Z008 カルロ・ゼン

作家番号：Z008	カルロ・ゼン	かるろ・ぜん
	国籍：日本	生没年：？
経歴不明・・・・？

管理番号	書　　名		メ　　モ
Z008-001 Z008-002 Z008-003 Z008-004 Z008-005 Z008-006 Z008-007 Z008-008 Z008-009 Z008-010 Z008-011 Z008-012 Z008-015 Z008-016	幼女戦記＜1＞　幼女戦記＜2＞　幼女戦記＜3＞　幼女戦記＜4＞　幼女戦記＜5＞　幼女戦記＜6＞　幼女戦記＜7＞　幼女戦記＜8＞　幼女戦記＜9＞　幼女戦記＜10＞幼女戦記＜11＞幼女戦記＜12＞幼女戦記＜13＞幼女戦記＜14＞		異なる歴史を持つパラレル近代欧州に現れた21世紀日本の冷酷サラリーマンが、軍事ヲタク知識を元に幼女として大活躍！
Z008-013 Z008-014	ヤキトリ 1 ヤキトリ 2		「ヤキトリ」という名の傭兵たちの物語惑星バルカでのヤキトリたちの苦闘

管理番号：Z008-001

23 仮想戦記

出版社：KADOKAWA

書名：幼女戦記＜1＞

Deus lo vult　「神がそれを望まれる」

ISBN978-4-04-729173-7　C0093

価格：1000Yen

ページ数：448P

本のサイズ：130×182SC

初版発行：13/11/12　第14刷：17/1/27

購入：2022/2/28

画：篠月しのぶ
装丁:椿屋事務所

　作家の正体・経歴・本名不明です。おそらく日本人のそれなりの知識を持った新進作家のペンネームでしょうが、知ってもたいして問題ではない。むしろ、微妙な思い込みとの齟齬で落胆する恐れがありますので、知らぬが花と思っていた方が無難か。

　舞台は、統一歴1914年7月17日から始まる準戦時下の欧州。ただしあきらかにパラレルワールドであり、存在する国家群は我々の世界の国家の何かしらを思わせるカリカチュアであり、国名やその版図、経済・軍事力などは微妙に異なっています。
　主人公は、ターニャ・デグレチャフ。現世界で言うプロシア＝ドイツに相当する「帝国」領内でこの年に生誕。そして、統一歴1923年6月に、魔導少尉としてノルデン、つまり北方戦線で大活躍してしまいます。
　この世界では、「魔導」という一種の超能力が「技術」として確立されており、年齢に関係なく高い技量を持つ「魔道師」はそれなりの地位にあります──つまり、それなりの働きを期待されるのです。というわけで、10歳に満たない金髪碧眼で色白の女児ターニャが、初級士官として最前線に立ち、敵を殺戮することに何ら問題はないのです。
　とはいえむろん彼女には、単に魔導の能力だけでなく、士官学校での成績を含め軍人としての素養・実力・行動力もあったため、魔導士官としてその地位を疑う者はないのです──多少の羨望・嫉妬はあるにしても。

　ところが彼女には、「中の人」がいたのでした。西暦2013年2月22日の日本の、30代のサラリーマン。人事のスペシャリストで容赦なくリストラを断行するあまりに他人に冷たい人間性を憎まれ、同僚に駅でホームに突き落とされた男。しかし素直に死んだわけではなく、神と自称する存在Xによってその信仰心のなさを罵倒されたあげく、

「その原因は、貴様の場合は、科学の世界で、男で、戦争を知らず、追いつめられていないからだな？」（P25）

　と決めつけられ、その対極の姿でこの世界に生まれ変わったのです。元の記憶をしっかり持ったまま。

　で、「魔導」という特殊能力を持ったいたいけな幼女の姿で転生した訳。そしていきなり幼女のまま実戦に投げ込まれます。なにしろこの世界では、兵士として戦闘行動を行える魔道師の能力さえあれば、性別・年齢・肉体的能力にかかわらず一人前として扱われるというルールがあるのです。
　その結果、21世紀の30代日本人サラリーマンであり、趣味として軍事史その他オタク的知識に精通していた「彼」は「特殊能力を持った幼女」としてこの世界で生き残らねばならなくなったのでした。
　しかも、しかもです。
　持っている知識を総動員して後方で安楽な軍人生活を送ろうとあれこれ画策するのですが、なんの運命のいたずらか、やることなすこと裏目に出て、最前線での活躍により銀翼突撃章という受賞者の大半が故人である英雄の象徴としての勲章を「白銀」という二つ名と共に得てしまいます。
　かくしてノルデン地方、つまり元の世界でのユトランド半島での戦闘から始まり、戦線はスカンジナヴィア半島に拡大します。この結果を受けてフランソワ共和国軍がライン地方から帝国領に侵攻を試み、本格的な戦争が勃発したのでした。
　ノルデン地方での功績その他により、「大尉」として第601編成部隊指揮官となり、編成を経て203航空魔導大隊となった部隊の大隊長となったターニャ・デグレチャフ「少佐」は、ダキア軍が帝国に侵攻したニュースに愕然とします。これでは完全に世界大戦ではないか。

　というところで第一巻は終わり。次はどうなる。
　いやあ、正統派の軍事オタク（らしき人）によるお見事な「戦記」ですな。面白い。（2022/6/13）

　読書メーターの記録より　　読了：2022/3/16　

管理番号：Z008-002

23 仮想戦記

出版社：KADOKAWA

書名：幼女戦記＜2＞

Plus Ultra　「更なる前進」

ISBN978-4-04-729569-8　C0093

価格：1000Yen

ページ数：576P

本のサイズ：130×182SC

初版発行：14/6/12　第11刷：16/11/30

購入：2022/3/17

画：篠月しのぶ
装丁:椿屋事務所

　さてさて、今回は基本テクノロジーが史実の1920年代より微妙に発達している統一歴1924年9月24日から始まります。たまたま203航空魔導大隊指揮官ターニャ・デグレチャフ少佐の10歳の誕生日ですが、それとは違う理由でこのいたいけな少女は欣喜雀躍しています。
　派遣されているダキア戦線で、60万とも言われるダキア軍の越境が確認されているのですが、その先鋒たる歩兵の三個師団に航空援護がないことを聞いてのこと。
　しかしだれもこの決定的な優位にい付いていない。
　ダキア公国とは、現実世界でいうとルーマニアあたり。ダキアという言葉はローマ帝国の属州としてその名が知られていますが、現実世界では古語。

　この国が、北方ノルデン、西方フランソワ共和国との二面作戦を行っている帝国を牽制、あるいは火事場泥棒を企んで兵を出したのがこの巻の発端。
　ターニャ以外のすべてが60万という敵兵の数字と三個師団の先遣部隊という言葉に恐れを成したのですが、彼女は自分たちが航空魔道師であることと、航空援護がない歩兵への絶対的な優越性を知り抜いています。それは、かつての「現世」での軍事オタクとしての知識によるもの。

　こんなふざけた戦闘で、部下を失うなどそれこそエチオピアに蹴散らされたヘタリアよりも悲惨な汚名がついて回ることだろう。（P37）

　で、彼女は一個大隊を率いて三個師団を潰走させ、後始末を後方からすっ飛んできた第17軍と第7航空艦隊にまかせて、そのままダキアの首都にこの世界での史上初の夜間都市襲撃を刊行します。
　その結果、帝国軍は労せずしてダキア戦役を片づけたのでした。
　ここまでが、外伝を含めたこの本の8つの章の最初の一つ。

　そして、次の章からはノルデン戦線。帝国は南東の脅威を押さえこんだのち、北方のレガドニア協商連合を痛打することを画策します。その支作戦のために、参謀本部の作戦部を仕切るゼートゥーア少将と侵攻軍を指揮するルーデルドルフ少将との間でこんな会話が。

「よろしい。何か、必要なものがあればいってくれ」
「ああ、じゃあ、魔導部隊をよこせ」
「魔導部隊？　ああ、かまわないが。どの部隊を？」
「貴様の虎の子だ。第203だったな。例のダキアで活躍した部隊を使わせてもらいたい」
「取り扱いが難しい大隊だが構わないか？」（P62-63）

　便利屋扱いですな。

　という訳で北方戦線に回されたターニャの大隊。そこでも航空魔道師としてのアドバンテージと、元ミリタリーヲタクとしての知識をフルに生かして大戦果を上げます。ターニャ本人としては、自分がいずれ前線で赫々たる戦果を上げた参謀将校として軍中央に招聘され、楽に年金付き生活を行うための布石と考えていますので、戦果は大きい方がいいし、真面目で働き者の人格者として記憶されたい。決して戦争馬鹿(ウォーモンガー)などとは思われたくない。

　声の大きい、攻撃思考の積極的かつ果敢な指揮官に対する理由のない批判は沈黙するだろう。
　声が大きいつじーんを見たまえ、まともな人材を十把一絡げに使い潰し、大いに災厄を振るったにもかかわらず出世できている。
「諸君のノルマは、足止めだ。だが別に、わたしを待つ必要はないぞ？　倒してしまっても一向に構わん」
　不味くなったら、保身のためにつじーんドクトリンを採用するとしよう。幸か不幸か、あの御仁、戦後にも戦犯として指名されるのを見事に逃げ切った。あの随分とずうずうしい神経は真似できないにしても、いくばくかは学ぶところもあるのだろう。（P119）

　ここで例に挙げられるつじーんとは、戦争中に後方の参謀でありながら前線を引っかき回し、自分の作戦の失敗を自分より上の地位にある士官たちに押しつけて自殺を強いたこともある、頭脳明晰にして作戦に精通し、日本の敗戦の中で象徴的な愚行を行った一部で有名な太平洋戦争時の陸軍軍人。戦後も見事に復活して、衆議院議員、参議院議員をつとめ、東南アジアで行方不明になったとか。
　要するに、「受けたモンが勝ち」を証明してくれた人。
　作者とターニャ・デグレチャフの琴線に触れるところがあるようですが、尊敬などしておりませんな。(笑)

　この巻では、ターニャの洞察力というか中の人のミリオタ知識というか、わずか10歳の少女の驚くべき判断が随所に出ます。こんなに出しちゃったら、あとが困るんじゃないかというように。

「後ろ、背後・・・補給線？　そう、補給。それを絶つ？」
　記憶の破片が再構成されていく中で、無自覚のうちにぼそりと呟かれる一言。その一言に、眼前でルーデルドルフがぎょっと表情を強張らせることさえ意識の外に締め出したままターニャは思考を形作るべく収斂させる。
　背後、そう、後背を扼すなにか。それ、そう、背後からの痛快な蹴り飛ばし作戦。
　ふと、頭に浮かぶ二文字。
　仁川(インチョン)？　そうだ、仁川だ。
　・・・そう、それだ。小癪なコミーを愉快痛快に蹴飛ばしたあれ。マッカーサーの乏しい才覚が奇跡的に成し遂げてみせた仁川上陸作戦。背後からの大規模な包囲と分断。限界寸前の北朝鮮軍を文字どおり瓦解させた決定的な一撃。（P164-165）

　そうやって、最高の軍参謀が知能を絞り尽くして考案した極秘作戦を、ちょっとした言葉や地図だけで自分の子より孫に近いような幼女に看破され指摘されたら、たまったものではない。
　とりあえずこの世界では、というかターニャが直接相手をする上司たちが寛容なのか大らかなのか、とりあえず今は「ターニャ･･･怖い子」として薄気味悪がられる以外、嫌悪されたり嫉妬・蔑視されたりはしていません。
　その結果どうなったのか。
　協商連合は瓦解し、脱出する亡命政府が乗った船は第203戦隊に補足されます。そしてライン戦線では、フランソワ共和国領で帝国に占領されたアレーヌ市の市民蜂起を203大隊が叩き潰します。
　いくつか危ういところはあったものの、ターニャ・デグレチャフ少佐は何をやっても上手くいってしまう。本人としてはそこそこ信頼され功績を上げたらさっさと後方に下がって楽をしたいのですが、そうもいかない。
　ある意味、抱腹絶倒言うと言ってもいい展開なのですけど、笑っていいものやら。(笑)
　ああ、公式には中立国であるアルビオン連合王国、つまり現世世界のイギリス・アイルランドから派遣された「義勇軍」のアンソン大佐が娘から送られた高性能短機関銃の末路というネタもはさまれ、これはのちの伏線の一つとなります。

