P030 エリザベス・ピーターズ

管理番号	書名		備考
P030-001 P030-002 P030-003	リチャード三世『殺人』事件ベストセラー『殺人』事件ロマンス作家『殺人』事件		ジャクリーン・カービー・シリーズ

管理番号：P030-001	44 コージー・ミステリ		出版社：扶桑社
書名：リチャード三世『殺人』事件	ジャクリーン・カービー		発行　1974年
原題：The Murder of Richard III	扶桑社ミステリー文庫　ヒ７－１
翻訳：安野玲	価格：\848	ページ数：413P	装丁：文庫
初版発行： 2003/2/28	購入：2003/11/3

　リチャード三世についてどう思いますか？

　この質問に、一瞬の間をおいただけで返事ができれば、あなたは立派な歴史ヲタです。
　しかし、そうでない人でも、歴史解釈が好きな人なら、たとえば、「吉良上野介はいい人だった説」などが好きな方なら、そしてイギリス史に興味があったら、これは楽しい本です。

　最初にお断りしますが、このミステリは現代が舞台です。

　さて、近代のイギリスの国王の名で、イギリス人としては一般的な「ジョン」と「リチャード」と言う名前がないのをご存じでしょうか？　これには伝説があります。「ジョン」については、ロビン・フッドに出てきた悪い弟王として有名（？）な、ジョン欠地王（John Lackland）の後継者となるのはまっぴら、と言うわけ。
　そして、リチャードの方は、この三世の悪行のためにその名前が嫌われた、と言います。その悪名は、トマス・モアによって書かれ、シェークスピアによって戯曲化されたことで不動のものとなりました。
　むろん、これら伝説です。
　まず、イギリス国王の名前の件について、一遍の真実があるのかはともかく、風聞です。
　次にこの二人の国王についても、伝説にすぎません。
　足利尊氏は、悪人だったのか？平将門は反逆者だったのか？　源義経は純真な戦（いくさ）馬鹿にすぎなかったのか？
　これらと同じです。

　私見ですが、ジョン王は悪人だったかもしれないが、愚かでも邪悪でもないと考えています。イギリス国王としての地位を確立し、不安定な広い領土を経営することをあきらめる勇断を行い（フランス・アキテーヌ侯領の放棄）、国内での貴族の地位を条件付きで定義する（マグナ・カルタ）という難事業をやってのけた政治家である、のではないかと。国王とは、勇ましい武将であることではなく、国家経営をすることであると考え、無責任（生涯を通じて、イギリス諸島には半年程度しかいなかった）で阿呆（男色にうつつを抜かして子孫を残さなかった）で脳天気（十字軍のために増税で領民を苦しめたあげく、捕虜になった身代金を払わせるためにさらに塗炭の苦しみに追い込んだ）な兄リチャード一世（the Lion Hearted）の後継者となって苦労した人である、と。

　そういう、アマノジャク的な視点で歴史を眺めたいぼくのような人間にとって、リチャード三世もまた評価を見直したい例です。
　シェークスピアの戯曲のグロスター公リチャードは、魅力を讃えた極悪人です。兄を敗死に追い込み、その喪服を着て恨みをいだく兄嫁を衆人環視の中で堂々とくどき、陥落させて結婚を承諾させる、肩が歪み背骨が曲がった醜い小男です。最期の戦場の場面では、大声で命じます。
　「馬を！　この俺に馬を持ってくれば、我が王国をやるぞ！」
　本当でしょうか？

　さて、前置きが長くなった。こういうイギリスの時代背景を踏まえ、リチャード三世にも復権の兆しがあります。
　このミステリは、これら過去の定説の歴史をひっくり返す重大な文書が見つかった、というふれこみで、リチャード三世の傍系の子孫の館を舞台に、繰り広げられる大人のドタバタ劇です。
　イギリスのしちめんどくさい歴史を知らなくてもけっこう、十分面白く楽しめます。

　この本は（Thank God！）まだまだ入手可能です。
　そして、もう一つの魅力は、二人の主人公です。ホームズ役は、さっそうと何でも入っているバッグをぶら下げた元気な女性。ワトスン役はツッコミが軽妙な男性（私）。
　なんと、よく読むとこの二人、どう考えても４０代前半以下ではありません。しかし、元気なこと元気なこと。
　ミステリも、冒険も若者だけのものではありません。（嬉！）

管理番号：P030-002	44 コージー・ミステリ		出版社：扶桑社
書名：ベストセラー『殺人』事件	ジャクリーン・カービー		発行　1989年
原題：Naked Once More	扶桑社ミステリー文庫　ヒ７－２
翻訳：田村義進	価格：\1000	ページ数：507P	装丁：文庫
初版発行： 2003/6/30　第2刷：　2003/7/30	購入：2004/2/8

