トップページへ戻る
トップへ戻る

　書籍ページに戻る
読んだ本の分類

ローダン・リストのページに戻る
PerryRhodanリスト		 前へ　宇宙英雄ローダン　520～529　先へ
巻数 書　名 作　家
520 兄弟団の声 クルト・マール
521 水宮殿の賢人 ウィリアム・フォルツ＆H・G・エーヴェルス
522 ヴァマヌ来訪 H・G・エーヴェルス＆H・G・フランシス
523 ロボット探偵シャーロック ペーター・グリーゼ＆クラーク・ダールトン
524 アトランの帰還 H・G・フランシス＆ウィリアム・フォルツ
525 ウルスフ決死隊 クルト・マール
526 黒い炎の幻影 エルンスト・ヴルチェク＆ペーター・グリーゼ
527 メンタル嵐 ペーター・グリーゼ＆H・G・エーヴェルス
528 プシオン性迷宮 H・G・エーヴェルス＆ウィリアム・フォルツ
529 難船者たち H・G・フランシス＆クルト・マール
★このページはUnicodeです。★
ページのトップへ 　　Ver. 3.02　
管理番号：R400-520 10R 宇宙英雄ペリー・ローダン 520巻 出版社：早川書房
書名：兄弟団の声 ハヤカワ文庫SF2067　ウ1-520　早川文庫7769 ISBN978-4-15-012067-2 C0197
1039 兄弟団の声 Die Stimme der Bruderschaft クルト・マール 1981/7/21 翻訳：若松宣子
1040 クランの災難 Unheil über Kran クルト・マール 1981/7/28
　 価格：640Yen ページ数：272P 本のサイズ：文庫
初版発行：2016/5/15 購入：2016/5/12 表紙イラスト：工藤 稜(くどう・りょう)
ローダン520　兄弟団の声　　1039 兄弟団の声
　兄弟団に荷担するスパイであると告白して自殺したツァペルロウ公爵の葬儀が、他の二公爵の列席のもとで麗々しく執り行われることとなります。この葬列の中で陰謀が進行しています。
　陰謀を企むのは兄弟団なのか。その目的とは。
　「賢人を排除し、クラン人を解放する．．． クラン人だけでなく、この銀河にすむ抑圧された星間種族も」　　（P14）
　本当にそうなのか。

　惑星クランに接近するスプーディ船＜ソル＞は、セネカに支配されたまま。支配を取り戻そうとするトマソン船長の試みは成功しません。スプーディを四匹頭に入れたベッチデ人の二人、スカウティとブラザー・ファドンも、今のところ手をこまねいているばかり。
　＜ソル＞の船倉で発見された異生物、かつてドウク・ラングル、テルムの女帝の研究者と呼ばれた伝説の山の老人は、スプーディが貯蔵された積荷倉庫で何をするのか。

　三公爵の一人という大事な葬儀の列は、二人の公爵、グーとカルヌウムの列席のもと、粛々と進んでいきます。危険を察知したクラン人の官僚ニッカムは、最後の瞬間に何を見たのか。

　　1040 クランの災難
　葬列の中で爆発した衝撃は、公爵グーを直撃。即死はまぬがれたものの重傷を負います。生命に別状はないことが判明するまで、関係者は血相変えることに。この犯行の責任が公爵カルヌウムにあるのか。
　この騒動のさなかに上空に現れた巨大なスプーディ船＜ソル＞。
　直径二千五百メートルの球体に直径二千メートル、長さ二千メートルのシリンダーが接続された巨大な宇宙船が頭上にあれば、その景色を想像するのは難しいかもしれませんが、とんでもない光景だし気象的にもとんでもないと思うのですが、どうなんでしょうね。
　まァ前にこの＜ソル＞が直立して全長七千メートルの巨体を地上に建てた描写を読んだ時、地上の天候は凄まじい激変を起こしたにちがいないと思ったものですが、今回はどうなったんだろう。
　むろんマルペ世界ですから、そんなことは誰も話題にならないのですが。

　公爵カルヌウムは、今まで隠していた旗幟を鮮明にします。兄弟団を利用して、クランドホルの政体を改革するために賢者を打破すると宣言するのです。これにより、重傷を負った公爵グーを真っ向から敵に回すことに。では、第一艦隊ネストで賢者が三公爵の一人が裏切り者だと糾弾したのは、カルヌウムのことだったのか。
　公爵グーの側近たちの活躍がなかなか格好いいのですが、その中でも愛妾アルツィリアがいいですねぇ。公爵カルヌウムの愛妾ウェイクサもなかなかなんですが、こういうつかの間のキャラが光るのはマルペならではか。

　このエピソードの終幕、二公爵の直接対決となります。その場で告発されたのは、〝兄弟団の声〟と呼ばれた人物。今まで声しか出さず、背後で命令を下すだけだった謎の人物の正体とはなんであったのか。声紋分析というテクノロジーの裏をかくトリックとはなにか。
　中だるみっぽいエピソードが続いたあとで、ストーリーの集束を見据えてのことなのか面白くなってきた。


　あとがきにかえて　は、若松宣子さん。
　リドリー・スコット監督、マット・デイモン主演の映画 『オデッセイ』 の話。なかなか面白そうな展開ですね。
　ベストセラーに反抗したがる性格(笑)のせいで買わなかったハヤカワSFの 「火星の人（上・下）」 を、読んで見たくなりました。あは。
　映画は、友人に勧められたのに結局見ていないんですがね。　　（2016/6/9）
ページのトップへ 　　Ver. 3.02　
管理番号：R400-521 10R 宇宙英雄ペリー・ローダン 521巻 出版社：早川書房
書名：水宮殿の賢人 ハヤカワ文庫SF2068　ウ1-521　早川文庫7770 ISBN978-4-15-012068-9　 C0197
1041 水宮殿の賢人 Das Orakel ウィリアム・フォルツ 1981/8/4 翻訳：渡辺広佐
1042 M‐19からの危機 Gefahr aus M19 H・G・エーヴェルス 1981/8/11
　 価格：640Yen ページ数：288P 本のサイズ：文庫
初版発行：2016/5/25 購入：2016/5/26 表紙イラスト：工藤 稜(くどう・りょう)
ローダン521　水宮殿の賢人　　1041 水宮殿の賢人
　惑星クランの首都にあるダロス広場にそびえ立つ水宮殿(みずきゅうでん)()の上空の巨大なスプーディ船は、賢人の支配に反抗する人々の騒乱を数発の警告砲撃で静めたのち、完全に沈黙したまま。
　しかし、兄弟団の勢力は予想を上回るもの。単に複数のスプーディを頭に入れて勢力拡大を目指す秘密結社だったと思ったら、巨大な陰謀を企む反乱軍であったことが判明。
　安直すぎないかい、というツッコミをしたくなります。彼らが大型の宇宙戦闘艦を300隻ダロスの上空に集結させ、その砲口をスプーディ船にむけるとなると、こりゃ莫大な資金を持ち、統制の取れた超国家規模の軍隊そのものではないか。
　素晴らしきかな、マルペに登場する反政府組織の実力。閑話休題。

