Y037 山本兼一

作家番号： Y037	山本兼一	やまもと・けんいち
	国籍：日本	生没年：1956/7/23～2014/2/13
京都市生まれ。同志社大学文学部美学専攻。卒業後、出版社勤務を経てフリーライターとして活躍。歴史小説多数。　2013年12月中旬に病状が悪化して再入院し、病床で執筆を続けていた。2014年2月13日午前3時42分に原発性左上葉肺腺癌のため京都市の病院で死去。57歳。

管理番号	書　　名		メ　　モ
Y037-001	修羅走る関ヶ原		男たちが戦った関ヶ原、か

		Ver. 3.02

管理番号：Y037-001

30 歴史小説・日本史　

出版社：集英社

書名：修羅走る関ヶ原	副題		ISBN978-4-08-745403-1　C0193
集英社文庫や-43-5	価格：850Yen	ページ数：608P		本のサイズ：文庫
初版発行：2016/1/25	購入：2016/1/31	カバーデザイン：芦澤泰偉イラストレーション：横山明

　日本の歴史の中で、ターニングポイントとなったイベントはいくつかあります。その中でも、西暦1600年に発生した関ヶ原の戦いは、白眉と言うべきものか。
　この戦いによってそれ以後の歴史が決まったこともありますが、さまざまな人間ドラマがあり、運不運の連鎖があり、裏切りあり、不信あり、卑怯あり、怠惰あり、そして勇将たちの奮闘がありました。これが、このたった一日の戦いを日本史の中で独特な輝きをもたらしたといっていい。
　この戦いを題材に、山本兼一氏はどのような物語を作り上げたのか。

　出だしは、まず徳川家康の背信に歯がみする石田三成から始まります。秀吉の死を奇貨として、豊臣家の支配すべき天下を私物化しようとする老人の策謀は唾棄すべきもの、と怒りに震えます。
　この時点で、ああこりゃ昔の歴史観そのままかな、と思ったのは事実。でもまぁ、と思って読み進め。

　次は、土肥市太郎。誰これ？と思う間もなくどうやらフィクションの人物らしいとわかります。彼は、石田治部少輔、つまり三成に仕える国侍(くにざむらい)()で、父や弟たち、そして一族郎党を率いて関ヶ原に陣張りしていたのでした。
　彼と次弟の土肥市次郎が三成に呼ばれ、兄の市太郎には松尾山に陣を張る小早川中納言に、裏切るな、義を見失うなと諫めるように、弟には南宮山の毛利秀元のところに使いに行って寝返りなど考えず戦うように、という使番として出るようにと命ぜられます。

　次は、桃配山に陣を敷く徳川家康。一生をかけた大博打のいくさを前にして、手に入れたものを失う恐怖に震える老人。
　勝利するために、豊臣方の武将たちを次々と調略し、たらし込む。最大の大阪方武将、毛利を味方につけるために、一族の小早川と吉川を切り崩したところ。

　次は、朋友であるはずの福島正則との確執を悩む、徳川軍最右翼に陣を敷く黒田長政。家康から福島に注意しろという使いをよこされ、なにをいまさらと鼻白む様子。

　そして、徳川軍左翼の最前線に陣取り、六千の兵を率いる福島正則。徳川に天下を取らせる気などさらさらないが、三成憎しで東軍についた男。勇猛果敢な可児才蔵、戦場で討ち取る首があまりに多いので笹の葉を口や鼻、耳に刺しておくことで有名な武将を配下にしています。

　その陣の前を、本来先陣ではないのに抜け駆けしようと兵を率いて現れた井伊直政。初陣である家康の四男、松平忠吉の後見役としてこのいくさの抜け駆けをします。

　腰の据わらない小早川秀秋に仕え、この無責任で無節操な主に反感を持っている硬骨漢、松野重元。西軍を裏切ろうとするあるじの諫言に本陣まで行ったものの煩がられるだけ。

　さらに、西軍の中核である宇喜多秀家、義の人大谷吉継、と次々視点を変えます。このあたりでこの紋切り型、古い歴史解釈にちょっとイラついてくるのですが、その後の展開が面白くなります。
　小早川秀秋の元に現れた土肥市太郎が松野重元と出会うところから、本編のスタートになります。

　作家としては、この戦いで何を言いたかったのか。

　「ええいっ、どいつもこいつも。欲惚けのたわけが」
　市次郎は、大声で怒鳴った。松尾山まで届くはずもないが、罵倒せずにはいられない。
　「男はおらんのかッ」
　この戦場では、誰もが欲に惚けて、生き残ることばかり考えている。徳川内府は、それを読み切っていた。男たちの欲を読み切って餌を用意していた。愚かな男たちが餌に飛びついた。
　「われらが立派な男になりましょうぞ」　　（Ｐ379）

　そして男たちは足掻く。義を通そうと。

　この本は、そんな意志を持ち、通そうとした男たちを描こうとした物語です。
　そういう感慨に浸りたい時、読み直してみたい本ですね。　　（2016/8/14）