　「リチャード三世『殺人』事件」を解決した女傑、ジャクリーン・カービーものの第4作です。「リチャード」が第2作ですから、1作飛んでいますね。
　いまやジャクリーンは、歴史を題材にした小説で名をあげた新進気鋭の作家です。前々作の、野暮ったい図書館司書の姿とは似ても似つかないすさまじいファッションで現れ、度肝を抜きます。
　しかし中身は、まったく同じ。ぼくのようにファッションに疎いものにとっては、何がちがうの？と言いたくなるほど。新進気鋭と言いながら、ちらりと孫の話をしたりして、年齢不詳のおばさん健在。
　事件は、ジャクリーンが大ヒットした名作の続編を書く担当として白羽の矢が立った事で始まります。名作の作者は、これ一冊書いたあと謎の失踪を遂げ、７年後に死亡認定されました。殺人？自殺？死体はどこ？
　さて、執筆の前に概略を書いて出版社に承認を取らなければなりません。ジャクリーンがこれを書き始めると共に、次々と怪しい事件が起こります。だれが？なぜ？何を目的として？
　謎また謎。そして、最初の三つの苦闘。さて、犯人の前に、何が事件なのかを突き止めなくてはいけません。

　ミステリはユーモアがなくては、と言ったのはクレイグ・ライスですが、この作品もその王道（笑）をはずれていません。惜しむらくは、この「王道」が、非常にマイナーなことでしょうか。＿|￣|○（がっかり）
　楽しい、面白い、深刻なミステリです。是非とも一読を。
　そして、未訳の第一作、第三作が翻訳されることを祈りましょう！ (-＿-)；

管理番号：P030-003		44 コージー・ミステリ	出版社：扶桑社
書名：ロマンス作家『殺人』事件	ジャクリーン・カービー		発行　1984年
原題：Die for Love		扶桑社ミステリー文庫　ヒ7-3　1003
翻訳：本間有	価格：\933	ページ数：467P	装丁：文庫イラスト：高木百合恵
初版発行：05/6/30	購入：05/8/7

　ジャクリーン・カービーもの、第三作です。
　つまり、「リチャード三世」で張り切り司書だった中年（ちょっと上かな？）のジャクリーンが、「ベストセラー」で新進作家としてケバケバ衣装で闊歩する間に何があったのか。この本でそれが描かれている、
　　のでしょうか？
　描かれています。見事に。

　さて、ロマンス作家とは何か。
　説明を読んでいると、どうもちまたの本屋さんに並んでいる「シ○エット○マンス」とか「ハーレ○イン」とか、どうもそう言う系統の作品を書く作家のことらしい。エキゾチックな舞台背景で、ロマンチックと言うよりはエロチックな、冒険というかいやラブロマンスを繰り広げるお話。
　日本の「シル○ットロ○ンス」とかもそう言う内容なのでしょうか？かくも恥知らずで生きている鐵太郎ですが、いまだにこの手の本は買ったことがありません。そのため、比較しようがないのです。根性なしとお笑い下さい。（しくしく）

　歴史ロマンス作家大会というものが、ニューヨークで開催されたのだそうな。
　好奇心満載のジャクリーン・カービー、ネブラスカの図書館の司書でくすぶっている彼女は、勇躍そこに参加します。今回のボーイフレンドを平然と振って。（彼女、作品ごとに彼氏を変えているのですよね。御年どう考えても半世紀を超えているのですが）
　それで簡単に振られるようでは彼女のボーイフレンドはつとまりません。彼、コールドウォーター大学英文学科長ジェームズ・ホイッティアーもあわててついてきます。
　ニューヨークで出会ったものは、大人気ロマンス作家たち。ヴァレリー・ヴァレンタイン。ヴァレリー・ヴァンダービルト。ヴィクター・ヴァン・ダム。むろん、ペンネーム。それを影で操る出版エージェントのハリエット・フォスター。スキャンダルをあさるコラムニスト、デュプレッタ・デュバスタイン。
　この、業界からは蛇蝎のごとく憎まれているデュプレッタがパーティーの席上謎の死を遂げます。自然死か、自殺か、他殺か。
　ジャクリーンはどうやってケバケバ衣装の作家になるのか。

　興味しんしんです。

　警句と、ジョークと、業界の裏話と、生の感情のごった煮の中で、ジャクリーンは無事に名探偵となれるか。
　なっちゃうんですから、しかたがない、(笑)　　　（05/9/15）