　お話はこの情勢の中で、大量のスプーディを接続されて発狂しかけているサーフォ・マラガンが、二人の公爵、グーとカルヌウムと共に賢人（Das Orakel）のいる水宮殿に向かう様子から。
　ここで二人の公爵は、クランドホル公国の存在理由を賢人から聞かされます。超銀河規模の〝それ〟とセト＝アポフィスのせめぎ合いの中で、クランドホル公国が存在するヴェイクオスト（Vayquost）銀河はその緩衝地帯にあるのだそうな。そしてこの二大勢力の想像を絶する争いの中で鍵となる場所の一つにあったため、〝それ〟はセト＝アポフィスから時空連続体を守るため、ここに橋頭堡を築く事としたというのです。
力の集合体の配置図
　「宇宙の光にかけて」 と、グーが叫ぶ。「それがクランドホル公国の拡張の理由ですね。我々がセト＝アポフィスの艦隊を押しとどめることになる。クランドホル公国は、ふたつの力の集合体のあいだの緩衝装置以外の何ものでもない」
　「そういうことだ」 賢人があっさりいう。
　カルヌウムの顔に驚愕があらわれ、
　「しかし、それではわれわれの拡張政策は自殺行為に等しい！　すべての諸種族を押しとどめることなどできないのだから」　　（P58）
　自分たちが、種族を守り導き反映させるためにいるのではなく、単なる巨大な存在の駒にすぎなかったと知った公爵たちは憮然とします。この上、無条件で従えといっても説得力がない。
　さらに、賢人は上図のような概念的な配置図を示し、この中の中立地帯に、ヴェイクオスト銀河をはじめとして、エランテルノーレ銀河や多数の小銀河、そしてかつての超越知性体ゴウルデルが進化した物質の泉がある、と説明します。
　「これからいう名前を耳にしても、きみたちにはほとんどなんのイメージもわかないだろう」 と、賢人が話をつづける。「だが、これらの銀河は多くの偉大な文明の故郷なのだ。簡略化していえば、〝それ〟の力の集合体は直径二百五十万光年の球空間だといえる。もちろん、その境界は正確に決められるものではなく、流動的で、他の宇宙とくらべて相対的にちいさなセクターだ。〝それ〟の力の集合体には、次の小銀河が属している．．．． 大マゼラン星雲、小マゼラン星雲、りゅう座、こぐま座、ちょうこくしつ座、ろ座、しし座ⅠおよびⅡ、NGC6822、NGC147、IC1613、NGC205、M-32、アンドロメダ座の大渦状銀河、M-33、そして銀河系銀河。〝それ〟自体はエデンⅡと呼ばれる惑星におり、力の集合体の精神的中心を形成している。
　セト＝アポフィスの統治権には五つの大銀河が属する。ヘドロポオンとも呼ばれる巨大な渦状銀河M-81、固有名がセトドロポオンあるいはセトデボであるレンズ状銀河M-82、さらに、M-81の周囲の銀河群にある星団ウェトロモオン、パルルツェレエス、ブレクティノオン」
　それがわれわれにどう役だつのかと、カルヌウムは絶望的に自答する。
　「これらの名前やタイプは、座標とともにヘスケントのコンピュータ施設に送っておいた」 と、賢人が告げる。「わたしが故障したときのためだ」　　（P60-61）
　本当に、それが今内部の騒乱をどう収拾しようかと頭を悩ませている二公爵にとってなんの意味があるのか。

　そして明かされる、賢人の正体。圧倒的な、数百万のスプーディに接続された一人の肉体。アトラン。

　　1042 M‐19からの危機
　こっちはようやくローダンのターン。新銀河暦425年1月16日。
　プロローグめいた話の後、スリマヴォの旅立ちシーンから始まります。鳴り物入りで登場したはずのこの少女、今回はそのまま舞台の外へ。代わりに舞台中央に現れたのは、ローダンその人。植物や動物がいきなり知性をもったらしいというニュースの続発に振りまわされています。さらに、とある芸術家がいきなり天才的な仕事をしたり。いったい何が起きたのか。
　しかし問題はそれだけではない。L F T(自由テラナー連盟)()の首席テラナーであるジュリアン・ティフラーその人が、なにやらおかしい動きをしています。さらに、レジナルド・ブルも。
　セト＝アポフィスの陰謀なのか。

　さらに過去の歴史が語られます。新銀河暦５年、すなわち420年前に起きた事件によって起きたエルトルス人とシガ星人との深刻な対立、遺伝子戦争の勃発を、かつてジュリアン・ティフラーはどのように解決したのか。
　席上、こんな言葉が出ます。
　「ティフが事実から導いた結論は天才的だと思わないかい、ペリー？」 無邪気な調子でグッキーがたずねる。
　そのとき、ローダンはなにか思いついたように、
　「天才．．．．？」 と、ゆっくりいう。「きみは、ティフがあの芸術家と同じだと．．．．」
　「まさにそれ」 と、イルト。「それに、猿たちもね。」　　　（P273）

　さらに、球状星団M-19の方角から飛来する直径70メートルほどの迷子アステロイドの謎。宇宙になにが起きています。
　（わずか直径70メートルの飛翔物体など、太陽系中だけでも数十億、数百億あると思うんですがまァいいかｗ）　