　さて、共和国との間にあるライン戦線の膠着状態をみて、ゼートゥーア少将は新たな戦略を考案します。その経緯がちょっと語られたところでこの巻はおしまい。次はあの大作戦です──どう描かれるんだろう？　（2022/7/2）

　読書メーターの記録より　　読了：2022/6/21　

管理番号：Z008-003

23 仮想戦記

出版社：KADOKAWA

書名：幼女戦記＜3＞

The Finest Hour　「最良の時」

ISBN978-4-04-730037-8　C0093

価格：1000Yen

ページ数：416P

本のサイズ：130×182SC

初版発行：14/12/11　第9刷：16/11/30

購入：2022/4/11

画：篠月しのぶ
装丁:椿屋事務所

　統一歴1925年5月、「衝撃と畏怖 Schrecken und Ehrfurcht」作戦が発動します。これは本格的な解錠作戦、すなわち共和国軍をおびき寄せて壊滅させる大規模計画の先駆けとして行われたもの。膠着したライン戦線の南側、帝国軍から見て左翼戦線の奥深く、共和国軍司令部に強襲をかける、というもの。
　作戦としてはあまりにも無謀であり、成功は期しがたいと歴戦の参謀たちも激論の末反対したのですが、ゼートゥーアとルーデルドルフ両少将が強行したのでした。仮に作戦目的が完遂されなくても擾乱の効果は大であるし、なによりこの作戦が実行されれば共和国軍は長期的に自らの司令部を防衛するために一定以上の戦力を割かねばならなくなる、というもの。
　そのために、作戦を実行する魔道師部隊には、迎撃不可能な高度を追尾不能な速度で飛翔する「V-1」と呼称される「追加加速装置」（要するにブースター）を装備させ、しかも驚異的な戦果を上げている百戦錬磨の第203航空魔導大隊をそれに当てる、とされます。
　この危ない任務を、例によってターニャ・デグレチャフ少佐とその11名の選抜部隊は、なんと完遂してしまったのでした。

　これに先だち、参謀本部のレルゲン中佐に任務を説明されたデグレチャフ少佐は、この無謀とも思える作戦の意義を考えます。やれと言われて躊躇するわけではないが、その後の戦局にこれがどう寄与するのかがわからない。これだけの奇襲作戦を敢行するならば、当然相手に研究され、今後対策を講じられるのは当然。であるからには一発勝負であり、何らかの決定的な作戦の先鋒として行われなければ意味がない。

　前線にのこのこワンショットライターで視察にやってくる海軍の司令長官搭乗記を撃墜しろと言われる命令とは本質的に違うのだ。動かない敵司令部を吹き飛ばす以上、最高のタイミングでやるべきだというのに。
「小官に言わせていただければ、これでは入念な準便のあげくに小さな花火を打ち上げるがごとき費用対効果の微妙な・・・」
　だが、そこまで主張したところで、ターニャははたと違和感に気がつき言葉を詰まらせていた。そうだ、それがおかしい。
「少佐？」
　呼びかけてくるレルゲン中佐の訝しげな表情すら一瞬だけ思考の外に押し出し、ターニャはたった今脳裏を横切った言葉を再度、反芻し違和感を確信する。
　費用対効果が怪しい。単一の目的のためにこれほどの費用を投じる？
　そんな作戦行動を、消耗戦に対して冷徹な思考を示すあのゼートゥーア閣下が提案するものだろうか？　そして、機動戦に関して高名なルーデルドルフ少将が関与しているというのも奇妙だ。何故、こんなある種の奇策である特殊作戦の企画立案に対して、機動戦を専門にする参謀将校の大物が携わっているのか？（P26-27）

　瞬時に頭の中で思考実験を重ねた彼女は、ある結論に至ります。これは、回転ドアではないか。
　その言葉を聞いて血相を変えるレルゲン中佐。極秘の上の極秘である作戦計画を、この前線将校はなぜ察知したのか。

　この場合の回転ドアとは、戦線南部の帝国右翼戦線を急激に後退させた兵站の無理を承知で突進する共和国軍左翼を呼び込み、帝国左翼戦線を一挙に前進させて共和国軍右翼を潰走させ、右回りに共和国軍主力を包囲殲滅するという雄大な計画。そのために南部戦線奥にある共和国軍総司令部を一時的でも混乱させ、壮大な坑道爆破戦術を駆使して帝国左翼を突進させる必要がある。
　その尖兵となったのが203航空魔導大隊による奇襲攻撃であったということ。

　結果として想定の最大限をも上回る大勝利を得た帝国軍、歓喜の渦の中フランソワ共和国首都パリースィイに進軍します。兵站の限界がありややゆったりと。
　その間に、不屈のド・ルーゴ少将の獅子奮迅の働きで、西方の軍港ブレストを脱出する共和国残存部隊と水上艦艇。
　これを脅威と考えたのは、ダンケルクの再来と蒼白になるデグレチャフ少佐ただ一人であり、彼女は部隊に許された独断専行の顕現を駆使してこれに強襲をかけることを計画します。しかし魔導部隊に戦闘中止の命令が下った中で、彼女は抗命罪ぎりぎりでその行動を阻止されたのでした。

　彼女への譴責処分は保留とされますが、その代わりでもないでしょうが第203航空魔導大隊は南方戦線に転属を命ぜられます。
　そこに駐留していたのは、共和国の南方植民地を牽制する任務を与えられたものの、わずか二個師団しか与えられず憮然としているロメール将軍。名にし負うライン軍団の英雄であるが、功罪半ばすると評された使いにくい部隊長を押しつけられて、困惑は深まるばかり。しかも、出頭するなり自分の部隊には独自行動権を与えてほしいと言い出すのです。
　しかも、傲岸不遜ながら真摯窮まりない態度で、自分の力量を見てほしいと主張。ロメール将軍も、とりあえず、と思いを保留しつつ彼女の配下への編入を確認したのでした。

　かくして統一歴1925年10月、共和国南方植民地軍と本国から撤退した本隊とを統合したド・ルーゴ少将を指揮官とする共和国・連合王国の同盟軍と、ロメール将軍率いる南方派遣軍が接触、戦闘に入ります。
　ド・ルーゴ少将の精緻窮まる作戦に翻弄され、壊滅の危機に入った、と思われた局面で、ターニャ・デグレチャフ少佐の発揮した手腕とはどうだったのか。この不利な情勢で何をすれば良いと考えたのか。

　・・・シマーヅ一族？
　つまり、敵中突破して帰れば敵前逃亡じゃなくなるという理屈だろうか。
　いや、だが・・・とターニャは些か葛藤してしまう。正直に言おう。敵中突破して帰るなど、無理難題にも程があるだろうにと心中ぼやくのだ。
　ケレルマン突撃に代表されるような、戦史に特筆される次元のことを平気でやる連中の正気が疑わしい。自分のような常識人にはつらい時代である。
　だが、やらねばならないとすれば。
　選択肢がないならば、それは、義務だ。（P365-366）

　ここまで来て自分を常識人と考える非常識にも笑えますが、この作家の歴史オタクぶりにも笑えます。ケレルマン突撃とは、戦史マニアを泣かせるアイテムじゃありませんか。（笑うのか泣くのかどっちかにしろ）

　結果として双方痛み分けに終わった戦いのあと、南方戦線は一時落ち着くのですが、統一歴1925年11月1日、アルビオン連合王国は正式に、全面的に帝国との開戦を宣言します。そしてこう宣言する。

「さて、紳士淑女の皆様、それではわれわれの最悪の時代に乾杯しましょう。そして、願わくば我らが子孫に言わせたいものではありませんか。あの時代こそが、帝国にとって最良に時代だった、と。そして今、永久の祖国が味わう最悪の時代に乾杯！」（P402）

　ジョンブル、相変わらずですな。(笑)　と、この巻はここまで。
　ここまではWW2世界を違う角度でシミュレートしているように見えますが、どうなるのかな。（2022/7/23）

　なお、この巻よりこのサイト内での分類を61 童話・ライトノベルから23 仮想戦記に変更します。ライトノベルの定義が曖昧ですが、内容は異世界ファンタジー戦記であると共に現世界の歴史のパロディなのですから。でしょ？
　作家ご本人はこれはラノベなのだと主張しておられますが、知ったことではない。(笑)

　読書メーターの記録より　　読了：2022/6/21　

管理番号：Z008-004

23 仮想戦記

出版社：KADOKAWA

書名：幼女戦記＜4＞

Dabit deus his quoque finem　「神はこれらの苦しみにも終わりを与えるだろう」

ISBN978-4-04-730474-1　C0093

価格：1000Yen

ページ数：488P

本のサイズ：130×182SC

初版発行：15/7/10　第9刷：17/1/27

購入：2022/6/22

画：篠月しのぶ
装丁:椿屋事務所

　ついにルーシー連邦（以下、「連邦」ｗ）が戦場に登場。
　読んだけれどまだこのサイトで記事にしていない本で、「独ソ戦　絶滅戦争の惨禍（大木毅）」というものがあります。この中で、ドイツ第三帝国、というかヒトラーが、なぜソビエト連邦との戦いで戦線が膠着しても敗走を始めても妥協を許さなかったのかについて、

　･･･ドイツが遂行しようとした対ソ戦争は、戦争目的を達成したのちに講和で終結するような19世紀的戦争ではなく、人権主義にもとづく社会秩序の改変と収奪による植民地帝国の建設を目指す世界観戦争であり、かつ「敵」と定められた者の生命を組織的に奪っていく絶滅戦争でもあるという、複合的な戦争だったことが理解されるであろう。（「独ソ戦」P220）

　と説いています。これは、それを受けたソ連（ロシア）の、「敵」に対する無制限の暴力の発動も招きますが、結果としてそうなったとしてもソ連が「やむを得ず身を守るために武器を取った」などという甘い言葉で形容できる国ではなく、不信と敵対意識に支配された油断のできない相手であったという──わが国も1945年に見事に裏切られたものね。
　つまりあの時代にあっては、ドイツとソ連は平和共存など世迷い言であり、敵対的中立国か対戦国のどちらかとしか考えられなかった、と言うわけ。

　カルロ・ゼン氏は、この論を参考にしたのか、と思ったのですが、新書版「独ソ戦」の刊行は2019年7月で、こちらの方が4年早いのね。
　と言うわけで四面楚歌の帝国は、北にとりあえず制圧したレガドニア協商連合、南東にあっさり蹴散らしたダキア大公国、西に叩きのめしたフランソワ共和国（しかし勢力の大部分が南方大陸に逃れて自由共和国と称しています）という情勢、その上海の向こうにアルビオン連合王国が宣戦布告しており、大洋のむこうの合州国も中立国ながら油断のならない状態なのですが、にもかかわらず東方に大量の国境警備の軍を張り付かせています。連邦の「好意」「善意」を信じる政治家、軍人は帝国に皆無だから。

　で、南方戦線から引っこ抜かれた我らが第203航空魔導大隊は、統一歴1926年3月15日、ルーシ連邦との国境の奥深くへ偵察任務に就きます。この時点で連邦とは戦争状態にありませんので、むろん国際法違反。相手が国際法など屁とも思っていなくても、それは別問題。発覚すれば戦争を引き起こしたのは卑劣な帝国の陰謀のためと喧伝され、ただちに全面戦争になだれ込んでしまう。
　そういう事情で国境奥に侵入していますと、なんと連邦は完璧な実戦配置の上、膨大な量の大砲を並べその実弾を山ほど積み上げ、明確に帝国領に指向しています。さらに男のロマン、列車砲まで備えているではないか。
　こいつで彼らは本当に戦争をしかける気なのか、と息を呑む彼らの前で、火を吹くその列車砲。同時に

