L027 レレンバーグ・他

作家番号：L027	レレンバーグ・他	Lellenberg, Jon L.
	国籍：アメリカ合衆国	1946～

管理番号	書　　名		翻訳者	メ　　モ
L027-001	シャーロック・ホームズ　クリスマスの依頼人		日暮雅通	クリスマスに焦点を置いたホームズ・パスティーシュ

		Ver. 3.06

管理番号：L027-001

42 シャーロック・ホームズ・ノベル　

出版社：原書房

書名：シャーロック・ホームズ　クリスマスの依頼人	M・H・グリーンバーグ編集		ISBN4-562-03151-4　C0098
原題：Holmes for the Holidays（1996）					翻訳者：日暮雅通
	価格：1800Yen	ページ数：440P		本のサイズ：135×195HC
初版発行：98/12/2　第2刷：98/12/8	購入：1999/6/1	装幀：栗原裕孝カバーイラスト：ガイ・デール

　ええと、この本はホームズもののパスティーシュ・アンソロジーです。
　で、鐵太郎は著者（にあたる人）をジョン・レレンバーグ（編集）だと思い、Lの項目で登録しました。まえがきの文章もレレンバーグが書いていましたからね。でもどうやら、メインの編集者は Martin H. Greenberg氏らしいのです。いまさらなので「L027-001」のままとしますが、こんなこともあるねぇ。
　このころ（1990年代後半）は、こういうホームズもののアンソロジーが毎年出ていましたね。きっちり追っかけていなかったので、買ったのは途切れ途切れだったのは残念。まァ常に金回りがよかった訳でもないと言おう事情もありましたが。（あはは）

　で、むろんこの本は、題名どおりクリスマスに絡んだホームズものです。

　「クリスマスの依頼人」The Christmas Client　エドワード・D・ホック
　1888年のクリスマスにベーカー街を訪れたのは、チャールズ・ラトウィッジ・ドジソンという50代半ばの紳士。恐喝されていると訴えます。恐喝者はオックスフォードで教師仲間だったモリアーティ教授なのだそうな。
　ホームズはただの恐喝と思われる事件から、恐るべき陰謀を探り当てます──それにしても、ドジソンとは何者だったのか。

　「クリスマス・ツリーの冒険」The Adventure of the Chrisutmas Tree　ウィリアム・L・デアンドリア
　1889年12月23日、ジョセフ・キャンバー氏が娘ナンシーと共に現れます。森林管理をしているスコットランドのバレシャー公爵の邸宅で起きた事件について相談に来たのです。クリスマスのためにアカマツの木を切ったのですがその木が紛失し、なんとロンドンの公爵邸に現れたのだという。
　ホームズは兄マイクロフトと共に、公爵の命とロンドンの治安をおびやかす陰謀を探り当てることに。

　「過去のクリスマスの探偵」The Sleuth of Christmas Past　バーバラ・ポール
　1887年12月21日の夜、散歩から帰ってきたホームズとワトスンは、エイミー・ストッダードという18歳ほどの女性の相談を受けます。フィアンセのトマス・ウィッカムを信頼しているのだけれど、その行動がどうも怪しいと。
　そこから始まるてんやわんや。ホームズらはミス・ストッダードを救えるのか。

　「冬の醜聞」A Scandal in Winter　ギリアン・リンスコット
　1910年のスイス、スキー場に続くエーデルワイス・ホテル。わたしことジェシカ、13歳は、彼女が〝銀のステッキ〟と〝角ばった熊さん〟とあだ名を付けた二人の50代後半の初老の男に興味を持ちます。彼らは私に、一年前このホテルで起きた死亡事故、今年もここに来ている未亡人が夫を突き落としたとされている死について、尋ねます。私が、落ちていくその夫を見たただ一人の目撃者だったから。
　一年前の謎を私の言葉から解いて、アイリーン・マカヴォイ夫人の名誉を救った〝銀のステッキ〟は、私に微笑みを見せて去っていったのでした。