　あとがきにかえて　は、渡辺広佐さん。
　二月下旬に台湾旅行をした話。2.26事件をテーマにした映画 『非情都市』 のこと。アニメ映画 『千と千尋の神隠し』 の油屋のモデルの一つといわれる台北近郊にある観光地のこと。台湾に行った目的である天燈上げのこと。観測史上初めて台北に雪が降ったときのこと。『NHK俳句』 に入選したこと。
　　　　ジオラマの昭和の街や春ともし
　ほう。　　（2016/6/19）
ページのトップへ 　　Ver. 3.02　
管理番号：R400-522 10R 宇宙英雄ペリー・ローダン 522巻 出版社：早川書房
書名：ヴァマヌ来訪 ハヤカワ文庫SF2072　ウ1-522　早川文庫7787 ISBN978-4-15-012072-6　 C0197
1043 ヴァマヌ来訪 Vamanu H・G・エーヴェルス 1981/8/18 翻訳：シドラ房子
1044 黒の力 Die schwarze Macht H・G・フランシス 1981/8/25
　 価格：640Yen ページ数：288P 本のサイズ：文庫
初版発行：2016/6/15 購入：2016/6/10 表紙イラスト：工藤 稜(くどう・りょう)
ローダン522　ヴァマヌ来訪　　1043 ヴァマヌ来訪
　アラスカ・シェーデレーアがゼルヴォ本社の地下施設で消えた、エネルギー的に隔離された空間に閉じ込められた、という。救出のため、グッキーの能力を使って急行するローダンとソルゴル人のカルフェシュ。超越知性体セト＝アポフィスの命令でテラの人類や動植物を操作し、宇宙船＜ブルート24＞から細胞プラズマを盗んだ者にちがいない、ということは、誰にもわかること。
　発見されたアラスカは、驚くべきことを言います。背丈は3メートルくらい、としか相手の外見はわからなかったその相手は、彼のマスクを剥いでカピン断片におおわれたその素顔を見ても何ともなかったらしい。謎は深まるばかり。
ヴァマヌ
　やがて発見されたこの生物は、ヒョウ、イセエビ、カメレオン、カマキリを混ぜ合わせたような、奇妙な生物。自分を透明化する能力を持ち、知性が高い。はたして敵か、味方か。
　敵とは思えないと考えたローダンの判断で、ようやく会話が成立します。
　「たしかにLRT市民を数人誘拐し、データを失敬した。だが、それは、わたしのサムサルに侵入してヴィールスを操作した者が、どの組織あるいは人物の依頼をうけたのか、知らなければならないからだ」　　（P52）
　ヴァマヌ、と名乗った相手は、自分は敵ではないといいます。ヴィールス・インペリウムの一部を再構成することを目的として行動しているらしい。
　レジナルド・ブルが、ここはキウープが担当しているところではないかと詰問すると、コスモクラートからこのセクターの任務を受けたのは、そもそも彼ヴァマヌであり、キウープは代行者にすぎないという。
　ヴァマヌの目的はなんなのか。

　　1044 黒の力
　ハルト船が＜バジス＞の格納庫に収納されると、ブルーク・トーセンはセト＝アポフィスの支配から抜け出せたと確信します。それがいつまでのことなのかはわからないが、いまこそ脱出してローダンにこの危機を伝えなくてはならない。しかしそうするためには、無敵のハルト人イホ・トロトがセト＝アポフィスに支配されていることから解放しなければならない。
　＜バジス＞の船長ウェイロン・ジャヴィアは、イホ・トロトが自分の意志に反してセト＝アポフィスの従者となり、〝デポ〟と呼ばれる目的地に行くよう命令を受けているという報告を受けます。これは、どうやら古代テラの科学者に発見された、テラから70億光年（ママ）離れたツインクエーサー付近にあるらしい。なんとかしてそれを止めなければ。
　一時は正気を取り戻したと思われたイホ＝トロトですが、しかし謎の 「手袋」 が彼の手にはまると、まったく抵抗もできずセト＝アポフィスの意志に縛られてしまうのでした。＜バジス＞のハミラー・チューブを支配されれば、船内はすべてセト＝アポフィスに乗っ取られてしまう。絶体絶命の危機の中で、悪童オリーこと船長の息子オリヴァー・ジャヴィアは何をしたのか。
　「手袋」 とは、いったい何なのか。

　観測は不可能であったと思われた、重力レンズについての理論が実証されたのは1979年3月のことだったとか。このときの対象は、QSO B0957+561と呼ばれたツインクエーサーでした。このエピソードのP153に登場した0957+561Aと0957+561Bという名のツインクエーサーは、まさにこれ。なるほど、ペリー・ローダンはリアルタイムの科学発見も拾い集めているんだねぇ。


　あとがきにかえて　は、シドラ房子さん。
　オーディオブック、本を録音して電子媒体に載せたものの大ファンなのだとか。家事や散歩しながら聴けることで、事件の節約になるからなのだそうな。ローダンのオーディオブックもあるそうですが、あまりに膨大なので全巻揃えるのは断念したらしい。
　あと、スイスに今居住しているそうですが、キリスト教徒の割合が、新教旧教にかかわらず大幅に減っているという統計に驚いていること。ほう。　（2016/8/16）
ページのトップへ 　　Ver. 3.02　
管理番号：R400-523 10R 宇宙英雄ペリー・ローダン 523巻 出版社：早川書房
書名：ロボット探偵シャーロック ハヤカワ文庫SF2073　ウ1-523　早川文庫7788 ISBN978-4-15-012073-3　 C0197
1045 ロボット探偵シャーロック ln den Höhlen von Lokvorth ペーター・グリーゼ 1981/9/1 翻訳：嶋田洋一
1046 射程内のテラ Terra im Schußfeld クラーク・ダールトン 1981/9/8
　 価格：640Yen ページ数：272P 本のサイズ：文庫
初版発行：2016/6/25 購入：2016/6/23 表紙イラスト：工藤 稜(くどう・りょう)
ローダン523　ロボット探偵シャーロック　　1045 ロボット探偵シャーロック
　原題は 「ロクヴォルトの洞窟にて」 とでも訳すべきものなのですが、シャーロックと名づけられたロボットが探偵として活躍する場面があると言うことでこの邦題となったのだそうな。安直だけど、こんな遊びもあっていいのかな。
　とはいえ、メインになるのは表紙絵に描かれた謎の少女、スリマヴォ。惑星ロクヴォルトに駐留する科学実験隊の面々は、彼女を魔女と呼んで気味悪がっています。
　そのスフィンクスと呼ばれた魔女、その目を見ると黒い炎を思い浮かべてしまう少女と共にいるのは、もと宙航士のジェイコブ・エルマーとマット・ウィリーのパーナツェル。彼らの部屋がいつの間にかからになっていることが発見されたのですが、三人がいつ、どこに去ったのかは誰もわからない。
　この三人が、スリマヴォの先導でロクヴォルトのジャングルを抜けて、再構成されたヴィールス・インペリウムの断片を発見することになるとは。そして、少女スリマヴォつかの間の退場になるとは。

　さて、で結局ロボット探偵シャーロックは、無事に謎を解いたのかどうなのか。(笑)

