒神のくちずけ	処女戦士 ジョイリーのジレル		発行　1934年
原題：Black God's Kiss　　AndOtherStories		早川書房　ハヤカワ文庫SF139　　213
翻訳：仁賀 克雄	価格：￥290	ページ数：265P	装丁：文庫 イラスト：松本零士
初版発行：74/3/31	購入：76/4/7

ノースウェスト・スミスが「赤の恐怖」ならば、ジョイリーのジレルは「黒い戦慄」でしょうか。 　舞台はがらっと変わって、百年戦争のフランス。(多分そのころね) 　小さなジョイリー国と城を守る女領主、ジレル。 　男に引けを取らない大柄な体とたくましい腕。 （読み直して気づいたですが、「男まさりの」とは書いていない。時代なのかなぁ？) 　しかし、その鎧の中は、白いたおやかな処女の肌。うふ。 　5編、描かれています。 　「暗黒神のくちづけ」 Black God's Kiss 　「暗黒神の幻影」 Black God's Shadow 　「魔法の国」 Jirel Meets Magic 　「暗黒の国」 The Dark Land 　「ヘルズガルド城」 Hellsgarde 　戦に敗れたジョイリー城の領主の兜を兵士に取らせたギョームは、愕然とします。 　手入れをしない赤い髪の下から現れたのは、女領主ジレルの美貌。 　傲然と彼女を引き寄せると、いきなり噛みつこうとした彼女をがっきと捕まえ、まじまじと顔を近づけ、荒々しく口づけしたのち、拳で殴り飛ばしたのでした。 　屈辱に燃えるジレルは、地下牢を脱出し、ジョイリー城に伝わる伝説の地下の迷路に入り、伝説の、地底の暗黒神と対面する。 　デビルマンを連想してもいいかも。(笑) 　剣と魔法、美と淫靡、屈辱と復讐。 　ノースウェスト・スミスと同時期に、NWよりも緻密に描いた、幻想的アクションですね。 　表紙絵がまあ学校に持って行けるレベルでしたっけ。でも、中扉絵はなかなかですよん。(おい)（2005/4/23)