「少佐殿！　連邦軍が前線線にて攻撃を・・・」
　無線を傍受していたヴァイス大尉が血相を変えて口にするひと言。
「宣戦布告です。たった今、帝国に対して連邦が宣戦を布告しました！！」（P57-28）

　なんとね。
　じゃあやるしかない。即座に偵察・即時撤収計画を廃棄し、戦闘行動に移ると宣言するターニャ。
　まァこの彼らの前で敵の列車砲がゆっくりと次弾を装填して砲撃すると描写されていますが、おいおい。列車砲といえば、装填して次弾を撃つまで数十分もかかるし、一日に10発討てたら万歳！ってなシロモノですぜ。最前線近くで戦術的に臨機応変に使用される兵器じゃない。なんて言うと男のロマンを否定しているようで申し訳ないんですが。(笑)
　彼らの爆裂弾で列車砲陣地まわりの火薬や弾薬が誘爆し、たちまち火の海。魔導大隊なので人数が人数で全面攻勢はできませんが、撹乱・遊撃戦としては充分な成果が上がります。さらに奇妙な事に、敵魔道師の姿もない。防空体制も空っぽ。
　ならば、ドゥーリトル奇襲に倣ってみようか、と考えたのはターニャの中の人か。

　一応帝国参謀本部にお伺いを立てて了解を取ったのち、第203航空魔導大隊は連邦首都モスコーを急襲します。
　単なる示威行動として上空をパレードする程度、というつもりだったのですが、あまりにもモスコー上空の防空体制が皆無だったことで、ターニャの方針が変わる。

『所定の計画を修正する。第一中隊は私の直卒。あの聳え立つ忌々しい連邦人民宮殿の赤い星を爆砕しよう。他は、目につく政府施設の急襲だ』
　迎撃がないならば、夢に見たモスコーの大掃除だ。
『第二中隊、貴様らはモスコーの広場で醜悪な銅像の解体。可能ならば、ミイラもだ』（P128-129）

　クレムリンを襲い、人民宮殿と秘密警察本部を炎上させ、巨大なヨセフおじさんの銅像を爆破し、革命広場に帝国の旗を掲げる。胸のすく行為ではありますが、これによって相手のメンツを決定的に潰し、早期和平の道を消失してしまったのでした。
　しかも、連邦のナンバー2、幼児性愛者の変態男ロリヤにターニャが姿を見られるという将来の遺恨付き。

　一応、連合王国まで含めた帝国と対戦している諸国で、首都や戦略要地への魔道部隊による浸透奇襲に備え、前線から防空部隊を引き抜いて防衛体制を整える必要が発生したという「メリット」はありますが、帝国参謀本部としては〝やりすぎた〟という感想が多数を占めます。となると、無限とも言える広大な領土を持つ連邦との徹底的な交戦をせざるを得ない。

「論外窮まる。兵站線がそれだけで崩壊するぞ」（P164）

　しかし、やるしかない。

　とりあえず、まず膨大な敵戦力をいなしつつ後退し、敵の兵站が延びきり攻勢限界点に達するのを見きわめて叩く作戦により、帝国は一定の勝利を得ます。その中で、たかが聯隊規模とはいえ、デグレチャフ少佐の第203航空魔導大隊の機動防御も大きなウェートとなっています。
　で、第203大隊の独断専行を咎める動きもあったものの、軍法会議どころか査問会議の段階で圧勝したターニャ、次の勤務先の希望として「最前線勤務以外を志望する」と答えてゼートゥーア中将を激怒させます。そこで示される、この歴戦の英雄にして幼女の戦略眼。連邦との休戦はありえないと言う理論。彼らが抱く帝国への恐怖。殲滅戦争とならざるを得ない可能性。
　そのために、前線を離れる必要があるという論理はいささか疑問なのですが、ゼートゥーア中将は決断します。デグレチャフ少佐に2ヶ月やる、その間に西方戦線で戦技研究に努めつつ戦訓調査を行え、と。

　で、ドードーバード航空戦に巻き込まれた第203航空魔導大隊。その中で、メアリー・スーという合州国からの義勇兵との間に生じた「遺恨」は、プロレスの「アングル」っぽくて面白いですな。

　最後にターニャにもたらされたのは、真面目に軍務にいそしむ姿を見せつつ如何に楽な勤務を送るかと考えている彼女にとってまさかというもの。「貴官の提言どおり」に、魔導大隊を中核とした「戦闘団」を結成することとなったので中佐に昇進してその指揮を執れ、と。
　しかも編成期間は、戦線の緊急度に鑑み、5日しか与えられない、努力せよ、と。
　そんな、あんまりだ。

　しかしそれでもなんとかしてしまうのが主人公たるところか。
　と言うわけで、統一歴1926年7月1日、「サラマンダー戦闘団」が発足します。──そんなこんなでこの巻は終了。
　次はどうなるのか。（2022/9/9）

　読書メーターの記録より　　読了：2022/9/1　

管理番号：Z008-005

23 仮想戦記

出版社：KADOKAWA

書名：幼女戦記＜5＞

Abyssus abyssum invocat　「地獄は地獄を呼ぶ」

ISBN978-4-04-730902-9　C0093

価格：1000Yen

ページ数：512P

本のサイズ：130×182SC

初版発行：16/2/10　第7刷：16/11/30

購入：2022/6/26

画：篠月しのぶ
装丁:椿屋事務所

　プロローグで描かれるのは、合州国の義勇兵としてアルビオン連合王国の戦線に立つメアリー・スーの、母国の母親への手紙。その後彼女に何が起きるのか、乞う御期待。（おい）

　サラマンダー戦闘団は、第203魔導大隊を基幹として、第2親衛師団から引っこ抜いた降下猟兵一個大隊、南方戦線から譲渡された機甲一個中隊、自走化砲兵一個中隊、さらに予備の魔道師一個中隊により構成されています。これだけの規模であれば指揮官は大佐が当てられても不思議はないのですが、とりあえず中佐となったターニャ・デグレチャフが指揮しています──というか、これは彼女でないと指揮できない特殊部隊であり、参謀本部直轄の戦略的部隊としてあちこちの戦場に回されます。便利屋扱いですな。
　連邦との戦いが膠着状態になりつつある東部戦線に送りこまれたサラマンダー戦闘団は、まず北方戦線の突出部に展開して即応力と戦闘力を示しましたが、所詮点に過ぎない。しかも連邦の兵士は、戦場ではおおむね劣勢であるはずなのに戦意が衰えない。党による締付けがよほどキツいのか、督戦部隊が怖いのか、ほかに原因があるのか。
　しかしそこで、ターニャは驚くべきことを知ります。なんと連邦の兵士は、捕虜の本音を聞く限りにおいて、連邦という国家や党のために戦っているのではない。鞭を振るう共産党のためではなく、祖国のため、奪われた国土のために戦っているらしい。

「我々は、帝国は、まるで見当違いの敵と戦っているのだ！　これでは、敵を倒すどころか敵に塩を送っていたも同然だぞ」
「我々の行動が、連邦を利していたと･･･？　ありえるのですか、そのようなことが？」
「ヴァイス少佐。今のやり方では敵に勝てば勝つほど、敵を団結させているのだ。我々が勝利すれば、交戦意欲を削げるという見込みは狂った！　敵の瓦解を促さない！　逆だ！　連中の連帯感を刺激して抵抗はより強固となってしまう！」（P85）

　我々はコミュニストと戦うつもりでナショナリストと戦争をしていたのだ、という認識。
　いくら21世紀のオタクの転生とはいえ、この世界ではただの一兵士。この仮説でしかない認識を拡大することはできるのか。

　とはいえ戦争の推移に従って消耗してくる国家のリソースは、浪費されていくばかり。連邦もそうだが、帝国だけも疲弊していっています。このままでは、全方位に敵を持つ帝国の未来はない。
　サラマンダー戦闘団は東部戦線から北洋海域へ、そしてノルデン沖で通称破壊戦に出ます。そこで連邦を援助しようとする連合王国の船団と交戦してかなりの損耗を受けます。軍用に徴用された連合王国の超大型客船「クイーン・オブ・アンジュー」ってのが出てきますが、モデルはやっぱりあの船かな。
　ちなみにイギリス連合王国の立場で考えると、アンジューという名前は古フランスの北の内陸部にあり、イングランドとは領土的にはあまり縁がないと思うのですよ。仮に「クイーン・オブ・アキテーヌ」であれば、フランスのアキテーヌ侯領を手土産にヘンリー2世に嫁した中世英国史に名高いイングランド王妃アリエノール・ダキテーヌとしてぴったりなのだけど。
　その後一時戦闘団は解体されますが、再び第203航空魔導大隊を中心に再編成されて（今度は前より二線級の部隊をつけられてターニャとすればいささか不満）東部戦線に送られます。
　こき使われるのが運命なのですが、常に実績を上げているので自業自得といえばそうか。

　強制収容所から復帰させられて連邦側の多国籍軍を率いることになったミケル魔導大佐と連合王国の海兵魔導部隊のドレイク中佐が気があったのはともかく、連邦軍政治将校リリーヤ・イヴァノヴァ・タネーチカ中尉が合州国義勇軍メアリー・スー少尉と仲よくなるシーンは、どう見ても怪しい。むろん陰謀ネタとしてね。

　この巻のシメは、ターニャ・デグレチャフ中佐の意見具申を得たハンス・フォン・ゼートゥーア中将の演説。
　我らは平和を望むが、連邦の不当な侵略によりやむを得ず武器を取った。国土を守るための戦いは完遂しなければならないが、領土的野心などない。我々の敵は、「赤匪(せきひ)」であって、平和を望みつつ連邦の圧制下で苦しんでいる者たちではない。「領土・主権を持つ自立した人々」とは、手を取り合って共に戦う用意がある。
　我々は占領地域を併合する意志などない。現在の占領地は、ただちに民政移管する予定である。
　我らはホラティウスの如く故郷を守るために踏みとどまり、戦う。共に手を取り合って故郷を立て直し、共に戦えないだろうか。

「とうか、よき隣人として。願わくは、橋の上にあって肩を並べる戦友として、そして、あらまほしき日にはともに平和のパンを分かち合う兄弟として。私たちが、あなた方と歩むことを許していただきたい」（P499）

　見事なるプロパガンダ。見事なる偽善。

　なるほど、こういう手を使うのか。うまくいくといいね。(笑)

　と、読んでみて思うのだけど、このような政略的な方針転換のメッセージは、国家元首あるいは国家を統制する組織が決定し命令して初めて発せられると思うのですが、いくら軍事的に名声を得ているとはいえ一介の中将の高級参謀将校が宣言していいものか。
　この点、問題になりませんかね？　（2022/10/17）

　読書メーターの記録より　　読了：2022/9/1　

管理番号：Z008-006

23 仮想戦記

出版社：KADOKAWA

書名：幼女戦記＜6＞

Abyssus abyssum invocat　「地獄は地獄を呼ぶ」

ISBN978-4-04-734210-1　C0093

価格：1000Yen

ページ数：512P

本のサイズ：130×182SC

初版発行：16/2/10　第7刷：16/11/30

購入：2022/6/26

画：篠月しのぶ
装丁:椿屋事務所

　相変わらず便利使いされるターニャとサラマンダー戦闘団が、東部戦線で冬季に備えた装備が想定されてないことに歎く場面から始まります。現実のWW2において、独ソ戦でドイツ軍は冬季装備の遅れから戦線を維持できない惨状を呈しましたが、これには戦局の推移に関する考察の甘さ、つまりソ連があれほどしぶとく粘るとは思わなかったことと作戦の失敗げ原因とされます。これに対し、この世界の「帝国」の問題点を、国家としての戦争ドクトリンの欠如を挙げています。
　中部欧州において最強を自負していた帝国の軍備とは、内線防御に徹するための機動戦に特化しており、他国の侵攻を受けて国家を防衛して反撃するためのもの。だから敵地に侵攻したとき、占領し軍政を敷き補給を整えさらなる攻勢のための体制を進める、という方策が何もなかったのだと。それ故に、勝ってしまったらその先どうすべきかの具体策がなかったという。
　なんたることか。