　　1046 射程内のテラ
　ロクヴォルトで状況を把握しようとしていたローダンを地球に呼び戻したのは、地球近傍のヴェガ星系に第六の時間転轍機が現れたというニュースでした。他の五つの時間転轍機によって、五つの商館が立ちのく羽目になっています。ヴェガ星系でそれが起きたら、テラにとっては大打撃。
　まだ完成していないらしいと言う報告を聞き、ローダンはこれを破壊する作戦を立てるよう指示を出します。しかし、単純に破壊すればいいと言うものではない。宇宙の彼方にいつの間にか別な転轍機が建造されては、対策の取りようがなくなってしまう。
　「多くの戦術家がいうように、攻撃は必ずしも最上の策とはかぎらない。時間転轍機とその建造者のことを、もっとよく知ることが重要だ。そのためには相手をよく観察し、まだ作動していない転轍機を接収する必要がある。異人から話を聞くことも、できるかもしれない」　　（P148）
　というわけで、過去のトプシダーとの戦闘でデブリが散乱するヴェガ宙域の中を、適当な破片を偽装して潜入しようという作戦が立てられます。その作戦には三人程度のメンバーが必要。真っ先にローダンが自薦しますが、ワリンジャーとラス・ツバイに真っ向から蹴られます。そりゃそうだ、ハンザ同盟のかなめであるローダンを失ったら、人類社会は瞬時に崩壊してしまう。珍しく良識的な判断。
　結局参加したのは、テレポーターのラス・ツバイ、テレパスのフェルマー・ロイド、そしてグッキー。（むろん、ダールトンの回ですからｗ） 彼らは特殊な爆弾を手に、決死作戦に向かいます。
　転轍機の中で発見したのは、のちにグッキーによって〝サウパン人（Sawpanen）〟と名づけられた異星人。陰鬱な思考でグッキーの気を沈ませる奇妙な連中。大きさは1.5～3メートルほどで、セラミックの鎧をまとっています。その鎧の種類でヒエラルキーが決まっているようです。
　さらに転轍機の中で、グッキーらは驚くべき現象に巻き込まれます。彼らの地球とは違う、別な世界の地球。
　「たぶん時間転轍機は、物質を一気に吸収するんじゃなく、すこしずつためこむんだろう。あとでまた、ここに直径5キロメートルのクレーターができるはずだ。爆弾は充分に深く埋めておかないと。二度目下三度目の採取で、転轍機に運ばれるように。それでこっちには時間ができる」　　（P206）

　はたして彼らの任務は成功するのか。サウパン人とコンタクトは可能なのか。彼らはいったい何者なのか。


　あとがきにかえて　は、嶋田洋一さん。
　前半のエピソードの邦題の説明。嶋田さん自身、ホームズが好きなのだそうな。
　中学時代にホームズ好きだった話から、ミステリ作家を読みふけっていたこと、SFを読んでいた話、その後の読書歴。
　なるほど、いろいろな本好きがいるんだな。　　（2016/8/20）
ページのトップへ 　　Ver. 3.02　
管理番号：R400-524 10R 宇宙英雄ペリー・ローダン 524巻 出版社：早川書房
書名：アトランの帰還 ハヤカワ文庫SF2078　ウ1-524　早川文庫7806 ISBN978-4-15-012078-8　 C0197
1047 超知性体の奴隷たち Sklaven der Superintelligenz H・G・フランシス 1981/9/15 翻訳：嶋田洋一
1048 アトランの帰還 Atlans Rückkehr ウィリアム・フォルツ 1981/9/22
　 価格：640Yen ページ数：272P 本のサイズ：文庫
初版発行：2016/7/15 購入：2016/7/8 表紙イラスト：工藤 稜(くどう・りょう)
ローダン524　アトランの帰還　　1047 超知性体の奴隷たち
　惑星ジャルヴィス＝ジャルヴのジャルヴォン商館の輸入管理官であったブルーク・トーセンは、いきなり優しくなったハルト人イホ・トロトの声で、今のトロトがセト＝アポフィスの支配から抜けていると確信します。先のことはわからないものの、ようやくまともな食事にありつけたことにとりあえず満足。
　二人で相談し、とりあえず現状をローダンに報告しようと通信機の前に行きます。しかし通信しようとした瞬間、セト＝アポフィスがトロトを支配してしまう。トーセンをその剛腕ではじき飛ばし、航行制御盤の前に立つ。
　〝デポ〟に行くんだな、と苦痛にあえぎながらトーセンは考えます。でも、そこに引き寄せられているという自覚はあるものの、〝デポ〟が何なのかはわかっていません。しかし、なんとかしてトロトを止めなくレバならない。殺してでも。　──しかし、この無敵の超人を殺せるのか。

　そこから四光年離れたロストック・バザールでは、時間転轍機から捕虜として連れてきたサウパン人のタッセルビルとコミュニケーションを取ろうと悪戦苦闘するミュータントと科学者たち。しかしタッセルビルが話をしようとしないので、トランスレーターもお手上げ。どうにもならなくなった彼らは、タッセルビルの鎧を開くことを考えます。
　しかし、その鎧を開いたとたん、その内部は空になり、中にいたはずのなにものかは消えてしまいます。コンピュータに忍びこんだのではないか、とフェルマー・ロイド。そんなことがありえるのか。
　やがて発見されたのは、宙を飛ぶ黒い手袋。これはいったい何なのか。

　セト＝アポフィスの支配から逃れようとするイホ・トロトとブルーク・トーセンは、謎の黒い手袋の支配から抜け出すことができるのか。

　　1048 アトランの帰還
　アトランの回想から。かつて、新たにハイ・シデリトとなったブレッククラウン・ヘイズと別れた場面から始まります。このあたりの展開は、ローダン本編ではなくアトランシリーズの533から621にヘイズの活躍が記されているそうですが、邦訳されることはないでしょうからこの詳細は永遠にわからないでしょうね。
　3587年、物質の彼岸に消えたアトランは、コスモクラートによって目覚めさせられ、超越知性体セト＝アポフィスと〝それ〟の力の集合体のあいだに〝和平空間〟をつくってそこに強力な星間帝国を建設する任務を与えられたのでした。その後3791年3月4日、バーロ人に発見されて＜ソル＞に連れて行かれます。当時＜ソル＞は、ハイ・シデリトのチャート・デッコンが〝ソル共同体〟という組織を使って全乗員を奴隷化していたのですが、その支配をやっと脱し、テルコニットの歯を持つヘイズがハイ・シデリトに就任したのでした。
　それから200年のあいだに起きたさまざまな事件を経て、アトランは＜ソル＞を離れ、無数のスプーディに接続されて〝クランドホルの賢人〟として200年間クランドホル公国を導いていたのでした。

　それが今、兄弟団といういつの間にか強大化した武装集団による政府転覆の危機の中で甦ったアトラン。
　この先のクランドホル公国の施政に関して、三人の公爵による統治は継続すべきだが、賢人の地位は公爵グーに譲る宣言をします。さらにその助言者として、複数のスプーディを装着したサーフォ・マラガンと。
　マラガンは、自分から志願してその地位に就くといいます。それは、数千のスプーディを自分の頭脳の延長として使っていたアトランの後継者となることを意味する。
　彼に好意をいだいていたスカウティと、一緒に惑星キルクールから旅をしてきたブレザー・ファドンはショックを受けますが、やがて運命を受け容れることに。クランドホル公国で成すべきことは終わらせたらスプーディ船すなわち＜ソル＞でこの星域を離れて故郷テラに向かうと宣言したアトランに、マラガンと共に残ると宣言します。
　わたしは二百年にわたり、この世界でひとつの役割をはたした。自分にとっては重要な役割を。
　「あなたはとても思慮深い」 コヌクがいった。
　「年の功だな！」 なにしろ、一万二千歳なのだ！
　その長い時間のことを思うと、身がすくむようだ。
　こんな人生に、どのような意味があるのか。
　この宇宙のあらゆる微粒子がたがいに関係しあっているというのがほんとうなら、宇宙のリズムを感じることも可能だろう…たとえ感知できないほど一瞬のことであろうとも。
　だが、生命体がそんな幸福を享受するチャンスはあまりにもちいさい。これまでの生涯にそんな瞬間などなかったという事実が、そのことを証明していた。
　たとえ一万二千をかけても、不可能だろう！　　（P264-265)
　という哲学者めいたアトランの独白で終わりますが、実は惑星クランでのアトランの物語はまだ終わっていません。