　「クリスマスの幽霊事件」The Adventure of the Christmas Ghosts　ビル・クライダー
　ある年の12月22日、フランクリン・スクルージという中年の男が、いささかあわててベーカー街に現れます。40年前に大伯父のエビニーザー・スクルージに訪れた幽霊が自分にも現れたので、なんとかしてくれないか、という依頼と共に。
　ホームズはスクルージの事務所を訪れ、そろそろクリスマスだというのに火の気もない部屋で何かを見つける事に。それは、あの物語と何か関係があったのかも。そう、あれは1840年頃の物語。

　「クリスマス・シーズンの出来事」The Yuletide Affair　ジョン・ステースル
　1923年12月、サセックスの家でくつろぐホームズとワトスンがふりかえる遠い昔の事件。
　ホームズが他の事件にかかっている時、ワトスンは急に呼ばれます。現場でレストレードが刺され、重傷なのだという。病院に担ぎ込まれた警部ですが、インフルエンザのさなかでワトスン以外に治療にかかれる医者がいない。ワトスンは意識のないレストレードを必死に手当てし、かろうじて意識を取り戻した時の言葉「セアーツ」で、現場で警部と絡み合っていた小悪党シャドウェルの無実を確信します。

　「犬の腹話術師」The Adventure of the Canine Ventrikloquist　ジョン・L・ブリーン
　とある年のクリスマス・イヴ、半狂乱の男がベーカー街に現れます。オリヴァー・マープルソープという文筆家で、友人から腹話術をする犬の絵を貰って以来どうも公私ともにおかしくなっているというのです。心霊術を愛好する婚約者とその友人たちのいたずらとも思えない。
　しかしクリスマスに行われた降霊会の席上、奇妙な事件が起きて．．．

　「イヴの鐘」The Watch Night Bell　アン・ペリー
　クリスマスを三日後にひかえた寒い朝、ホームズが嫌う典型的な女性ミリセント・ベイリスがベイカー街に現れます。とりとめのない話しぶりでホームズをいらいらさせたあげく、姉のアリソンが父親ベイリス大佐を殺そうとしていると言い、なんとかしてくれと訴えたのでした。
　苦手なタイプの女性の依頼に気が進まないホームズですが、事情があってその依頼を受ける事に。そこで見たものは、愚かしい人と思っても無視してはいけないという教訓だったのか。

　「笑わない男の事件」The Adventure of the Man Who Never Laughed　J・N・ウィリアムソン
　1894年12月半ばのある日ホームズは、短い間に性格がすっかり変わって自分を避けるようになった上に姿を隠してしまった弟シドニーを探して欲しいという依頼を受けます。依頼人のエレノア・チェスターフィールドのただならぬ様子が気になるワトスン。彼が笑おうとする時にたてる音という描写で、何かに気づくホームズとワトスン。
　メビウス症候群という言葉は、この本を最初に読んだ時に知ったものでした。

　「三人の幽霊」The Adventure of the Three Ghosts　ローレン・エスルマン
　ワトスンが結婚し自分の診療所を持つようになったとあるクリスマスの日、ベーカー街を訪れたワトスンは、ホームズと共に時期大蔵大臣候補と言われているチズルハースト伯爵邸にむかう事となります。
　チズルハースト伯爵とは、一代で授爵した貴族で、父親は貧しいながらも陽気な事務員だったそうです。子供のころ病弱で足なえだったのですが、吝嗇だったけれど晩年になって気前がよくなった父の雇い主によって手厚い治療を受け、銀行家として成功したのでした。その老人が借金を残して亡くなったので、伯爵は老人の会社を負債ごと買い取ったのだそうな。
　依頼は、伯爵の元を訪れた三人の幽霊のこと。いったいなにがあったのか。
　あの本のネタとしては、上のクリスマスの幽霊事件の方が上級かな。それにこの作者の、英国の貴族制度、階層などについての考え方がちょっとおかしいね。自ら経営に四苦八苦する銀行家程度が貴族、それも伯爵位を得られるなんて変。