　てな訳で、前巻最後のゼートゥーア中将の占領地の帝国より中立化・自治を許す政策も、軍部の一部による「とりあえず」の施策にとどまり、帝国国家の国是ではないのだという。
　そもそも帝国はいまだに戦争により獲得した領地をどうすればいいのか全然決まっていないから、らしい。
　では何のために戦い、どのような決着をつければいいのか。
　戦争は始めたら終わらせなければ成りません。完璧に勝利して城下の盟を結ばせるのでない限り、何らかの相互妥協を経た条約を締結しなければ、戦争は終わりません。
　完全決着ができない以上、外交交渉を行わなければならないのですが、現に戦っている以上それもままならない。

　で、そんな中でイルドア王国が不穏な動きを見せます。帝国との国境近くに軍を集結させている様子。帝国の同盟国でありこの戦いでは中立の立場でいたイルドアが、いまこの時に至って何をしようというのか。
　まァ現世界のヘタリアみたいに、勝ち馬に乗ったつもりになって兵を出し惨敗する、ってなことにならない（今のところ）だけましでしょうが、それでもその動向は帝国にとっても他の交戦国にとっても気になるところ。外交戦が展開されますが、どうやら単なる存在感を示しただけだったらしい。
　敵に廻るなら帝国にとって鎧袖一触ですが、そのためにどこかの軍を回さなければならないし軍備も馬鹿にならない。
　陸軍はともかくそれなりの海軍力も持っており、その軍備を背景に上手く立ち回ろうと二股をかけているのは見え見えなのですが、帝国にとっては人騒がせな連中です。

　ターニャのサラマンダー戦闘団は、この情勢の中で相変わらず便利屋扱い。
　まず東部戦線で連邦軍の威力偵察部隊を「自治評議会」つまり占領地の解放民による組織と共に撃退。
　この時連邦軍の中で、連合王国から派遣され「多国籍義勇軍」として参戦する部隊の海兵魔導部隊指揮官のウィリアム・ダグラス・ドレイク中佐が、ミケルという魔導大佐と知己になります。連邦の強制収容所から帝国軍と戦うために出てきた戦闘のプロで、政治将校を毛嫌いしていますが、連邦という国家は党が軍隊も支配する世界なので、その存在を無視できない。
　この部隊についている政治将校はリリーヤ・イヴァノヴァ・タネーリカという中尉で、なかなかしたたかな女。実直で素直な理想主義者であるメアリー・スー魔導中尉をたちまち籠絡して「仲良し」となっています。
　このメアリー・スー、帝国に蹂躙された協商連合から合州国に亡命し、国籍を取って合州国軍で将校に任官した魔道師で、戦士としてはかなり有望なのですが、政治的・客観的な判断ができない世間知らずのおバカ。こういう阿呆がいないと物語としてはバランスが悪いのか、とも思いますが、協商連合つまりスカンディナヴィア半島に戦線が移ったとき、このおバカぶりでドレイク中佐の頭痛の種になります。

　作家はさまざまなオタク的知識を披瀝しています。たとえばこんな。

「秘密作戦とは言え、微妙な問題がありますが･･････」
「そこに手を突っ込めば、砲弾が転がる」
「は、砲弾が転がる、でありますか？」
　いいかね、とハーバーグラム少将は若い事務官にちょっとした古典の手ほどきをしてやる、海の男ならば、だれだって知っている昔話。
「海軍の故事成語だ。弾丸転がし、を意味するところは･･････おお、恐ろしい。反乱の一歩手前だという意味だぞ」（P240）

　その昔、帆装戦闘艦が英国の軍備を担っていたとき、無意味に苛酷な支配を受けた艦では、士官が夜の臨検をしているときなぜか砲弾が転がったのだそうな。当時の砲弾は、先込め砲のため球形で数キロの鉄の塊ですから、直撃すれば下手をすると足首が砕かれます。閉鎖された船内での、反乱寸前の重苦しい空気を示すもの。
　こんな知識を無尽蔵に繰り出すのですが、ライトノベルとして読んでいる読者にどれだけ伝わるのやら。(笑)

　国境での機動防御を目的として編成され、外征を想定していなかった帝国において、参謀本部が東備戦線での鉄道網を駆使した兵站をどのようにして策定したのか、という謎に気づいたターニャが、兵站の専門家である戦務参謀のウーガ中佐に問うてみると、こんな驚くべきことを聞かされます。むろん厳重な軍事機密なのですが、デグレチャフ中佐だからいいらしい。主人公特権？ｗ

「国家機密だが、貴官には良いだろう。東部への鉄道網を活用しての物流だが、侵攻計画の立案経験が乏しい参謀本部は叩き台としてある案を流用した。出どころは分かるかね？」
「そういえば、基礎研究を行っているにしては耳にしたことがありませんね。まさか、士官学校の学生あたりに与えた研究課題程度でしたか？」
「惜しいな、いや、正解でもあるが」
「は？」
　ぽかん、としたターニャへ告げられる正解は予想だにしない答え。
「共和国軍参謀本部/戦史編纂局の合同研究課題、『対帝国侵攻の兵站論考』が基礎研究のベースだ」（P294）

　つまり緒戦で壊滅させた西方のフランソワ共和国の戦略をカンニングしたのだ、という。
　戦場では最強であるにもかかわらず、これほどまでに泥縄の戦いを続けていてはやがて来る未来は破滅しかない。これはハンニバルの戦いではないか。

　北方戦線に転戦するドレイク中佐・ミゲル大佐の魔道師部隊の動向と、同じく北方戦線に移動するサラマンダー戦闘団が重装備を運べずに陸上部隊の機動戦力がバイクになってしまう顛末までで、この巻は終わり。
　戦争終結の見込みは今のところほぼゼロ。ヤレヤレ。（2022/11/19）

　読書メーターの記録より　　読了：2022/11/12　

管理番号：Z008-007

23 仮想戦記

出版社：KADOKAWA

書名：幼女戦記＜7＞

Ut sememtem feceris, ita metes　「撒いた種は刈らねばならない」

ISBN978-4-04-734655-0　C0093

価格：1000Yen

ページ数：436P

本のサイズ：130×182SC

初版発行：16/12/28　第2刷：17/1/27

購入：2022/9/27

画：篠月しのぶ
装丁:椿屋事務所

　上記、「Ut sememtem feceris, ita metes」の訳文は意訳です。多分そんなところでは。

　統一歴1927年4月20日、東部戦線の某所より始まります。
　春の泥濘の上空を飛ぶ第203航空魔導大隊を率いるのは、むろんサラマンダー戦闘団の指揮官を兼ねるターニャ・デグレチャフ中佐。じわじわ厳しくなる戦線で悪戦苦闘。

　のちの歴史家に東部における「幽霊」だったと言われる「レルゲン戦闘団」の発足は、その直後のことでした。
　指揮官は、部隊名の通りレルゲン大佐──であるはず。帝国参謀本部で作戦を担当するルーデルドルフ中将の有能なスタッフである彼が、なぜ前線指揮官のなったのか。
　その奇妙な伝説にターニャが絡んだのは、統一暦1927年4月27日、そのレルゲン大佐の訪問を迎えたときから。その第一の目的は、サラマンダー戦闘団に観戦武官、それも外交的には帝国の同盟国であるが中立国であるイルドアの大佐を、同行させて欲しいとのこと。
　なんでそんな奇妙で、前線部隊にとって迷惑で面倒な話が起きたのか、と問うターニャに、レルゲン大佐は説明します。

「いや、そうだな、率直にいくべきだろう。デグレチャフ中佐、･･････私は、本日付でサラマンダー戦闘団を指揮下に置く機動戦闘団指揮官に任じられている」（P113）

　どういう事か、というとこういう訳。
　レルゲン大佐はなんと参謀本部より派遣されてイルドア王国に働きかけ、連合王国及び連邦との和平を探る任務を遂行するのだという。そのためには、帝国参謀本部の俊英として目立つ存在であるレルゲン大佐に機動戦闘団という特殊部隊の指揮を執らせる、という形にして目を引きつけ、その裏で大佐に隠密行動を取らせるのだそうな。

　そのため、イルドア王国より観戦武官を受け入れるのだという。

「それで？　どれほどの貴官、受入れを？」
「要するに、参謀本部はこの交渉に携わる面々をすべて東部に放り込んだことにしておきたいのだ。彼の接待という名目で、いろいろと動かすのでね」
「長引くと？」
「多数の幽霊指揮官、幽霊幕僚、幽霊参謀が、レルゲン戦闘団の戦闘序列に参入して大いに暴れることになっている」
　一見関係のなさそうな返答で、しかし、意味するところは明瞭だ。ある種の名義貸しともなれば、恒久化する可能性すらある。最低でも、なにがしかのケリがつくまで、当分の間はずっとだろう。（P117-118）

　政治的にはそんな動きもありなのでしょうが、ターニャとしては頭の痛いこと。なにしろ、同盟国とはいえ別な国の自分より階級の高い高級将校に肩ごしにすべてを見られ、対応が悪ければ国際問題になりかねない。
　しかも、今後の作戦行動は、一応デグレチャフ中佐が、存在しない名目上のレルゲン大佐の命令によって行うのですが、その戦果はすべてレルゲン戦闘団の功績となり、サラマンダー戦闘団指揮官の軍功はないのです。ま、それはしかたがない。
　なにより問題なのは、帝国という国家が、ではなく帝国陸軍の参謀本部が主導して外交交渉が行えるのかということ。
　それをいったらおしまいなのでだけど。(笑)

　その観戦武官、イルドアのカランドロ大佐は、ターニャの悪い方の予感があたって何かと口を出してくるのですが、とりあえず泥沼の東部戦線における戦時国際法の解釈の問題なので煩わしいというレベルにとどまっています。とりあえず、ありがたい。
　とはいえ戦線は膠着。不慣れな新兵のせいで味方からの誤射を食らいそうになったり、ターニャとしては嘆息をこらえるばかり。

　統一暦1927年5月5日、東部戦線において状況を好転させる「鉄槌作戦」が発動されます。これはある意味、西暦1944年9月に行われたマーケット・ガーデン作戦の焼き直し（？）なのですが、こちらの世界では成功してしまい、連邦軍は大きく後退します。むろんサラマンダー戦闘団、名目上はレルゲン戦闘団もそれに参加。
　決定的とは言えないまでも大勝利。これを機に和平交渉を、と期待したのですが甘かった。

　戦略的勝利を演出したのち、ゼートゥーア、ルーデルドルフ両中将は最高統帥会議で吊し上げられます。これほど赫々たる勝利を得ながら、イルドア王国の仲介による双方痛み分けの和平案を進めるとは何事か、と。

「率直に申し上げます。国内の世論と民進の動向を御掌握されておいでですか？　このような条件での停戦・講和などとても認められません。しかも、イルドア案による停戦は暫定的な合意。講和に至る可能性すら曖昧なシロモノではありませんか！」（P411）

「軍事的な停戦交渉は、あくまで軍の権限やもしれません。ですが、正式な停戦・講和の領域ともなれば外交です。管轄は当然のことながら外務省で主体的に詰めるべきは我々だ。このような案件に関し、軍が専横を揮うのは著しい越権では？」（P412）

　居並ぶ文官たちは声高に言う、勝っている今、なんで譲歩する必要があるのか。軍がさらに勝利を積み重ねれば、こんな相手におもねるような条件ではなく、もっと決定的な条件を突きつけられるではないか。

