S069 篠田真由美

作家番号	S069
作家	篠田真由美	Shinoda, Mayumi
国籍	日本	生没年：1953年～
メモ：東京本郷生まれ。早稲田大学第二文学部東洋文化専攻卒。

管理番号	書名		備考
S069-001	ドラキュラ公　─ヴラド・ツェペシュの肖像─		ブラム・ストーカーとヴラド・ツェペシュ

管理番号：S069-001		32 歴史小説・西欧史
書名：ドラキュラ公	─ヴラド・ツェペシュの肖像─		発行　1994/4年
講談社文庫　し-54-1	価格：\562	ページ数：356P	装丁：文庫イラスト：末弥純
初版発行：97/10/15	購入：98/2/4

　1912年4月、ロンドン。
　老いた作家が物思いにふけっています。
　来客を知らせる従僕の声。
　ブラム・ストーカーは、20代半ばと見えるその客を迎えます。
　客はふと、ストーカーの名を高からしめた「吸血鬼ドラキュラ」のことを話題にします。
　顔をほころばすストーカー。しかし、客は彼の顔を見る。

　「ドラキュラ伯爵、とあなたは書かれた。しかしかの人は伯爵ではない。
　ドラキュラ家、とあなたは書かれた。しかしそれは家名ではない。
　あなたはあの怪物に「われわれセクリー人は」と言わせているが、かの人はセクリー人ではない。
　あなたはトランシルヴァニアと結びつけるが、かの人はそのとなりのワラキアの支配者だった。
　それだけ好き放題な空想を書いておきながら、なぜ「ドラキュラ」などと言う実在した名前を使ったのですか。
　なぜですか、ミスタ・ストーカー！」

　あっけにとられるストーカーの前で、客は非難し始めます。
　ストーカーは苦笑いし、歴史上の人物、それも血に飢えた怪物といっていい人物をなぜ庇う必要があるのか、と話を進めます。
　しかし客は、怒りに震える。

　「あなたは、何も知らない。
　かの人は、ヴラドの息子ヴラドは真の英雄だった。世の秩序の軛（くびき）に囚われぬ、翼もつ紅の龍だった」

　そして客は、語り始めます。ヴラド・ツェペシュの、真の物語を。

　第一夜では、トルコの人質の少年を。
　第二夜では、戦う改革者を。
　第三夜では、矢尽き刀折れた英雄を。

　歴史小説と、とりあえず位置づけます。ドラキュラと呼ばれた人の生涯を、うまく描き出していますね。
　しかし、第三夜、物語はファンタジーの世界へ滑り込みます。
　あり得たかもしれない世界から、あり得ない世界にと。

　1912年4月20日、ブラム・ストーカー逝く。死因、老衰。

　あとがきで、篠田さんは織田信長とヴラド、そしてチェーザレ・ボルジアを比べています。

　彼らはいずれも生前、残忍苛烈をもって同時代人を恐怖せしめたが、反面独自の価値観倫理観を持ち、その限りにおいて公正であった。

　うーん、この三人を並べるのは同意しますが、この文章には首肯しがたいですなぁ。(笑)
　信長も、ヴラドも、チェーザレも、その時代の中で特に残忍でも苛烈でもないと思いますよ。三人とも、その点に関しては後世の歴史家からことさらに貶められたのだと思っています。
　彼ら三人は、新時代を切り開く自覚はなかったでしょうが、新しい世の中を作ることに何の恐れも持っていなかったと言うことでは共通していたんじゃないかな。　　（05/3/12）