　「十二夜の盗難」The Thief of the Twelfth Night　キャロル・ネルソン・ダグラス
　1903年1月5日、東方の三博士がベツレヘムを訪れた十二日説(トゥウェルフス・デイ)の前日のこと。ワトスンはふと、20年前に起きた事件を思いだします。オリヴァー家に招待されたホームズとワトスンは、ここで起きた宝石の盗難にかかわったのですが、ウヤムヤになったあの事件を回想します。ところで、ミス・ペネロープ・ハクスレイって結局誰だろう？

　「国境地方の冒険」The Adventure in Border Country　グウェン・モファット
　12月前半のとある日、ベーカー街を訪れたのはカンバーランドから来たというクレメント・ドウ。成功した小地主という外観の大柄な男。いささか評判の悪い隣人のマイルズ・オーブリーが姿を消したので調べて欲しいという。
　カンバーランドの田舎でホームズが見つけた秘密とはなんだったのか。
　何人かが手を組んで、全員が自分たちは忠司事をしていると信じていたとすれば、なにができるのか。

　「天使のトランペット」The Adventuer of the Angel's Trumpet　キャロライン・ホイート
　キダチチョウセンアサガオ(Angel'sTrumpet)にかかわる事件とは、クリスマス・シーズンに起きたミス・チャーミアン・カーステアーズが祖父を毒殺させた疑いで逮捕された一件のこと。二人がサセックス丘陵に居を構えていた時。
　ホームズは『いまいましいアイルランド人』と言って嫌う弁護士ケヴィン・オバニオンの依頼というか挑戦で、この難事件を引き受けることに。

　「不可能だって、ワトソン？」ホームズは繰り返した。「人間の知性をもってすれば、不可能な事なんてないさ」（P341）

　絶体絶命と思われた裁判でしたが、ホームズは一点の奇妙な点をとっかかりに逆転を目指します。天使のトランペット、そして黄金の夜明け。それはいったい何だったのか。
　そういえば、黄金の夜明け団(Order of the Golden Dawn)って、ホームズ・パスティーシュのクリミアの亡霊で始めて知ったのですが、こういう謎の暗黒組織って本当にあったんですねぇ。歴史は面白い。

　「イタリアのシャーロック・ホームズ」The Italian Sherlock Holmes　レジナルド・ヒル
　ナポリからヴェスヴィオ山の火口まで駆け回って捜査を成功させた反動で虚脱状態になったホームズを休ませるためにローマでひと息ついたホームズとワトソン。しかし有名なホームズがローマに滞在中だと知って、訪問客、依頼人が殺到する事になり、ワトソンは断るのに大わらわ。
　しかしホームズあてにブルーノ・モンテセッコ伯爵の招待状が来ると、断ってもいられません。なにしろこの伯爵さま、ホームズに勝るとも劣らない頭脳を持つと自惚れて勝手にホームズの弟子かつ同僚を自認し、何かというとホームズに事件の事について「助言」の手紙を送りつけてくるやっかいな人。しかも今回の招待は、伯爵の伯父を殺した犯人が公開処刑されるので是非見に来て欲しいというもの。
　ホームズは伯爵に招待された上流階級の人々の前で、いったいどんな推理を披瀝したのか。

　あとがきにありますように、ホームズ・パスティーシュの楽しみとは、ミステリやトリックやあっと驚くどんでん返しではなく、60編のホームズ譚──聖典──に漂うホームズ世界の〝シチュエーション〟を味わう事なのだと思っています。
　個人的な考えなのかもしれませんが、これからもそうあって欲しい。
　とはいえ、時代は変わるもの。21世紀になるとまた別な楽しみもあるのかもしれない。どうなのかな。（2021/01/28）

　読書メーターの記録より　　読了：2020/5/8