　かくして、最前線だけでなく戦争自体が泥沼に入り込み、イルドアの帝国大使館にいるレルゲン大佐は驚愕と激昂と慟哭を体験することに。ナンテコッタ、ですな。
　この巻はここまで。さてさて、どうなるのかこの先は。

　そういえばひとつ、言っちゃならないであろう個人的な文句をば。この本のイラストは、読者の皆様に絶大な好感を与えているらしいのですが、気に入りませんな。なんだこのマンガ絵は。(笑)　（2022/12/16）

　読書メーターの記録より　　読了：2022/12/3　

管理番号：Z008-008

23 仮想戦記

出版社：KADOKAWA

書名：幼女戦記＜8＞

In omnia paratus　「覚悟を決めよ」

ISBN978-4-04-734407-5　C0093

価格：1000Yen

ページ数：448P

本のサイズ：130×182SC

初版発行：16/12/28　第2刷：17/1/27

購入：2022/8/12

画：篠月しのぶ
装丁:椿屋事務所

　上記、「In omnia paratus」の訳文としては、「自分の準備をする（しろ）」が近いらしい。でも本文の中で考えると、「覚悟を決めろ」って意味で使っているんじゃないか、と。

　出だしは、どの戦いのあとかはわかりませんがともかく戦後のある日、WTNの特派記者としてあの戦争に参加した記者、アンドリューの懐古から始まります。彼は東部戦線で、連邦軍と連合王国の多国籍部隊に従軍することを許可されたのですが、その選抜基準が、熱意はあるが経験不足な若者ばかりであるとなると、取材に関してキナ臭いことを感じるもの。
　まァキナ臭さをかろうじて感じられる程度のヒヨっ子しか許可されないことと、厳重きわまりない検閲で、戦場に何か隠すべき事があることはわかります。
　そこで出会ったのが、「ただの海兵魔導士官」を自称する連合王国のドレイク中佐。彼がつぶやいた一つの、覚えておくべき名。帝国軍中将ゼートゥーア。
　のちに、「恐るべきゼートゥーア」として轟く人名を、彼は始めて知ったのでした。

　統一歴1927年5月26日、ゼートゥーア中将は帝国中央駅から東部方面軍に向かう列車に乗ります。見送るのは盟友ルーデルドルフ中将。東部軍B集団の査閲担当への栄転、という建前ですが、帝国の最高統帥府に楯突いた結果の左遷であることは周知のこと。
　なにしろ東部軍の二つの軍団の一つとはいえ、疲弊しきった帝国東部方面軍を南・北の二つに分けて南のA集団に決戦戦力を集中した結果、北のB集団は防衛線もまともに維持できない張り子の虎。南部戦線で強襲をかけて黒海東岸の資源を奪取する「アンドロメダ作戦」の決行が間近な今、せいぜい囮でしかないB集団の、それも指揮権の無い「査閲担当」ではなんの意味も無い。

　しかし、ただでは転ばないのがゼートゥーア。兵站・戦務で評価されているとは言え、元々は作戦家であると自負しています。

　B集団司令部に着任早々、彼はレルゲン戦闘団の指揮官代理、つまりサラマンダー戦闘団指揮官ターニャ・デグレチャフ中佐を呼び出します。
　いくつか怪しげな会話を交えたあと、「レルゲン大佐」の部隊を囮にする、そのため君の中隊を一つ貸してくれと驚くべきことを。精鋭に育て上げた三個中隊と追加の補充中隊、合わせて四個中隊のうちの一個。どう考えても未熟な補充中隊をお望みではないはず。

「閣下、僭越ながら反駁をお許しください。私のは、ただの中隊ではありません」
「知っている。なればこそ、司令部中隊をして便利づかいしたい」
「･･･手足をもがれる気持ちでありますが」（P103）

　これが、ゼートゥーア中将の作戦のキモの一つ。しぶしぶ三個のうちの一つ、戦力としてはまあまあであるが指揮官が士官学校出であるグランツ中尉の中隊を差し出します。
　その上でゼートゥーアはいう。全然にあるソルディム528という、鉄道線路上にある小都市に築かれた陣地を守って欲しい。敵が再奪取をしかけてくるからよろしくな、という。
　なにを言っているのだ、と驚くターニャですがこの二人、こと政略戦略作戦戦術に関する限り考えはぴたり合っているという（ターニャにとって）困った状況。なにを期待されているのかわかってしまったターニャには考える隙間もない。

　かくしてこの巻は、約20日間の間に起きた東部戦線のひと騒動、言って見れば「ゼートゥーアの乱」の顛末が語られます。
　その結果起きたのは、東部A集団による兵站能力の限界を超えた「アンドロメダ作戦」の失敗と、戦力不足なB集団方面における戦線の押し上げ。そしてこれから発生するであろうゼートゥーア中将の陰謀の顛末。巻き込まれたターニャの困惑。

「ならば、よし」
「はっ」
「ライヒに黄金の時代を。･･････黄昏だとしても、陽はまた昇ると示さねばならん。期待しているぞ、中佐」
「ライヒに黄金の時代を」
「結構！　大いに結構！　覚悟を決めるとするか。我々は、おそらく、そうせざるをえない」
「･･････覚悟だけは、決めましょう」
　小さく、ターニャは相槌をこぼす。きっと、ろくでもないことを命じられるのだろう。必要なことだと正当化されるのだろうが、付き合う側になるのは酷く心外だ。
　それでも、逃げられないとあれば覚悟は決めねばならない。･･････何事があろうとも、驚くことのないように。（P424）

　ちなみに今回も、東部戦線の多国籍部隊でメアリー・スー中尉のおバカがおバカをしますが、ありがたいことに数行の描写ですみます。しかも、彼女のおバカぶりが結果オーライになってしまう。ドレイク中佐としては、痛し痒しといったところ。
　おとなしめのこの巻は、殺伐とした戦闘描写も控えめ。
　次巻は、いよいよ「恐るべきゼートゥーア」の胎動となるのか、な？（2023/1/2）

　読書メーターの記録より　　読了：2022/12/3　

管理番号：Z008-009

23 仮想戦記

出版社：KADOKAWA

書名：幼女戦記＜9＞

Omnes una manet nox　「誰も死を逃れられない」

ISBN978-4-04-734877-6　C0093

価格：1000Yen

ページ数：472P

本のサイズ：130×182SC

初版発行：18/1/12　第4刷：21/3/20

購入：2022/11/14

画：篠月しのぶ
装丁:椿屋事務所

　上記のラテン語、ホラティウスの詩にある一節で、直訳すると「すべての人々をたった一つの夜（あるいは死）が待ち受ける」という意味なのだそうな。つまり、「死がすべての人々を待っている」ということであり、であれば･･････ということで、こんな訳をつけてみました。

　統一暦1927年6月29日、ターニャ・デグレチャフ中佐指揮下のレルゲン戦闘団は帝都ベルンに帰還します。この世界にあっては損耗すれば（可能ならば）後方に下がって補充・補給ができるのです。素晴らしきかなまともな軍隊。──主人公特権という可能性もありますが。
　休養できることに喜ぶ歴戦の将兵たちとはうらはらに、ターニャはこの戦闘団の名目上の指揮官であるレルゲン大佐に陰に呼ばれ、ろくでもない現状を告げられて暗然たる思いに。
　現場を知っているターニャのみならず優秀な参謀本部は、少なくとも東部戦線では帝国軍がすでに兵站の限界を超えており、かろうじて局所的な勝利で戦線を保っているに過ぎないことを承知しています。アンドロメダ作戦の頓挫を受け、連邦軍の攻勢をいったん受けて戦線の整理を図るのが最善であると作戦案を出しますが、最高統帥会議というか、その背後にいる政治家たちの思惑は違った。帝国軍には十分な余力があるのだから、こちらから攻勢をかけて相応の戦果を挙げることが続くことを当然と考えている、ということらしい。
　だから、このタイミングで、（何かしらの譲歩をかわした上での）早期講和などはもってのほかだったということ。ゼートゥーア中将が左遷されたのも、先走ってしまったせい。

　なにやら前回の大戦の日本で、継戦を望んだ「優秀な」参謀組織を擁する軍部が停戦・講和どころかろくに勝利の想定もせずに戦争に進め、シビリアンである政治家が土壇場になるまで手をこまねいていたことの裏返し的なイメージですかね。

　そしてレルゲン大佐は、震える手をターニャの肩に置いて、とんでもないことを言い出します。

　･･･「具体的に言えば、最高統帥会議を夜間爆撃してもらいたい。（Ｐ32）

　冗談にしても恐ろしい事を。
　基本的な人生哲学として、いい子という姿を示して楽にこの時代を生き延びたいと願っているターニャ・デグレチャフの中の人。クーデターに荷担しかねないこんな企てに乗るわけにはいかない。
　その場はうやむやになったものの、この戦争を続けるために今のままでいけないことは火を見るより明らか。
　ターニャとしては、自分に火がつかないようにどう上手く立ち回ればいいのか、悩むところ。

　とりあえず、東部に戦力を抽出し続ける帝国軍としては、使える手駒をなんとか確保しなくてはならない──ということで、南方で今となっては意味のない戦いを強いられている南方軍のロメール中将を撤退させる作戦が策定されます。その護衛任務につくのも、手駒として都合のいいレルゲン戦闘団。というより、戦闘団の中でもターニャが直卒する第203航空魔導大隊。
　ここでかつて戦略会議で自身で言った言葉に臍をかむことになるターニャ。
　要するに、人間魚雷に乗れというもの。鬼門であるかのマッドサイエンティスト、ドクトル・アーデルハイト・フォン・シューゲルが開発したV-2とはそういうもの。魔道師なのだから最後に脱出すればいいではないか、という理屈。
　冗談じゃない、と思うターニャですが、その発端がかつて彼女が参謀本部戦略研究室に属していた短期間の間に、

『対艦戦闘？　対艦攻撃機なり潜水艦なりで魚雷をぶち込めばいいではありませんか』（P219）

　と事もなげに流して、物議を醸してしまったのでした。
　まさかこの時代では、魚雷を運用できる大型攻撃機がまだ存在せず、帝国の潜水艦の魚雷自体が欠陥品だらけだったということを知らなかったターニャ、指摘を受けてあわてて自分の発言をとりつくり、潜水艦なり魚雷艇に肉薄攻撃をさせればいいのでは、と意見してみたのでした。
　それが回りまわってマッドサイエンティストによる人間魚雷になってわが身に降りかかるとは。

　とはいえこれによって、地中海海域において連合王国の誇るマイティ・フッドとアーク・ロイヤルを始めとする機動部隊の大半を沈めてしまったのですから、なんと言えばいいのか。
　この「超兵器」ってのは、とターニャは思う。使いづらいし熟練した魔道師部隊でなければ戦果を上げられない、しかも魔法の種をいっぺん見せてしまえば何度も使えるトリックではない。所詮、マッドサイエンティストの夢。
　で、帰還しようとしたところで、迎えの潜水艦上で驚くべき命令を受領します。第203航空魔導大隊は、同盟国でありこの戦いでは中立を守っているイルドア王国に上陸し、歓待されて陸路で本国に帰還せよと。
　かくして大隊は、イルドアで彼らを迎えるカランドロ大佐のエスコートの元、イルドア参謀本部よりの白紙小切手をもらって大名旅行としゃれ込みます──むろん外交的な思惑があるのですけど、もらえるものはもらってしまえ。

　今回のお話は、7月23日までの約一ヶ月の戦場の一コマ。
　帝国は破綻の道をまっしぐらの中での一休みですが、はたしてこの先どうなるのか。
　うーん、明るくない未来しか見えないなぁ。（2023/2/22）

