トップへ戻る 読んだ本の分類		作家番号：I043 岩田慎平 いわた・しんぺい 国籍：日本 生没年：1978年〜 　和歌山県生まれ。京都教育大学教育学部卒業。佛教大学大学院修士課程を経て、関西学院大学大学院博士課程に進み、博士（歴史学）を取得。専門分野は日本中世史（中世武士論、鎌倉幕府論）。関西学院大学、立命館大学、佛教大学で非常勤講師を務め、現在、神奈川県愛川町郷土資料館主任学芸員。

管理番号	書　　名		メ　　モ
I043-001	北条義時		鎌倉幕府を作ったナンバー2の物語

管理番号：I043-001

51 伝記・一代記

出版社：中央公論新社

書名：北条義時

鎌倉殿を補佐した二代目執権

ISBN978-4-12-102678-1　C1221

中公新書 2678

価格：820Yen

ページ数：240P

本のサイズ：新書

初版発行：2021/12/25 3版：2022/1/25

購入：2023/7/27

帯デザイン：ヤマダデザイン室 承久の乱勃発に際し、北条義時（左上）のもとにあつまる鎌倉の御家人たち。 「承久記絵巻」第二巻（高野山龍光院所蔵、高野山霊宝館写真提供）より。

呉座勇一さんの「頼朝と義時」と同じように、2022年の大河「鎌倉殿の13人」の関連本ですが、しっかりした歴史評伝です。読むのが遅れましたが、こちらもなかなかのできと言えるのでは。 　天の邪鬼(アマノジャク)の鐵太郎は、単に流行に乗った底の浅いキワモノ本は読みたくありませんので、面白そうでも見極めるのに時間がかかったりするのです。ふ。 　はじめに、と題された序文は 　源 頼家(みなもとのよりいえ)、足利 義詮(あしかが よしあきら)、徳川 秀忠(とくがわ ひでただ)。 　近年にはそれぞれ研究が進展したものの、いわゆる武家政権において、二代目は影が薄い。（Pi） 　という文章で始まります。この本の主題である北条義時もまたしかり、ということか。その存在感は、見方によりますが、どうにも影が薄い。 北条 義時(ほうじょう よしとき) 生誕 長寛元年(1163年) 死没 元仁元年6月13日(1224年7月1日) 　平安時代末期から鎌倉時代初期にかけての武将。鎌倉幕府の第2代執権。伊豆国の在地豪族・北条時政の次男。北条政子の弟。得宗家2代当主。 　頼朝より「家子(いえのこ)の専一(せんいつ)（もっとも信頼の蹴る腹心の部下）」と呼ばれ、初期の幕府の運営実務を担う吏僚(りりょう)らと将軍頼朝やその妻である自分の姉である政子との連携を保ち、幕府の最高意志決定の基本的な形を定着させるという難事業をほぼ完璧になし遂げながら、である。 　この本では、この北条義時という人物を挙げる前に、まず鎌倉幕府の政治体制、つまり将軍独裁制 ⇒ 執権政治 ⇒ 得宗(とくそう)専制 という独裁と合議の間でゆれ動いた流れの解説を行い、次に「鎌倉殿」という言葉の意味合い、それから貴族社会という背景の中で北条義時という人物がどのように現れ、鎌倉幕府という京都政権の下位にあった政治体制の中でどのような人物になったのかを説明しようとしています。 　伊豆の北条家とはどれだけの家だったのか。これは、伊豆の一大勢力であったという過去の説から単なる土豪であった説までさまざまでした。これについていろいろ検討した上で、京都の貴族社会に出仕する家柄である伊勢平氏の婿を得ていた事実に着目し、史料は少ないものの『吾妻鏡』で北条時政が「当国の豪傑」と評していたことで、北条家は伊豆国において一頭地を抜けた存在だったのではないか、と推定しています。 　保元の乱、平治の乱における時代の流れの中で北条氏の役割は、ほぼ見うけられないとのこと。その程度の存在であったと言えばいいのか。 　源頼朝と北条義時の出会いは、平治の乱のあと頼朝が伊豆に配流されたあとと見るのが自然であろう、と言います。 　つまり、異論もあると言うことなのかな？ 　平家家人の一員であり近隣の武士のまとめ役であった伊東祐親(いとう すけちか)のもとで流人となった頼朝は、北条氏が支配する伊豆国北条へ移ることとなり、そこで生涯の伴侶となる北条政子と出会います。北条時政の娘で義時の姉。 　ところで、我々が北条政子と呼ぶこの女性は、頼朝の死から約20年後の健保6年(1218)、従三位に叙される際におそらく父時政の名にちなんで付けられた名である。それ以前の名を示す確たる史料がないため、我々は、頼朝がこの女性をなんと呼んでいたのかを知らない（出会った頃から「政子」であったのかもしれないが、それを裏付ける史料がない。