　あとがきにかえて　は、つづけて嶋田洋一さん。
　5月23日は奥様の七回忌だったとか。
　それにまつわるいくつかのエピソードと、それでも日常は続いていく　という言葉。　　（2016/8/21）
ページのトップへ 　　Ver. 3.02　
管理番号：R400-525 10R 宇宙英雄ペリー・ローダン 525巻 出版社：早川書房
書名：ウルスフ決死隊 ハヤカワ文庫SF2079　ウ1-525　早川文庫7807 ISBN978-4-15-012079-5　 C0197
1049 クランでのラスト・ミッション Geheimagent für Kran クルト・マール 1981/9/29 翻訳：星谷馨
1050 ウルスフ決死隊 Die Roboter von Ursuf クルト・マール 1981/10/6
　 価格：640Yen ページ数：272P 本のサイズ：文庫
初版発行：2016/7/25 購入：2016/7/23 表紙イラスト：工藤 稜(くどう・りょう)
ローダン525　ウルスフ決死隊　　1049 クランでのラスト・ミッション
　〝壊し屋〟というクラン人がいるという。兄弟団の大物らしい。その名を突き止めたオルバンといううらぶれた貧しい男は、実はアトランその人の潜入用の仮装。
　これを知った公爵カルヌウムは、そこまでアトランにして貰うことはできない、と感じます。
　公爵は気弱な笑みを浮かべ、
　「〝われわれの〟問題なのに、あなたが火中の栗をひろうのですな」
　「その問題だが、わたしにも責任の一端がある」 と、アルコン人は応じた。「兄弟団の撃攘はもともと、正体もしれぬ未知勢力にクラン人種族が唯々諾々としたがうべきではない、という思いから生じたものだ。かれらは賢人の追放を要求した。この要求と、当時知られていたことの背後関係を並べてみれば、兄弟団の主張も論理的で正当に思われる」　　（P20）
　アトランは、クランドホル公国を去るにあたり、懸案となっている兄弟団の問題を解決しようとします。
　これが、アトランのクランでのラスト・ミッション。

　クランドホル星系の居住惑星は四つ。内惑星ウルスフと、外惑星アパルド、レヴォル、ドヴァスク。外惑星には巨大な工廠があり、人口も多いのですが、ウルスフは違う。そこにあるのは、有毒物質を原料とする製造設備、及び大規模な廃棄物処理施設程度のもの。居住する人口も少ないこの惑星は、他の惑星のゴミ処理を行う程度のものでした。
　アパルドとレヴォルで暴動を起こした兄弟団は、そこに注目を集めたのち不意をついてウルスフを占拠したのでした。
　そこに居住するわずかな住民を楯に、公国政府に要求を突きつける。我らの声を種族の代弁者として認識し、公国の統治権を兄弟団に与え、賢人制度を排除せよと。
　そんな事をさせるわけにはいかない。

　まずは、〝壊し屋〟の正体を探ったアトランは、そこから兄弟団の首領の名を得ます。〝汚染された男・デリル〟だと。

　　1050 ウルスフ決死隊
　ルゴシアード勝者の中からアトランが選んだ三人の忠臣、他者の感情を読み取ることができるプロドハイマー＝フェンケンのニヴリディド、ヒュプノ能力を持つアイ人のチャクタル、シュプール探知能力が高い　クシルドシュクのパンチュを連れて、アトランはウルスフに潜入します。目的は、兄弟団に由来する危機を取り除くこと。必ずしも兄弟団を殲滅することではない。

　兄弟団の首領デリルは、ひと目見て嫌悪感を催すような異相。
　身長三メートル、驚くほど不健康に痩せこけ、左の眼球には虹彩も同行もなく、全体が白く濁っている。事故にあったのだ。口の左はしにひどい傷跡がのこり、唇が失われていた。そのせいで恐ろしげな黄色い牙がむき出しになり、悪魔が笑ったような様相を呈している。たてがみはくすんだグレイの剛毛で、毛並みも乱れている。そうした肉体的欠陥から目をそらせようとするかのごとく、けばけばしい極彩色の衣装を身につけていた。
　かれこそ兄弟団の首領デリル、またの名を〝汚染された男〟という。これほど醜い見かけになったのは、高濃度の有毒廃棄物に直接、接触したことが原因だ。だが、傷を宇宙医学手術で修復するのは拒んでいる。自分と対峙した者がこの姿におののくのを見るたび、意地悪い喜びを感じるから。〝汚染された男〟という別名にも誇りを感じていた。　　（P154）
　三人の忠臣をつれたアトラン、久しぶりの最前線での決死行です。はたしてその成果はいかに。


　あとがきにかえて　は、星谷馨さん。
　アトランの旅立ちを見送ったのも星谷さんだったのだそうな。それから30巻以上の時間を経て、ようやく復帰です。
　クラン人の〝壊し屋　Rammbock〟の訳語ですが、星谷さんは「雄羊」としたかったのだそうです。しかしこの単語には「破城鎚」という意味があり、編集者のKさんはそちらにすべきと指摘していたらしい。結果としてKさんの意見を継いだ言葉になったのはなぜか。

　もうひとつ、喜ばしいニュース。ローダン・シリーズの500巻出版達成が、第47回星雲賞の自由部門を受賞したとのこと。
　推薦理由が、「いつまでたっても候補にあげられないから」 というのがふるっていますな。(笑)