　読書メーターの記録より　　読了：2022/2/15　

管理番号：Z008-010

23 仮想戦記

出版社：KADOKAWA

書名：幼女戦記＜10＞

Viribus Unitis　「強大な連合」

ISBN978-4-04-735326-8　C0093

価格：1000Yen

ページ数：440P

本のサイズ：130×182SC

初版発行：2018/9/29

購入：2022/12/6

画：篠月しのぶ
装丁:椿屋事務所

　上記のラテン語「Viribus Unitis」は、「力を合わせて」あるいは「合力する」という意味だそうで、オーストリア＝ハンガリー帝国海軍の戦艦の名前にもなったそうです。「viribus」だけだと「力を尽くして」「力強く」といった意味らしい。
　「強く連合する」ということと考えていいのだろうか。ならば「連合国」と訳したサイトの解釈もありか。うむ、そこまで意訳していいのかな？

　お話は統一暦1927年7月25日のターニャ・フォン・デグレチャフ中佐の内心のぼやきから始まります。無理な戦略の元に行われる苛酷な作戦の中で、前線で将兵が無理に無理を重ねて戦線を維持しているというのに、本国──帝国が求めるのは勝利だけ。

　停戦から平和のための勝利か？　否。
　平和を創る講和のための勝利か？　否。
　帝国が納得できる条件のための勝利か？　否。
　要するに、ただ、『勝利』とみなせる勝ちを上げよと求められているにすぎない。（P10）

　こんな曖昧な、自分勝手な価値観を満たすことが目的では、勝利などできない。相手があって戦争をするものであり、相手に自分の意志を押しつけられない時は、勝利はおぼつかない。そもそもそのための戦略であり、外交交渉であり、妥協であり、講和の交渉であるはず。それを一切拒否し相手の意志を無視して自分の勝手に規定する勝利のみを求めるのであれば、もはやゴールはない。
　逃げるか、と考えるターニャの中の人。いまの企業に見切りをつけ、再就職の可能性を模索しつつ抜ける、これは状況が見える企業戦士の当然の権利。その知識がこの情勢で生かせるのか。

　まァ中の人は最初からいかに危険から逃れいかに逃げるかを、最初からグチグチ語ってましたから、何を今さらなんですが。
　といいつつ効率的な人殺し術を追求すると共に、それを実践する戦争馬鹿(ウォーモンガー)どもを育てる術にも邁進していたのだから、ターニャ・フォン・デグレチャフという人物はいろいろな意味で始末におえない。(爆)

　さて、もはやはっきりした勝利など不可能と分かった状態のまま、帝国軍、というよりこのシリーズの中では「まとも」な軍人であるとされているゼートゥーアとルーデルドルフは、さまざまな手立てを尽くします。
　東部戦線でゼートゥーア中将がなし遂げた遊撃戦による反撃は、その最たるもの。突出する連邦軍を引き込み、その突出する両端を叩くのではなく鉄道網を利用して戦線奥の兵站網を叩く戦略的防御戦による勝利ですが、それにデグレチャフ中佐の直率する第203航空魔導大隊の一部が絡み、陽動となったのでした。
　この戦いは、ゼートゥーアの大将昇進の前祝いになります。

　とはいえ実は、ターニャの東部戦線での働きは一時的なもの。現時点でサラマンダー戦闘団は西部戦線のロメール将軍麾下にあるものですので、返す刀でドードーバード海峡におけるロメール将軍の特殊作戦に参加する事となります。役に立つ駒はこき使われるもの。
　ところがここで、ほぼ完璧な奇襲攻撃であったはずの海軍まで巻き込んだこの作戦が、連合王国軍に迎撃されて目標達成は失敗します。一応圧勝して撤退したのですが失敗には違いない。ロメール将軍はうめく。

　リスクを最小化し、かつ、成功の公算を極力最大化するべく努めてきた。ありとあらゆるリソース、なけなしのそれをつぎ込んだ。
　なにもかもを賭す、万全を期した作戦のはずだった。
　人知の限りを尽くし、最善を目指す。むろん、人間の仕事だ。限界があり得るのは、大いに認めようとも。
　だが、吼えざるを得ない。
　「なぜ、あそこに、ロイヤル・ネイヴィーの連中が！」（P354）

　そう、なぜか。
　暗号が破られたのか。内通者がいるのか。スパイによる情報漏洩か。単なるミスか。

　暗号しか考えられない、との結論は、デグレチャフ中佐も同意。ではどうするか。これって次巻のネタかな？

　さて、コンラート参事官というなかなか切れ者らしい文官も登場し、今後の展開が気になります。
　とはいえ、この本一冊かかって40日程度の時間しか経過していません。水増し気味かなぁ？　（2023/4/27）

　読書メーターの記録より　　読了：2022/4/9　

管理番号：Z008-011

23 仮想戦記

出版社：KADOKAWA

書名：幼女戦記＜11＞

Alea iacta est　「賽は投げられた」

ISBN978-4-04-735496-8　C0093

価格：1000Yen

ページ数：432P

本のサイズ：130×182SC

初版発行：2019/2/20　第3刷：2022/1/5

購入：2022/12/30

画：篠月しのぶ
装丁:椿屋事務所

　上記のラテン語「Alea iacta est」は、窮地に立ったユリウス・カエサルが起死回生の作戦を立て、決行するとき発した言葉であり、「賽は投げられた」として日本語としても有名。

　煩悶するターニャさんでほぼ一巻を使い切った感のある10巻のあと、じわっと歴史が動きます。
　薄氷の勝利を得たゼートゥーア大将が執務する東部方面司令部を訪れた参謀本部のルーデルドルフ中将（大将昇進内定済み）は、この先の帝国に未来はない、どういう形になるかはともかく破滅は必至であるという未来予想について、一致します。とはいえ、単純に白旗を揚げる──正確には国家が即座に終戦の意志を示すように求める、にしても、今なにもできないのです。何しろ帝国は国家としては、勝利に邁進しているのですから。
　そのため、当面の方針として帝国参謀本部は一つの方針を固めたのでした。ともかく勝利を得るために、中立国であるイルドアと戦火を交え、潜在的脅威あるいは未来の敵国をまず叩く、というもの。この作戦にゼートゥーアは反対なのですが、『勝利至上主義』を捨てずにこの難局を乗り切ろうとする参謀本部を代表するルーデルドルフの心は微動だにしない。
　かくなる上は、と心を決めるゼートゥーア。
　非常手段を用いて、親友であり帝国参謀本部の重鎮であるクルト・フォン・ルーデルドルフを強硬手段で排除するのだ。その手段として使うのは、むろんターニャ・デグレチャフ中佐とその麾下のサラマンダー戦闘団。

　一応中立国である合州国の貨物船を、無差別潜水艦作戦に従事していた帝国軍潜水艦が撃沈してしまった、という重大な外交問題が発生し、これに対応するための「対合州国包囲網形成を目論む新大陸交錯概要」なる機密文書を帝国外務省が在外公館に電信で送り届けたという事件が発生します。これを真に重大な事件と考えたのは、暗号通信が敵に破られている可能性を頭に置いている帝国参謀本部のみ。なんということか。

　「プロパガンダ材料を相手にくれてやるようなものですな。まして、民間船撃沈後の措置としては……火に油を注ぐ行為だ。どこの外務省かとお尋ねしたくなります」
　ルーデルドルフ大将は疲れたように首を横に振る。
　「合州国船籍の貨客船をわが方の潜水艦が沈めている時点でどうにもならん。外務省は相手方へ余計な材料をくれてやったに過ぎんさ」（P139）

　問題は、ここへの対応に関して、ゼートゥーア大将とルーデルドルフ大将の二人の方針が決定的に食い違ったこと。そしてついに、デグレチャフ中佐に命令が下ります。

　「……私は、もう、人間性を燃やし尽くしたやもしれん」
　「閣下？」
　「なんでもない。ルーデルドルフを元帥閣下にしてやってくれ」

　「任務拝承致しました。凶報をお待ちください」（P172）

　かくして、第203航空魔導大隊の中の一個航空魔導中隊の護衛の元、東部発帝都便として参謀本部作戦次長ルーデルドルフ大将以下高級幕僚・参謀将校などを乗せた輸送機が発進します。
　しかしなんと、罠を閉じる覚悟をしたデグレチャフ中佐に報告が入ります。連合王国の魔導部隊が連邦領より飛来し、奇襲攻撃をかけてきたのです。明智光秀役からジョブチェンジしたデグレチャフ中佐、ついに目の前で味方輸送機の撃墜を見ることで山本GF長官を護衛する零戦パイロットの役どころになりました。
　時に、統一暦1927年10月3日。ルーデルドルフ大将、機上にて戦死。

　これで戦局は変わる、はず。
　ところがなんと、ルーデルドルフ大将のあとを継いで参謀次長として帝国の作戦を掌握することとなったハンス・フォン・ゼートゥーア大将が最初に定めた作戦は、イルドアへの侵攻作戦。これには、イルドアと合州国の秘密外交による急速接近、軍事同盟の兆しという非常事態も関わっていますが、それにしても急な方針転換。
　何が起きたのか。
　帝国はどこへ行こうというのか。

　先陣を承るのはサラマンダー戦闘団──ではなくて第八機甲師団。そこに参謀として赴任したレルゲン大佐は、なんと師団の臨時指揮を取る羽目になっただけでなく、デグレチャフ中佐と共に最前線で大活躍。
　で、緒戦でイルドア戦線を叩き潰してこの巻は終わり。（2023/7/13）

　読書メーターの記録より　　読了：2022/5/14　

管理番号：Z008-012

23 仮想戦記

出版社：KADOKAWA

書名：幼女戦記＜12＞

Mundus vult decipi, ergo decipiatur　「世界が瞞されたいのなら瞞してやれ」

ISBN978-4-04-735734-1　C0093

価格：1100Yen

ページ数：496P

本のサイズ：130×182SC

初版発行：2020/2/20
　2刷：2021/9/5

購入：2023/5/18

画：篠月しのぶ
装丁:椿屋事務所

　買った時点で刊行された最新巻がこれです。（ご存じのように今年つまり2023年に新刊が出ましたけどね。）
　ところでラテン語の副題は意味深です。おそらく拙訳で大きな間違いはないと思いますが、これが正しいのなら大きな欺瞞が歴史の中に生まれようとしていると言うこと。それは、いったい何か。

　ルーデルドルフ大将亡きあと、同盟国であり中立を保っていたイルドア王国を席巻したゼートゥーアの戦略とは何か。すでに東西プラス北方に敵を迎えて兵站的には限界を超える戦いをしている中で、イルドアを攻めると言うことは、いままでタテマエにしろ中立国という立場であったイルドアとその背後の合州国を正式に敵に回すと言うこと。現時点で世界一経済力を持つ強大な国家を敵に回してしまってどうするのか。
　戦争の先に勝利しか求めていない単細胞的な「帝国」の朝野を、何らかの衝撃によって目をさまさせようというのか、それとも凋落するままに破滅させようとしているのか。
　世界を敵に回すこととなった「恐るべきゼートゥーア」の思惑は、それ以上の何かなのか。

　押しまくられるイルドア戦線において、小規模ながら焦土戦術でまずまずの遅滞戦闘をなし遂げたカランドロ大佐は、民間人の退避のための暫定的な停戦交渉を行う使者として、帝国最前線部隊を率いるレルゲン大佐の元に身を進めます。しかしそこで彼を迎えたのは、レルゲン大佐が多忙なので代理に、と言い訳をするゼートゥーア大将、帝国軍参謀本部次長でイルドア攻撃を断行した人物。

　この戦いの意味を問うたカランドロに対し、なんとゼートゥーアはこう言い放ったのでした。

　「引き金は、君たちが引いた。これは、本当なのだ。私にしてみれば、君たちこそが、発端にすぎん。諸君は実に余計なことをやらかしてくれた」（P59）

　え？　そしてゼートゥーア大将は帝国が連邦に屈することは許されないのだ、だからイルドアの無作為が悪い、と言い切る。

　「閣下、我々が連邦を利した事実はありませんが」
　「いやいや、合州国を『中立国』たるイルドアへ縛り付けたではないか。この決定的な局面で、合州国が数ヶ月程度遅れてしまえば……世界で連邦の面(ツラ)がでかくなりすぎる」（P65）