裏付ける史料がない以上、不明とせざるを得ないのである）。（P22-23） 　ふむ。研究者らしい妥当な言い方。 　清盛が京武者、つまり京都の周辺や機内及びその近国に所領を持ち、そこを基盤に京都を中心とする地域で活動する武士たちの第一位の地位を確立した時代、現代の視点で彼らを貴族社会の走狗として見て、武士たちもそれについて忸怩たる思いを抱いていると考える人たちが多いのだけれど、として反論します。 　まず武士たち自身が貴族社会に組み込まれた機能集団であり、彼らはその技能でもって社会に参画していたのだ。身分における上下関係から差別されることはあっても、その職能ゆえに自らを卑下し、葛藤していたとするような記録は寡聞にして知らない。（P25） 　この一節が目にとまったのは、鐵太郎自身が日頃過去の人々のありようについて、階層社会の中の人たちは常に上は威張り下はおもねり、常に下は不幸であり不平等な扱いに呻吟していたという考え方があると気づいてから。そんな事ばかりじゃないだろう、人はそれぞれ自分の立場で生きて死んでいく、不満があったとしてもそれは誰しも持っていることだ、と考えるようになったのはいつのことだろう。マルクス史観という言葉を後年知って、なるほど、と膝を打ったもの。そういう考えが教育の中にあったのか。 　閑話休題。 　いずれにせよ、京武士の方が地方の武士より格上であることは事実。であるから地方の武士は何か隙を見つけて貴族に、ではなく京武士に、取り入ろうとすることは当然の流れ。 　だから貴種である頼朝に、地方武士は群がったのだという。平家政権への不満もたしかにあったけれども。 　そしてその上にある京都朝廷は、武家を軍事貴族として国家の警察・軍事権を与えられればそれでよいので、どの武家が頂点に立とうと知ったことではない──従来の感覚では。 　平家が滅んだ後の頼朝-義経騒動までは、それでよかった。 　しかしここまでの歴史の流れの中でも、北条義時は歴史の正面に姿を現しません。せいぜい、義経討伐のための奥州合戦で、源氏一門の重鎮たちの後で父・時政と共に名を連ねているだけ。そしてそののち、頼朝の側近というか親衛隊的なポジションで記録されるだけ。 　頼朝亡きあと、二代目である頼家を補佐するための「十三人合議体制」に名を連ねたときも、主導的な位置ではない。 　梶原景時が粛正されたときも、まだ。 　その義時が頭角を現したのは、ようやく「比企氏の乱」つまり大病になった頼家の後継者問題。この時義時は、父時政と共に政敵である比企氏と対立後継者である幼児・一幡（満5歳？）を徹底的に捜索し処刑しています。 　父・時政の排除に当たっては、後妻である牧の方（政子より年下であるという説が有力）が時政と語らって有力御家人であった畠山重忠を失脚・敗死させたことが発端ですが、この陰に「鎌倉殿」の地位の争奪という問題があったことを見逃してはならない、と著者は言います。それは、「源実朝」と「平賀朝雅」。 　歴史の流れを知っていれば実朝が第3代になることは必然と見られますが、当時14歳の何も実績のない少年実朝と、頼朝の猶子であり血統もよく京都朝廷とも太いパイプがあった25歳の平賀朝雅では、創業期の鎌倉幕府の屋台骨としてどちらがふさわしいか迷うところ。牧の方としては、娘を嫁がせている朝雅を推す。後妻の血統が優ることを知っている時政も、共に。 　これを果断に処したことで、義時は「十三人」の中で、いつの間にかほぼ筆頭の立場になっていきます。 　本人にそれほどの上昇志向があったのか、というと、さまざまな記録を突き合わせても、ないらしい。 　師と仰いだ頼朝の路線を継承しようとしたり、身にかかる火の粉をはねのけたりしているうちに、いつの間にか正面に立ってしまった、それがこの北条義時という人物だとすると、どう評すればいいのか。 　承久の乱のとき、主体となったのは尼将軍と称せられ、実質的に鎌倉殿の地位にあった政子であり、義時はトップではない。 　不審な死ののち起きた、義時自身の後妻・伊賀の方をめぐる陰謀と粛正劇も、謎が残ります。 　これらの事実を記録したのがほとんど『吾妻鏡』であるとするなら、その目的は第三代執権である北条泰時をより高く顕彰するためなのか。 　歴史は奥が深い。 　この記事に書かれた言葉は、ほとんどこのわかりやすく多岐にわたって面白いこの「北条義時」という本を読んだ上での鐵太郎の思いです。感想といってもいい。 　そんな思いをさせてくれたこの本に、感謝。（2024/12/15） 　読書メーターの記録より　　読了：2024/3/15