　それと、ローダン・シリーズの仮の邦題、25巻分。ドイツ版にして1051巻から1100巻まで。
　ここまでは、ハヤカワはやる気でいるんだな、きっと。(笑)　　　（2016/8/22）
ページのトップへ 　　Ver. 3.01　
管理番号：R400-526 10R 宇宙英雄ペリー・ローダン 526巻 出版社：早川書房
書名：黒い炎の幻影 ハヤカワ文庫SF2083　ウ1-526　早川文庫7821 ISBN978-4-15-012083-2　 C0197
1051 黒い炎の幻影 Die schwarze Flamme エルンスト・ヴルチェク 1981/10/13 翻訳：林啓子
1052 キルクールのフィナーレ Finale auf Chircool ペーター・グリーゼ 1981/10/20
　 価格：640Yen ページ数：288P 本のサイズ：文庫
初版発行：2016/8/15 購入：2016/8/6 表紙イラスト：工藤 稜(くどう・りょう)
ローダン526　黒い炎の幻影　　1051 黒い炎の幻影
　クランドホル星系をはなれ、ヴェイクオスト銀河の外に出た＜ソル＞から。テラ暦4012年2月10日。
　むろんアトランも＜ソル＞も、このテラ暦はもはや使われていない事を知りません。
　ローダンの元へ帰還するにあたり、スプーディを手土産にと考えたアトラン、前回スプーディを採取したヴァルンハーゲル・ギンスト宙域に到達しました。しかし、そこにあるべきスプーディの雲がない。
　セネカの誤作動か、と考えたものもいました。＜ソル＞を管制する船載ポジトロニクスであるセネカの不調は、アトランが＜ソル＞に乗りこんだ220年前から知られていたもの。しかしこの座標に関する限り、セネカの航法は間違っていませんでした。
　この星域で、奇妙な可動ステーションが探知されました。＜ソル＞の接近に伴い、逃走しようとする。アトランはこれを〝スプーディの燃えがら〟と名づけます。
　この奇妙な建造物が、クラン人たちが乗り組み、〝黒い炎〟という謎の力に支配されたヴァルギ要塞であることは、この時点では分かりません。
　しかし、ここで発見されたベッチデ人のような姿の女性、ゲシールは何者なのか。アトランまでもが魅了された魔性の姿には、何か意味があるのか。

　＜ソル＞に乗船している、宇宙空間で生存できるよう進化したバーロ人が気力を失い、死にかけているという事態が＜ソル＞の乗員を悩ましています。これに気づいた、かつての賢人の従者の息子メルボーンがこの物語でちょっとヒーローになることに。

　　1052 キルクールのフィナーレ
　惑星キルクールが舞台。かつての猫男プジョ・ブレイスコルの末裔ジェルグが再び登場します。
　ベッチデ人の船長クロード・セント・ヴェインが〝キルクールの公爵〟を名乗り、クラン人のロボット基地の戦力を利用して独裁制を敷こうとします。このへん、いかにも笑止な展開なのですが、よくある話。
　で、アトランと＜ソル＞は、この世界に秩序をもたらす事ができるのか。
　残されたベッチデ人たちは、何を望んだのか。

　惑星キルクール編のフィナーレでした。なかなかいいぞ。


　あとがきにかえて　は、林啓子さん。
　『音楽家のためのトータル・トレーニング』 というものを一年半前に受講した話。もともとは宇宙飛行士の自己コントロール訓練のために旧ソ連で生まれたこの技術がさまざまなものに応用され、音楽家にも注目されるようになったということです。舞台度胸をつける意味もあるらしい。なるほど、こういうものもあるんですね。　　（2016/9/7）
ページのトップへ 　　Ver. 3.01　
管理番号：R400-527 10R 宇宙英雄ペリー・ローダン 527巻 出版社：早川書房
書名：メンタル嵐 ハヤカワ文庫SF2084　ウ1-527　早川文庫7822 ISBN978-4-15-012084-9　 C0197
1053 ガラス人間の変身 Metamorphose der Gläsernen ペーター・グリーゼ 1981/10/27 翻訳：小津 薫
1054 メンタル嵐 Der mentale Sturm H・G・エーヴェルス 1981/11/3
　 価格：640Yen ページ数：288P 本のサイズ：文庫
初版発行：2016/8/25 購入：2016/8/25 表紙イラスト：工藤 稜(くどう・りょう)
ローダン527　「メンタル嵐」　　1053 ガラス人間の変身
　ライター・ハスキーという＜ソル＞の乗組員の話から始まります。かつての賢人の従者。
　この男は、怠惰で卑怯者。船内でいかに怠けるかのために精力的に取り組み、ほとんどを成功させているという猛者。その妻メソナがまた見事な賢妻で、ライターを罵る告発者に対してにっこりといかに夫が熱意と就労意欲がある立派な人物であるかを説いて疑念を晴らす女性なのだそうな。この夫婦、自己弁護に関しては天才的。
　さてそのライターにバーロ人を宇宙空間に出す任務が命ぜられたのが、4012年3月9日のこと。
　この年は、NGZ（新銀河歴）でいうと425年にあたりますが、むろんはるかな旅をしている＜ソル＞では、新銀河暦など使っていません。
　この問題男を重要な任務に就けたのは、ハイ・シデリトであるタンワルツェンの意を汲んだ管理人カロ・ファルダステン。なんとかこいつをまともな人間にしてやろうとの考えですが、はてどうなるのか。

　バーロ人についての説明が入ります。
　3586年、つまり425年前のクリスマスの日、自然の突然変異によって、肥厚したガラス様の皮膚をもつ最初の赤ん坊が＜ソル＞船内に生まれた。〝宇宙ベビー〟と名づけられたコラン・バーロは、この特殊な皮膚によって、技術的な補助手段の助けを借りずに、何時間も真空の宇宙空間にとどまることができた。コランはこの不思議な人類の傍系に自分の名をあたえ、その後、かれらはバーロ人、ガラス人間、あるいは宇宙生まれと呼ばれるようになった。だが、宇宙生まれという呼び方は、実際には誤解を招きやすい。より正確には〝宇宙のために生まれた者〟と呼ばれるべきだった。現実に宇宙空間〝内〟で生まれたバーロ人はひとりもいないからだ。
　コラン・バーロに続いて、同様の突然変異体が生まれた。ガラス人間はすでに二世代にわたって、＜ソル＞内ではあたりまえの人類として通用している。アトランがこのダンベル船に帰ってきた3791年までに、バーロ人の数は4,651人にまで増え、くわえて、いわゆる〝半バーロ人〟も2,150人いた。これは、皮膚が部分的にガラス様になっている人間だ。　　（Ｐ19-20）
　このバーロ人は、保護外被であると共に酸素タンクである分厚い皮膚で体が蔽われているため、そのまま宇宙空間に一定時間出ることができます。しかし同時に、船内のような大気中にとどまると皮膚がどんどん分厚くなってしまうため、時々真空の宇宙空間に出る必要がある。
　このバーロ人たちが気力を失い、身体を動かすことさえ厭うようになっています。このままでは死んでしまう。
　このため、バーロ人を強制的に運びだし、一定時間船外に出す作業が行われた．．．のですが。なんと。
　怠惰がモットーのライター・ハスキーを始めとして、船内のソラナーがいっせいに労働意欲に溢れたスーパークリエイターになってしまい、船内で芸術活動、改造、新装置の設計、設備の分解破壊を行い始めたのでした。
　一体これは何が原因か。
　この現象に免疫のあるらしいアトランやジェルグ・ブレイスコルら少数は、どうすればいいのか。
　バーロ人たちは、どこへ行ってしまうのか。