　会談が終わったあと、相対的にせよ常識人であるカランドロはうめく。

　「帝国は」
　背筋がいくど震えたことか。
　「戦争は、あんな、化け物を生みだすのか……？」（P69）

　これが、共産主義者を一人勝ちさせないために全方位戦闘を選択する、という時代の常識を超越した戦略であることを理解できるのは、第二次大戦が終わった後の東西冷戦という歴史を知っている「転生者」であるターニャ・フォン・デグレチャフ中佐のみ。だからそういう未来を見通す視点に驚くのもターニャだけなのですが、それを別にしてもこの狂気にも似た戦略眼はどうなのか。

　この情勢に機敏に対応したのは、機を見るに敏な連合王国。彼らは連邦に派遣していた「多国籍義勇軍」をイルドアへ回すことを決定します。こんな時に連邦に肩入れしている暇があったら、「西側」で戦う方が（彼らの）政治的に正しいのだ、と。
　かくして、ドレイク中佐率いる魔導部隊は、本人の不満もなんのその、連邦からイルドアへ足抜けしたのでした。しかも、連邦もまたこれが「政治的に正しい」と判断したため、喜んで送り出してくれたのだと。なんと、まあ。

　後半は、イルドアに襲いかかる、サラマンダー戦闘団や第八師団を中心とする帝国の各戦線から抽出された部隊による猛攻と、蹂躙されるイルドア王国。
　最後の最後、連合国による反撃が発起します。それも、ゼートゥーア大将の戦略の手の平の中。
　メアリー・スー少尉の身勝手で不快な正義感の発露も見られます。──なんだ、この人生きてたんだ。

　そして最後、シメはこの言葉。

　歌い上げるようにして、ゼートゥーア大将はほくそ笑む。
　「世界が瞞されたがるならば、私に瞞されてもらう」（P475）

　なんだ、ちゃんと作者本人の訳語があったんじゃないか。(笑)　（2023/10/29）

　読書メーターの記録より　　読了：2023/7/21　

管理番号：Z008-013

19 ミリタリーSF

出版社：早川書房

書名：ヤキトリ 1

一銭五厘の軌道降下

ISBN978-4-15-031280-0　C0193

ハヤカワ文庫JA1280　JAカ13-1

価格：680Yen

ページ数：368P

本のサイズ：文庫

初版発行：2017/8/10

購入：2023/3/30

カバーデザイン：世古口敦志（coil)
カバーイラスト：so-bin

　前史として「汎星系通商連合航路保安保全委員会」略称「商連」により圧倒的な力で隷属種族に落とされた人類、という前史があるはずですが、そんな前提はすっ飛ばして本編に入ります。
　序章として　「ヤキトリとは？　──商連地球総督府発酵採用促進広告」　という題で、ヤキトリという「商品」の説明があります。

　①概要
・商連海兵隊の安価な代用品
※機能的に商連海兵隊を代用しうるのみであり、互換性を保証するものではありません。地球総督府当局は、ヤキトリの使用により生じたいかなる損害からも免責され、損害補償は本国通商法にのみ従属するものとします。
　②法的地位
・・・・
　③品質
・・・・
　④メリット
・・・・　　　（P7-8）

　②以後は割愛しますが、要するに安価であまり戦力としては信頼できないが、必要最低限の働きは出来るためコストパフォーマンスは抜群なので、是非とも採用のご検討をよろしく、と。

　そのヤキトリになることを選んだ、というかなるしかない立場の犯罪者である俺、伊保津章──アキラ──の一人称で、物語は進みます。犯罪といっても、俺は（自分で言うには）学力優秀であり他のアホの中で自分だけはまともだったため、アホどもと同じ労働者となる進路を拒否して大学進学を望み、翻意しろという圧力を拒否したら「反社会的性格認定」ということで社会福祉公団の収容所に「保護」されたのでした。その中で、どうやら商連に目をつけられたらしい。
　商連のパプキンとかいう男の説明に従って、俺は「汎星系通称連合航路保安保全委員会指定による惑星現住知性種管轄局選定により業務受託を行う国連・総督府弁務官事務所合同許認可機構によって認証される特殊宇宙保安産業の第321組」通称「K321」ユニットの一員としてヤキトリとなります。
　アキラ以外のK321の他のメンバーは、アメリカ国籍の黒人男タイロン・バクスター、北欧人のエルランド、中国女・楊紫涵(ヤン・ズーハン)、そしてアキラの天敵となるイギリス人のアマリヤ・シュルツ。
　このアマリヤの、口調といい、我が儘な考え方といい、他人を睥睨して威圧し自分の考えを押しつける様子といい、ピント外れな戦略といい、なにもかもアキラの気に入りません。相手も同じらしく、この二人はいつもやり合うことに。
　アキラのチームK321が、他のチームと異なって基礎的な知識を名にも与えられないというとんでもないことが判明します。その結果、模擬戦において互いに同じハンディのはずの他のヤキトリ・チームに対し、連戦連敗。記録上最悪最弱なチーム。
　なにか、おかしい。

　しかし最終場面で、実際に敵基地へ降下作戦が行われ、そこでとんでもない事が判明したのでした、という序盤にもならないところでこの巻は終わり。。

　ある意味、ハインラインの「宇宙の戦士」テイストのお話をベースにしています。そしてそこから発展するプラスアルファ。
　しかし決定的に違うのは、まずこの世界では地球人は「生意気な異星人に懲罰を行うために鍛えられた艦隊と機動歩兵を投入する」立場ではなく、「上位の異星人の傭兵あるいは使役獣となって彼らの敵と戦う下位の存在」であることでしょうか。その奥に見える「汎星系通商連合航路保安保全委員会」の連中の思惑。も気になるところ。
　そうそう、主人公たる俺、アキラの自信過剰な考えがどうなるのかも、けっこう気になりますな。
　また佐藤大輔ふうの面倒くさくしつこく理屈っぽい文章は、かなり読者を選ぶけれどそれになじんだ者にとっては魅力的ですね。なじまなければどうにもならないけどね。二巻で刊行が止まったのもそのせいかもしれない。
　ちりばめられたさまざまなギミックやガジェット、たとえばスリランカ語──スペース・リンガ・フランカとか、十分な滋養分はあるが無茶苦茶不味い『大満足』という名のチューブ入り食料とか、面白いネタもあるのにね。
　とはいえ、繰り返しますが二巻しか刊行されていません。その二巻目はどうなっているのかな。（2023/9/22）

　読書メーターの記録より　　読了：2023/9/18　

管理番号：Z008-014

19 ミリタリーSF

出版社：早川書房

書名：ヤキトリ 2

Broken Toy Soldier

ISBN978-4-15-031318-0　C0193

ハヤカワ文庫JA1318　JAカ13-2

価格：680Yen

ページ数：368P

本のサイズ：文庫

初版発行：2018/4/25

購入：2023/3/30

カバーデザイン：世古口敦志（coil)
カバーイラスト：so-bin

　商連つまり「汎星系通商連合航路保安保全委員会」よりの分離独立を主張する惑星バルカへの「懲罰」作戦の様子が描かれます。
　そしてそのあとのプロローグで、俺こと伊保津章(いほつあきら)が、惑星バルカにおける虐殺事件の主犯として裁判にかけられるシーンとなりました。俺と楊紫涵(ヤン・ズーハン)がどうやら主犯で、K321の他のメンバー、アマリヤ、タイロン、エルランドが従犯らしい。

　なにがあったかというと、俺たち「ヤキトリ」は、というかヤキトリを含む市民の軍属の一団「インスタント」は、惑星バルカへの示威行動として進発した第142バルカ方面特設派遣艦隊に属し、

　「──儀仗兵として諸君には商連の多様性を表現してもらいたい」（P42）

　という一方的な通達を受け、惑星バルカに降下します。
　ちなみに、「インスタント」とは

　「『インスタント』とは、商連軍が使う使い捨て機材の総称だ。つまり、『ヤキトリ』のように属州民からなる安価な代用品の総称だよ。商連じゃ、価格相応の性能だと思われていると理解してくれれば十分だ」（P65）

　との弁は、俺たちのドッグトレーナー役であるヴァーシャ・パプキンによる説明。
　つまり、コストの問題なのだと。

　かくして、どう見ても示威行動としての商連高官のパレードとその儀仗兵の行軍が行われ、当然予想が付くことですが多少おとなしくなっていた惑星バルカはこの挑発に対し蜂起します。
　そこでなぜか、K321は規定外の重火器を装備させられており、総崩れのインスタントたちの中で一人気を吐くことになってしまう。

　これは「宇宙の戦士」より「地球連邦の興亡」テイストだと思うのは大ちゃんフリークのせいかな？　第3巻のリェータ脱出のときの場面に似てます。とはいえ情勢は、あっという間に絶体絶命。
　その中で、いまだ謎めいた中国人ヤン・ズーハンのとんでもないアイディア。それに焚きつけられた俺。
　なんと、とんでもない手段で情勢をひっくり返してしまう。とんでもない、違法な手段で。
　いや、違法と思われた手段で。

　その結果が、冒頭の軍法会議。
　で、その結果は驚天動地、抱腹絶倒な竜頭蛇尾。見事無罪を勝ち取ってしまう。

　ただ、そのままハッピーエンドにならないのがカルロ・ゼン節。さてこの決着は「ヤキトリ3」で、となって6年経ちました。
　どうするんだろう、ハヤカワは。(笑)

　この本の表紙は、その謎めいたヤン・ズーハン。この後も続巻が続くなら、あと三人の姿も表紙になったんでしょうね。
　無理みたいだな、これでは。（2024/2/28）

　読書メーターの記録より　　読了：2023/10/5　

管理番号：Z008-015

23 仮想戦記

出版社：KADOKAWA

書名：幼女戦記＜13＞

Dum spiro, spero ─上─　「生きている限り希望はある」

ISBN978-4-04-736819-4　C0093

価格：1200Yen

ページ数：480P

本のサイズ：130×182SC

初版発行：2023/8/30

購入：2023/8/30

画：篠月しのぶ
装丁:椿屋事務所

　買った半年寝かせてしまいました。
　飽きたわけじゃないと思うけど、なんだろね？

　全方位に敵を迎え、これにより唯一の勝利の確信を得たと歓喜するゼートゥーア大将から始まります。唖然とするグランツ大尉。統一暦1928年1月15日のこと。
　状況としては、イルドア王国との中立条約を破棄して南方に攻め込んだ帝国軍に対し、これを好機と捉えた連邦が、まだ戦線の整備が完了していないにもかかわらず「黎明」と号した作戦を立てて帝国占領地に侵攻しますが、実はこれはゼートゥーアの巧妙窮まる罠でした。がら空きと思われた東部戦線になだれ込んだ連邦軍は帝国軍の思いも寄らない反撃に遭い、文字どおり叩き出されたのでした。
　それによって最終的に勝利を得られるめどが立った、という冒頭のゼートゥーア大将の歓喜なのですが、そういわれてもわからない人にはさっぱりわからない。まァほぼわからない人ばかりなのですけれどね。
　とはいえ、事態がここまで進められてしまっては、訳がわからないままにゼートゥーアのすべてを託すしかない。帝国内では軍部も政府も帝国皇室も近隣の「有効」諸国の外交官も、とりあえず息を呑んで彼を見守っている状態。
　切れ者たるコンラート参事官が帝国の新年の祝いの席でゼートゥーアから受け取ったナプキンのメモ