　　1054 メンタル嵐
　こっちはローダンのターン。渋っていた＜バジス＞行きを宣言するところから始まります。
　深淵の騎士に叙任されるために出発するのですが、ライレの〝目〟を使えば一瞬で行けるのに、いつまでたっても行こうとしなかったもの。この叙任に大きな意味があり、叙任それ自体が大きなイベントであるらしいと言うことでなかなか踏ん切りがつかないらしい。
　他方、船内に12,260人の男女がいるにもかかわらず、船長の息子＜悪童オリー＞がうろちょろする少数のチームで運営される＜バジス＞では、なにやら問題が発生。
　意識を失いまったく活動停止した妻デメテルを心配するロワ・ダントンは、かつての宇宙海賊の王、ローダンの息子というヒーローの活躍も過去のもの、すっかりボケ男になっていますが、そのデメテルの棺に＜悪童オリー＞オリヴァー・ジャヴィアが赤いバラを捧げていた事を知って驚き。何が起きているのか。

　光の守護者テングリ・レトスとか惑星クーラトのエターナツェルとか、意味ありげな人物が登場しますが、どうもローダンの騎士叙任というイベント前の時間つぶしに見えちゃうのはなぜだろう？(笑)
アゼ＝ル＝リドー城（Azay-le-Rideau）

　あとがきにかえて　は、小津薫さん。
　夏が来るとご主人と共にN町の陶器祭りに行くという話からはじまり、馴染みの喫茶店にあるアゼ・ル・リドー城（右写真）に驚いた話から、かつてこの城を始めとするロワール川畔の古城を夢中で見て回ったこと。
　20になんなんとする城が、百年戦争終結後、ヴァロア朝の王たちによって1453年から約160年間の間に次々と建てられたこと、多種のその城のそれぞれの美しさ、ユニークさ。
　旅先で出会った親切なフランス人男性のこと。世話になった礼をしようとすると 「ジュ・スィ・フランセ」（わたしはフランス人です） といって断って去って行った誇り高い紳士。
　旅の良い思い出は、一生の楽しみになりますね。　　（2016/9/19）
ページのトップへ 　　Ver. 3.01　
管理番号：R400-528 10R 宇宙英雄ペリー・ローダン 528巻 出版社：早川書房
書名：プシオン性迷宮 ハヤカワ文庫SF2088　ウ1-478　早川文庫7836 ISBN978-4-15-012088-7　 C0197
1055 プシオン性迷宮 Das psionische Labyrinth H・G・エーヴェルス 1981/11/10 翻訳：渡辺広佐
1056 石の憲章 Die steinerne Charta ウィリアム・フォルツ 1981/11/17
　 価格：660Yen ページ数：288P 本のサイズ：文庫
初版発行：2016/9/15 購入：2016/9/9 表紙イラスト：工藤 稜(くどう・りょう)
ローダン528　「プシオン性迷宮」　　1055 プシオン性迷宮
　スター級巡洋艦＜アイノ・ウワノク＞にライレの〝目〟を使って現れたローダンから始まります。いきなり＜バジス＞が消えてしまい、パニックになっている艦内。＜バジス＞からは見えているのに、なぜこちらからは見ることができないのか。＜バジス＞は、プシオン性迷宮にいるということなのか。
　＜バジス＞の方では、ハミラー・チューブをなんとかして破壊し、船の制御を取りもどそうという動きが続いていますが、どうもうまく行かない。そんな中で、悪童オリー（Olli-Bolli）が行方不明に。この悪ガキ小僧が、この先人類になにかをもたらすことになるのか。
　レトス＝テラクドシャンと名乗ることとなったかつてのハトル人の生き残り、テングリ・レトスは、ローダンになにを与えたのか。
　「あなたを誇りに思いますよ、父上」　　（P141)
　と最後にローダンを讃えるロワ・ダントン。誇りに思う、というアメリカ的な表現も珍しいのだけど、ロワすなわちマイクル・レジナルド・ローダンが 「父上」 と呼ぶのは初耳かも。

　　1056 石の憲章
　ティリル麻痺（Tyrillische Lähmung）、という奇病に冒されて下半身が動かない少女から始まります。彼女の望みは、立って歩けるようになること。それだけ。
　彼女の父親はツァルク人のスケンツラン。ケスドシャン・ドームの管理人。徐々に死にゆく娘を気遣う小心もの。
　ローダンは、深淵の騎士の任命式のためケスドシャン・ドームに到着しますが、このスケンツランに案内させるのが不安。
　「あなたがたのお供をします」 とツァルク人はいう。「ドーム地下の丸天井の部屋に案内するという意味です」
　「地下のことにくわしいのか？」 ローダンがたずねる。
　「一度も行ったことはありません」 と、驚くべき答えが返ってきた。　
　「ばかな！」 ローダンは思わずいった。「われわれに必要なのは経験豊富な案内人だ。その件に関して式典マスターと話がしたい。べつの案内人をつけてもらう」
　スケンツランは不機嫌なまま、
　「ありがたい」 と、ぶつぶついう。「わたしはなにも、あなたがたと地下に行きたいわけではないですから。もっとも、けっして式典マスターを説得できやしないでしょう。ラダウトがわたしを担当に決めたわけで．．．． それはもう変わらないものと」　　（P177)
　なんだこれは、ギャグパートか？？

　まァこの回はローダンが正式に深淵の騎士になるあれやこれやなんですが、ストーンヘンジみたいな石の遺跡が地球上のあちこちにあった、フランス、ヨルダン、日本、ペルー、インドにもあった、これは偶然ではない、といったいまさら感ありありの後付け設定の話とか、無理に記憶する必要もなさそうなお話が展開して、無事に式典は終わります。（暴言失礼ｗ）
　でもって、自分の足はローダンの任命式についていけば治るはずだと勝手に思いこんで勝手についてきた少女は、いったいどうなったかというと、　　　　・・・・なにこの予定調和、と思うような展開。ふむ。

　深淵の騎士になったあなたには、ひとつですが願いをかなえてもらう事ができるのです、というお伽話のようなお話の結末は、はてどうなったのでしょうかねぇ。


　あとがきにかえて　は、渡辺広佐さん。
　「ジオラマの昭和の街や春ともし」 の句がNHK俳句の特選三句のひとつに選ばれた（521巻のあとがき）ネタの続き。佳作にも選ばれていたことを知って、雑誌 「NHK俳句」 を年間購読することにしたのだそうな。
　それと、6月19日に近くのテニスコートでアキレス腱を切ってしまった話。年を取るといろいろあるものです。　　（2016/10/10）

　読書メーターの記録より　　読了：2016/10/6　
ページのトップへ 　　Ver. 3.01　
管理番号：R400-529 10R 宇宙英雄ペリー・ローダン 529巻 出版社：早川書房
書名：難船者たち ハヤカワ文庫SF2089　ウ1-479　早川文庫7837 ISBN978-4-15-012089-4　 C0197
1057 難船者たち Die Gestrandeten H・G・フランシス 1981/11/24 翻訳：若松宣子
1058 M-3への進撃 Vorstoß nach M3 クルト・マール 1981/12/1
　 価格：660Yen ページ数：272P 本のサイズ：文庫
初版発行：2016/9/25 購入：2016/9/22 表紙イラスト：工藤 稜(くどう・りょう)
ローダン529　難船者たち　　1057 難船者たち
　セレスプラマー人（Ceresprammarer）は、壊滅の危機にありました。惑星セレスプラマーは三日後に小惑星軍に突入することが分かっており、その結果は火を見るより明らか。たった三人の乗船する宇宙船のみが、脱出できるかもしれない状態で航行しています。船長のトルーランプ、コミュニケーション技術者のコシャム、宇宙物理学者のカメラーム。
　しかしそのままではやはり先はない。彼らは、種族として始めて光速を越えるため、高速で回転しているブラックホールに接近し、事象の地平面の中で無限への入り口を見つけ、はるか彼方に転移しようと考えます。
ルックアウト・ステーション宇宙駅　原作が発刊されたのは1980年代前半です。この時代に、ブラックホールについての観測・研究が進み、こういう知識が一般的になってきたのでしょうか。この辺りの描写は、なかなか面白い。

　さて、イホ・トロトとブルーク・トーセンの、セト＝アポフィスの精神的奴隷になったり解放されたりの珍道中 （だって、いつまでも同じパターンが続くんだもの。それ以外にいいようがないじゃない？） の話がはさまって、再びセレスプラマー人。
　彼らがつかの間の超光速飛行を経て宇宙をさまよい、銀河系とアンドロメダ銀河の間の虚空にある宇宙駅、ルックアウト・ステーション周辺に到着します。
　三つの、直径35キロメートル、厚さ8キロメートルの円盤が中央の高さ46キロメートル、直径6.5キロメートルの塔を囲むこの巨大な構造体ですが、島の王との後装のとき重要な役割を果たしたものの、現在はわずかな要員が駐留するだけ。
　ここに着陸したセレスプラマー人は、始めて宇宙に乗り出した種族として他の知的生物との接触をすることとなります．．．　しかし彼らのファースト・コンタクトは無残な結果に。

　　1058 M-3への進撃
　ニッキ・フリッケルという元気な女性のシーンから始まります。NGZ425年5月。
　酒場で男たちと対等にやり合い、波瀾万丈の人生を送ってきたという彼女、ローダンものによく出てくる男をいいようにつかう美女でも可憐な壁の華でもない。こんな女性はティーパ・リオルダン以来、久しぶりじゃなかろうか。
M3星雲
　M3。りょうけん座にある球状星団。
　1764年シャルル・メシエによって発見される。地球からの距離は約33,900光年。およそ50万個の恒星からなり、直径は約180光年。年齢は80億年と推定される。NGC5272。
　たった今彼女は酒場で男どもを相手に、十日以内に自分が大規模な航行に出ることに500ギャラクス賭けたところ。

　ルナにあるハイパー・インポトロニクスの結晶である〝ネーサン〟と会話をしていたローダンは、ポルレイターの痕跡がM-3にあることを知ります。この50万個の恒星すべてを調べるのは不可能だとぶつぶついうローダンに、M-3と特定するだけでも大変だったのだ、とたしなめるネーサン。
　レジナルド・ブル、ジュリアン・ティフラーとの協議の結果、最新型の艦船からなる一艦隊と、充分な武装を持つ高速艦一隻の派遣が決まります。
　高速艦は、最新のスター級巡洋艦＜ダン・ピコット＞。艦長はマルチェロ・パンタリーニ。乗組員のひとりが、ニッキ・フリッケル。

　複合艦隊の旗艦は直径2500メートルの巨艦＜ラカル・ウールヴァ＞。麾下には、直径1500メートルの星雲級10隻、スター級が100隻、コグ船100隻。そして軽ハルク船50隻と重ハルク船20隻。旗艦艦長はブラッドリー・フォン・クサンテンですが、艦隊の指揮はロナルド・テケナーとジェニファー・ティロンが執ります。これがローダン自身が特殊部隊と共に乗船する＜ダン・ピコット＞をバックアップすることに。
　こうして、ポルレイターのシュプールを探す壮大な冒険が始まったのでした。

　この球状星団の中で奇妙なものが発見されます。
　「艦載コンピュータが導き出した唯一の説明は、二つのブラックホールをしめすものでした。それぞれ恒星50個ほどの質量をかかえ、1キロメートルもない距離にあって、たがいのまわりをめぐっています。ハイパーバリーでのエネルギー噴出は、修正したアインシュタイン公式で算出すると．．．」
　「どこがおもしろいのだ？」
　「自転です」 パンタリーニは表情を変えずに答えた。「それも、均一ではないのです。ときに片方がとまったかと思えば、ときにもう片方がとまります。両方が数分間同時にとまり、数ミリ秒後にまた動きはじめることもあります」
　ローダンは相手の思考力を疑うように凝視し、
　「ばかな！」 と、もらした。
　「まさに」 艦長が認める。「だから、おもしろいのです」　　（P172-173）

　さて、EMシェンと名づけられた高濃度の水素という大気に包まれた惑星で、彼らは何を見つけるのか。
　＜ダン・ピコット＞から発進する搭載艇＜カロライナ＞のパイロットは、ニッキ・フリッケル。グッキーを 「ローダンのウサギ」 と言ってのけたこの迫力ある女性が、ローダンになにをもたらしてくれるのか。EM海面と呼ばれる奇妙な生物は、テラナーになにを示すのか。
　モノリスと呼ばれた黒い巨大な岩石の正体は一体何なのか。


　あとがきにかえて　は、若松宣子さん。
　巨大ロボット脳ネーサンのこと。ドイツ語読みでナタン、あるいはナータン。旧約聖書に登場する預言者のひとりの名前で、晩年のダビデ王の暴虐を諫めたことで有名ですが、ドイツでナータンといえば、戯曲で有名な 『賢者ナータン』 なのだそうな。この話はまったく聞いたことがなかったので、ちょっと面白い。邦訳はないかな。
　ドイツ語のウィキペディア（2016年時点）でＮａｔｈａｎの項をみると、創作作品に登場するNathanは、この賢者ナータンとローダンシリーズのロボット脳ネーサンだけなのだそうな。たしかに。　　（2016/10/20）

　読書メーターの記録より　　読了：2016/10/18
前へ　宇宙英雄ローダン　520～529　先へ