　曰く、『黎明は近い。されど、払暁あり』（P45）

　とは、いったい何を意味するのか。
　また、

　「ライヒの諸君は、･･････ゼートゥーア大将の後をどのように、お考えなのでしょうか」（P54）

　と問われても、コンラート参事官には返せる言葉がない。
　一人になり、沈思黙考の末にコンラートが出した結論は、

　あの恐るべき将軍は。
　ゼートゥーア大将は。その正体は──。
　人の皮をかぶったシステムだ。
　人のはずなのに、もはやシステムなのだ。　（P63）　　

　しかし、そんな事がありうるのか？

　そのゼートゥーア大将は、当面の今後の進展について、連邦軍は必ず冬期攻勢を行う、と予想を立てます。
　1月2日の帝国参謀本部の心臓部において、断言したのでした。
　それに対向するための作戦は、「払暁」と名づけられたのです。
　あれだけ打撃を受けた連邦軍にそんな力はないはず、もっと時間がかかるのでは、と考える参謀たちを、忙しくなるぞ、と送り出したもの。彼の予測は当たったといえば当たったのです。
　しかしその時期、泥濘期の前、厳冬期であるという予測は、2月から3月を見据えたもの。早くても1月下旬。

　まさか、1月3日の時点で連邦軍の首都モスコーの最高司令部において、「黎明」という作戦が発議されます。
　この内容について、偉大なる同志書記長の容赦ない粛正を生き延びた『平凡な宿将』であるクトゥズ大将は二つのプランを示します。戦線を200km前進させる『確実に勝てるもの』と、600km前進させる『決定的に勝つために必要なもの』の二つ。
　いずれの作戦も、現存する部隊を限界まで絞り出して初めて可能であり、完遂すれば何か月も息が止まる。
　では、と偉大なる同志書記長は決を下します。東部戦線において100km幅で600km前進する「黎明」を、完全に極秘裏に、遅滞なく発動させよ、と。

　東部戦線に戻ったターニャ・フォン・デグレチャフ中佐は、政治臭漂うイルドア戦線から戻れてほっとした気分。むろんこの章（第三章）の冒頭で描かれる、軍隊における魔道師という兵科の心細い未来などは、考えてもいません。
　それよりその戦場で知ったのは、連邦軍の新鋭魔道師部隊のお話にならない弱さ。
　この謎は謎のままで、1月7日、「黎明」作戦が発動されます。

　早すぎます。作戦の規模が定まってわずか4日で、連邦軍のほぼすべての陸上戦力を投入するというこの大作戦の準備、兵站の準備・秘匿したままでの火力集中・数百万人の人員の大移動などを行えるはずはない。　──と思うけどな。

　最前線にいたサラマンダー戦闘団、つまりターニャの部隊がこれを察知したのですが、ここで彼女は重大な決断を迫られます。
　従来の戦略は、
　「敵の攻勢に当たっては、できるだけ拠点を死守し、通過する敵を拠点を守備している友軍と共にその背後を突いて遅滞戦闘を行い、後方戦線からの救援を待つ」
　と言うのが基本戦略。しかし、今回のように砲兵・航空兵力の支援の元に100km幅の全線で押しまくられたら、そうはいかない。拠点となる死守陣地を第一陣が迂回し、時をおかず第二陣が蹂躙するこの作戦であれば、死守命令に意味はなくなるのです。
　そしてそのまま600kmの突破を行ってしまえば、確かに連邦軍は立っていられないほど疲労困憊しているはずですが、目の前にはまともな守備陣地がない帝国首都があることになる。
　ミリヲタであるターニャは知っています。これはソ連の起死回生の突破戦略だと。そしてあの世界では、ヒトラーの死守命令があった事も一因ではありますが、それは成功しており、ドイツ第三帝国の崩壊を早めた戦役(キャンペイン)であると共に、陸軍国ソヴィエト連邦の戦略の真髄でした、

　この再現を防ぐ方法は、と考えたところでターニャは自分の地位を考える。
　ゼートゥーア大将の懐刀であるレルゲン大佐の名を冠して「レルゲン戦闘団」を名乗っていたこともあったけれど、レルゲン大佐もゼートゥーア大将も首都にいるいま、その名を使うわけにはいかない。
　ではどうする。
　ここでここでターニャは重大な命令違反・独断専行を行おうとするのですが、そこに至る葛藤の描写が長い長い。もはやそうするしかないんだし、失敗したら運がよくて連邦の中で赤軍兵士となり、嫌われる魔導兵で嫌われる元帝国のネームドとして短い軍生活となるはず。運が悪ければあっさり殺されてそれまで。
　じゃあ、やるしかないじゃないか。というためらいに何ページかけるんだ。(笑)　ちょっとしつこいなぁ。

　で、最後の締めくくりの言葉。

　「立場というのは、難しいな」
　「中佐殿？」
　「なんでもない。今、ただ、できることをやろう」
　さぁ、とターニャは笑う。
　「我々で、帝国を救うぞ。絶望するにはまだ早い。息がある限り、希望もある！」（P468）

　あ、おまけのラテン語、ちゃんと使ってるな。（2024/2/14）

　読書メーターの記録より　　読了：2024/2/11

管理番号：Z008-016

23 仮想戦記

出版社：KADOKAWA

書名：幼女戦記＜14＞

Dum spiro, spero ─下─　「生きている限り希望はある」

ISBN978-4-04-737595-6　C0093

価格：1200Yen

ページ数：496P

本のサイズ：130×182SC

初版発行：2023/9/29

購入：2023/11/26

画：篠月しのぶ
装丁:椿屋事務所

　帝国軍東部方面軍司令部の大パニック場面から始まります。
　その原因は、整理すると、「しばらくは動けないはずのルーシー連邦が大兵力を以てして反撃を開始した」こと。
　しかも、戦闘を開始するにあたってさまざまな欺瞞を行った上に、新任の東部方面司令官ラウドン大将を爆殺し、同時に方面軍司令官を列車砲により面制圧して次席司令官を含む司令部要員を壊滅させた、という。瞬間的に、その他の生き残った司令部要員は右往左往するばかりになります。かつてターニャが行った「斬首作戦」をパクられたものといえるか。
　その間も数百万の将兵による「黎明」作戦は続行されます。
　こうなった場合、とりあえず取れる対応は「その場で固守し友軍の反撃を待て」の一点。
　そこが、「黎明」のというか緒戦で行われた「斬首」作戦の真髄。

　最前線を守る守備拠点を一気に潰してしまえば、その数百キロ背後にいるのは潰走するしかない未編制の部隊のみ。
　そうなればゼートゥーア大将が起草した「払暁」作戦は、開始する前に帝国が壊滅してしまうのですが、この時点ではそこまでわかるものはいませんでした──ターニャ・フォン・デグレチャフ中佐以外は。
　生き残った幸運な一人、東部方面通信部で指揮を執るクレーマー大佐は、偽電雑電がとびかう中で、全く想像もつかないひとつの命令を受けます。
　レルゲン大佐名で、ゼートゥーア大将の首席参謀名で発せられる、大将専用の使い捨て暗号による通達を確認せよ、と言うもの。
　なんだこれは、と驚愕するのみ。もしも余裕があれば、司令部壊滅後に任じられる正規の後任指揮官とその司令部の確認をとらなければいけないシロモノですが、なにしろこの鉄火場。
　クレーマー大佐は直後に受診した指定の暗号による通達文を、たまたま司令部で生き残り、次の司令官が決まるまでとりあえずそこにいる参謀長ハーゼンクレファー中将に報告する以外に何もできません。
　で、受け取った中将は頭を抱える。今までと全く異なる方針をいきなり示され、今この瞬間に判断を下さなければならない。そもそもその権限がない参謀長である自分が、こんなとんでもない方針転換を是認し実行するかどうかの判断を。

　　宛：東部方面軍
　　発電者：ゼートゥーア東部査察官首席参謀
　ルーデンドルフ元帥ならびにゼートゥーア大将による統一暦1927年9月10日命令に基づく参謀本部からの指示により、東部方面軍に対して首席参謀は次のごとく伝達す。

　一つ、ゼートゥーア大将の命令に基づき、以下を通達す。

　・現状について
　連邦の発動した冬期攻勢は、縦深打通を試みる複数の梯団による波状攻撃なり。敵は我が野戦軍の撃滅を目論むと思われる。
　・対応策について
　ただちに全戦線を戦略次元で後退させ、防御線を再構築すべし。既知の防御陣地に拘泥するべからず。連絡線の保持を最優先とし、敵の攻勢限界までは防御に徹すこと。
　・命令
　一つ、東部方面に展開せりし全ての航空艦隊は全力を持って航空優勢を獲得せよ。
　一つ、封緘されていた防衛計画第四号をただちに開封、即時実行せよ。
　一つ、レルゲン戦闘団傘下より、参謀本部直属第203航空遊撃魔導大隊を抽出。同大隊を主軸とし、サラマンダー戦闘団を構成す。東部方面の『全航空魔道師』は、直ちに『サラマンダー戦闘団』を全力、かつ最優先にて支援せよ。
　一つ、死守命令を禁止す。諸部隊は、戦術的判断に基づく身体の自由を委任されねばならない。
　一つ、東部査閲官参謀はサラマンダー戦闘団の航空戦闘を完遂させしめよ。（P22-23）

　つまり、長年のあいだ前線の部隊は、敵が来たら国境で食い止めろ、できる限り頑張れ、時間を稼げ、と言われていたのです。時間を稼いでくれれば、鉄道を活用した兵站では世界一の我が帝国は、十分な反撃体制を固めて君らを援護し敵を押し戻すから、と。

　このドクトリンが通用しない、と考えたのは、別な世界での「独ソ戦」の経過の記憶があるターニャ・フォン・デグレチャフ。ドイツの攻勢ののち、それに耐えてきたソ連軍がドイツは攻勢の限界点に達したと判断し、本来やってはならない全兵力をまとめて全面で一気に攻めて敵陣に浸透し、数百キロ一気に押し渡ってしまう作戦を行い、その一か八かの戦略が成功してしまったことを知っているから。
　帝国の第進撃の背後で後続する軍の脆弱さを知っているターニャとしては、連邦が作戦通りに進行すればただでさえ危うい帝国の敗戦必至となり、そうなれば個人的には身の破滅しか考えられない。そのため彼女は、重大な命令違反・独断専行、つまり帝国の国防方針に反する命令を出して、レルゲン大佐、ゼートゥーア大将の名でそれを実行させようとした訳。

　その中で、律儀なことにターニャは帝国軍に全面撤退、というより危ないから全て投げ出して国境まで戻れ、グズグズするな！という命令を発した後、戦闘可能な全魔導部隊をかき集めて援護のための攻撃にかかります。
　しかも、前線の兵士を援護するのではなく、連邦の攻勢ラインの背後にある兵站部隊を壊滅させるという、より困難ですぐの結果は認められないが戦略的なボディーブローを叩き込むことで敵の攻勢を鈍らせる作戦を敢行したのでした。
　そのための大変な犠牲を覚悟のうえで。

　そして、後世に「恐るべきゼートゥーア」と呼ばれることになるハンス・フォン・ゼートゥーア大将の、かねてより考えられていた「払暁」反攻作戦が、じわじわと頭をもたげる。その中で策定された、とんでもない後方襲撃作戦。
　それを命ぜられたターニャとサラマンダー戦闘団の魔道師部隊としては、やるしかない。
　戦って死ぬか。戦わずして死ぬかの二択なら戦争屋(ウォーモンガー)としては選択肢は一つ。

　「なぜ私がラインの悪魔と呼ばれたか、いま一度、歴史に示してやろう」（P335）

　連日連夜、不眠不休の悪夢のあと、ようやく一段落がき、「戦場の悪魔」は「帝国の破産管財人」と面会の機会を得ます。

　「破綻は、先延ばしされたにすぎず、首の皮が一枚つながったに過ぎません」
　「この時代、たった一枚の差が決定的なのだよ、中佐」（P483）

　ターニャは心からの安堵とともに呟く。
　「息あるかぎり、希望を捨てる必要はなし、か」（P488）

　まだ、少し未来の時間が残っているようですね。でも、次巻はいつになるやら。（2024/10/25）

　読書メーターの記録より　　読了：2024/3/28　